黒夜(5)
「言うまでもないが、円形校舎の出入り口は1箇所しかない。テープで目張りされたガラス戸だ」
そのガラス戸は、ちょうど今、僕の背後にある。
「澪葉は、円形校舎内に先回りし、内側からガラス戸の鍵を閉めた。とはいえ、悪魔は、ガラス戸の鍵を持っているのだ。鍵を閉めるだけでは不十分だ」
布瀬川校長は、この学校の管理者であるし、円形校舎を私物化していることからも、当然、円形校舎の鍵は持っているのだろう。
「ゆえに、澪葉は、ガラス戸にへばり付き、悪魔が入って来ないようにしたのだ」
たしかにそうすれば、布瀬川校長は、水城先輩の身体を円形校舎内に運び込むことはできないだろう。
これから死体を隠そうとしているのだから、当然、円形校舎のガラス戸を割るわけにもいかない。
しかし――
「舞泉さん、円形校舎の入り口は、もう1つあるよね? 布瀬川校長は、地下のエレベーターから水城先輩の身体を運び込めなかったのかな?」
「それは不可能だ。なぜなら、そのためには1度中央校舎の最上階にある校長室まで行く必要があるが、秘密のエレベーター以外の校舎内のエレベーターには、監視カメラが仕掛けてあるからな」
「なるほど」
たしかに水城先輩の身体を抱えた状態で監視カメラに映るわけにはいかないだろう。
かといって、1階から7階まで、水城先輩を抱えながら階段を上るというのも、現実的ではない。運び終える前に、通報で駆けつけた救急隊員や警察に発見される可能性が高い。
「ゆえに、悪魔は、時雨の身体を円形校舎内に隠蔽することは諦めたのだ。そして、次の、まさに悪魔的な手段に出ることにしたのだ」
悪魔的な手段――まさか――
「悪魔が隠蔽したかったのは、時雨の身体そのものではなく、時雨のお腹の中にいる胎児だ。ゆえに、悪魔は、常に持ち歩いているナイフを使って、時雨の腹を裂き、胎児を取り出すことにしたのだ」
自分がレイプをした痕跡を消したい、という自己中心的な理由で、布瀬川校長は、水城先輩の身体を切り裂いたのである。
まさに悪魔的な所業だ。
「時雨が倒れていた位置は、ガラス戸で見張っている澪葉からは死角だった。そして、その時にはすでに時雨は息を引き取っていたのだろう。時雨が断末魔の叫びを上げるということもなかった。ゆえに、澪葉は、自分の見えていないところで、まさか時雨の腹が裂かれているとは考えもしなかったのだ」
実際に、澪葉さんは、今日僕たちに指摘されるまで、そのことを知らなかったのである。
澪葉さんがその光景を見ずに済んだのは、もしかすると不幸中の幸いだったのかもしれない、と思う。
「ところが、時雨は実際には妊娠をしておらぬから、お腹に胎児がいるはずもない。特に医学的知識のなかった悪魔は、臓器のうちのどれが子宮なのかも分からない。そこで悪魔は、とりあえず、それらしき臓器は全て抜き出し、校長室まで持ち帰ることにしたのだ」
ゆえに、水城先輩の臓器は、乱雑に抜き取られていたのか。
「校長室まで臓器を持ち帰った方法は分からぬが、おそらく、着ていたスーツか何かを袋代わりにしたのだろう。時雨の身体は階段で運べずとも、めぼしい臓器だけならば階段で運ぶことができたのだ。そして、臓器は、後日、適宜の方法で廃棄したのだろう」
僕らが日頃使っている校舎内でそのようなことが行われていただなんて、想像できないし、想像したくもなかった。
まさにそれは悪魔によってもたらされた黒夜だったのである。
「間違っても完結を来月には持ち越しません」
そんな威勢の良い言葉を吐いていたのですが、今日は5月31日。
今月中の完結ができなかったことを深くお詫びいたします。
完結ができなかったのは、サボっていたからではなく、予想以上に「解決編」が長引いているからです。
長引いても15万字だろうと思っていたのですが、この話で、18万字を突破しました。
これは間違いなく20万字突破コースですね。。はあ。。
目標を変えまして、日曜日(6月4日)の完結を目指します。。
できれば、ネトコンの締め切りまでに、もう1作長編を書きたかったのですが、諦めムードです。。はあ。。
ため息ばかり吐いている場合ではないですね。
ここまでで種明かしはほとんど済んだようでいて、まだまだ回収していない伏線がたくさんあります。悪魔退治もまだできていません。最後までお付き合いをいただけると幸いです。よろしくお願いいたします。




