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切り札(2)

 舞泉さんによる、布瀬川校長の悪事の告発が、ようやく終わる。


 布瀬川校長によって、多くの女学生徒がレイプされた。


 そして、澪葉さんは望まぬ妊娠をさせられた。

 その上で、澪葉さんは、布瀬川校長にマインドコントロールをされ、精神を壊された挙句、念願だった子どもを殺されてしまった。


 水城先輩も、布瀬川校長に性的なおもちゃとして扱われた挙句、結果として命を失われ、死体までも蹂躙された。


 そして、舞泉さんも、布瀬川校長の毒牙にかかりかけていたというのだ。


 なんて恐ろしいのだろう。


 まさに、これらは悪魔の為したことである。

 

 布瀬川校長の悪魔的な肉欲が、これら全ての惨劇を産み落としたのである。



「舞泉君」


 元凶である布瀬川校長がゆっくりと口を開く。



「君の『処分』は決めたよ。君は今ここで殺す。君はあまりにも知り過ぎている」


 布瀬川校長は、バタフライナイフを逆手に持ち、その先端を、舞泉さんの首に突き立てる。舞泉さんの白いうなじから、一本の赤い線がツーッと流れる。



「布瀬川校長、やめてください!」


 舞泉さんが何も言わないので、代わりに僕が抗議をする。



「これ以上、罪を重ねないでください!」


「罪か……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


 目の前の「悪魔」がニヒルに笑う。



「シモベ君、悪魔に正論など通じぬ」


 舞泉さんの言うとおりだろう。



「シモベ君だけでもすぐにここから逃げるのだ。そして、安全なところで警察に通報をしろ」


「……そんなこと僕にはでき……」


「できないよな? 志茂部君? もしも君が逃げたら、舞泉君は即座に殺す。まさか大事なカノジョの断末魔を背中で聞きながら、敗走するわけにもいかないだろう?」


 布瀬川校長の言うとおりだ。僕がここから逃げることは、どう考えてもできない。僕は、舞泉さんを守るためにここに立っているのだ。



「悪魔、1つ言っておくが、我を殺しても、口封じをしても意味はないぞ」


「……どうしてだ?」


 「澪葉がいるからだ」と、舞泉さんは言う。



「澪葉……そういえば、澪葉はどこにいるんだ? 校内をほっつき歩いてるんじゃないのか?」


「澪葉は、我々が逃したのだ。今は、この高校から離れて安全なところにいる」


「ほお。それはまた余計なことを……」


 澪葉さんに逃げられてしまっていることは、布瀬川校長にとって予想外なことだっただろう。

 マインドコントロールを施した澪葉のことを、完全に「我が物」として考えているのだから。



「これから澪葉が警察に全てを話すだろう。ゆえに、我を殺しても口封じにはならぬ」


 舞泉さんは、そこまで考えて、布瀬川校長に対峙する前に、円形校舎に幽閉されていた澪葉さんを救い出したのだろうか。やはりクレバーである。



 「悪魔」は、今までで一番高らかに「アハハハハ」と笑う。


 追い詰められて自棄になったのかとも思ったのか、どうやらそうではないらしい。



「舞泉君、残念だが、澪葉は君が思っているように使える駒ではない。澪葉の居場所は、この円形校舎にしかないんだ。またすぐにここに戻ってくるだろう」


 それに、と布瀬川校長は続ける。



「澪葉は完全にイカれてるんだ。仮に警察に確保されたとしても、そんなイカれた人間の話、誰も信用しないだろう」


 布瀬川校長は、澪葉さんのことを舐めきっているのである。



「証拠を残さないようにやるのが、私の信念でね。澪葉が何を話そうと、それを裏付ける証拠が無ければ、それは『狂言』として扱われる」



 証拠がない――本当にそうだろうか?



「校長、たとえば、この円形校舎に人が暮らしていた痕跡があることとか、秘密の階段やエレベーターがあることは、証拠にならないんですか?」


「志茂部君、この高校の管理者は私だ。澪葉が通報してしまったこの前はさておき、今後は間違っても警察を校内に入れることなどないよ」


 完全なる私物化である。そのことまで考えて、布瀬川校長は、全ての犯行を千翔高校の内部で行っていたいたのだろう。



 悔しいが、「悪魔」を追い詰めることはこれ以上できないのかもしれない、と僕が心を折りかけたその時、高らかに笑う声がした。



 布瀬川校長の声ではない。


 舞泉さんが笑い出したのだ。



「フフフ。悪魔、証拠ならあるぞ」


 舞泉さんの考えは、布瀬川校長の考えの、さらに一手先にまで行っているのだ。



「……証拠? 一体何だ?」


()()()()()()()


――そうか。


 たしかに舞泉さんは、校庭に埋まっていた死体が「切り札」になるかもしれない、と言っていた。



「……子どもの死体というと、まさか澪葉が産み落とした……」


「もちろんそうだ。その死体は今、校舎のどこかにあり、じきに誰かに見つかるだろう」


 死体は埋め直したものの、舞泉さんの指示に従い、()()()()()()()()()()()()()()()()()



「そうすれば、警察を校舎内に入れないなどという悠長なことは言ってられぬよな」


 舞泉さんは不敵に笑う。



「その死体の存在は、澪葉の『証言』をハッキリと裏付けるのだ。しかも、その死体からは、悪魔が隠したくて仕方がない、悪魔のDNAが検出される」


「おい! その死体はどこにあるんだ!?」


 布瀬川校長は明らかに取り乱している。



「悪魔は知らぬのだな。死体がどこにあるのかを」


「……澪葉は、私に黙って産んで、私に報告しないまま、死体をどこかに隠したんだ」


 無論、澪葉さんに死体を「隠す」などという意図はなかったはずだ。


 澪葉さんは、布瀬川校長に邪魔される前に、自らの子を弔うために、手作りの棺を作り、埋葬したのである。




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― 新着の感想 ―
[一言] なるほど、そういう事だったのか切り札って(;゜Д゜)
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