切り札(4)
「悪魔」がニタリと笑う。
「ほお。志茂部君、それは本当かい?」
「嘘だ!! 死体の場所は、我しか知らぬ!!」
「本当です」
布瀬川校長が、勝ち誇った表情を見せる。
「志茂部君、君はお利口だ」
「シモベ君、なぜ……なぜなのだ……?」
「舞泉君、君が目の前でレイプされ、喘ぎ声を上げるのが、彼にはどうしても耐えられなかったのだろう。彼はよく分かってるよ」
「シモベ君、そんなどうでもよいことを……」
決してどうでもよくなどない。僕は舞泉さんに恋してしまっているのである。
「校長、今から死体がある場所……死体が埋まっている場所まで案内します」
「シモベ君!! いい加減にしろ!!」
「志茂部君、気が利くじゃないか」
その代わり、と僕は言う。
「死体が見つかったら、舞泉さんを解放してください」
「ほお」
「校長、舞泉さんは、今晩話したことを金輪際誰にも話しません。僕が責任を持って説得します」
「ふむふむ」
「ですから、死体と引き換えに舞泉さんを解放して欲しいんです」
布瀬川校長は、フッと笑った後、「よいだろう。その条件でいこう」と、僕の提案に同意する。
「シモベ君!! 冷静になれ!! 悪魔がそんな約束を守るはずないだろう!」
「舞泉さん、静かにして」
僕は、冷たく言う。
教祖様に歯向かうのは、これがはじめてである。
「交渉成立ですね。それでは、死体が埋まっている場所まで案内します。僕について来てください」
僕は、窓の外から見える物に目配せをしてから、ゆっくりと踵を返す。
そして、ガラス戸を開け、円形校舎の外に出る。
後ろから、布瀬川校長と、それに引き連れられた舞泉さんの足音が聞こえてくることを確認すると、僕は振り返らず、まっすぐに校庭へと進んでいく。
下手なことは喋るまいと黙っていたのだが、静寂の夜空の下、激しく鼓動する心臓の音が聞かれてしまわないか心配になった。
「おい!! シモベ君、一旦止まれ!! そして、我の話を聞け!!」
僕と同じようにしばらく黙って様子を見ていた舞泉さんが、また騒ぎ出す。
おそらく、僕が、実際に死体が埋まっている場所へと、バカ正直に歩を進めていることに気付いたのだ。
「シモベ君!! 我は君のことを見損なったぞ!!」
そのような言葉を背中で聞くのは、あまりにも辛かった。
しかし、振り返ってはならない。僕は、この先の展開に集中しなければならないのだ。
そして、ついに、死体が埋まっている校庭の隅へとたどり着く。
そこには、僕がスコップで掘り返した跡があり、周りと土の色が違うことは、仄かな月明かりの下でも明白だった。
「志茂部君、ここに死体が埋まっているのか?」
「はい」
「シモベ君!! やめろ!! 切り札を自ら捨てる気か!?」
切り札――そのとおりだ。
ここに埋まっている死体は、僕らが勝利を勝ち取るために必要不可欠な「切り札」なのである。
「土は柔らかいので、手でも掘れると思います」
舞泉さんを確保するのに手が埋まっている布瀬川校長は、案の定、僕に指示をする。
「志茂部君、君が手で掘り返してくれ」
僕は、考えるフリをして、夜空を見上げる。
そして、左手に手錠を持ち替えてから、「はい」と答える。
「シモベ君!! 勝手なことをするな!!」
たしかに勝手なことかもしれない。
しかし、これに賭けるしかないのだ。
舞泉さん、今だけはどうか、下僕である僕を信じて、僕に任せて欲しい。




