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黒夜(3)

「……落書き? 何の話だ?」


 布瀬川校長が、ぼやくように問いかける。



「悪魔、お前が知る必要もない話だ」


 たしかに布瀬川校長が知る必要はないかもしれない。


 もっといえば、水城先輩が亡くなってしまった今、落書きによる「SOS」は、虚しいことに、もう意味をなさない。



「話が逸れたな。本題に入ろう。時雨が死んだ日の話だ」


 水城先輩が死んだ日――円形校舎の奇妙な構造が悲劇を生んだ、あの黒夜のことである。



「あの頃、ポップソング部に入っていた時雨は、部活動を引退して、大学受験に向けた準備に入っていた」


 そうだ。たしかに水城先輩が死んだのは、ポップソング部の打ち上げの翌日だった。



「時雨は、勉強もできたし、ピアノという芸も持っていたので、受験そのものには危機感を抱いていなかった。しかし、ここでもハードルとなったのは、経済面だ」


「経済面というのは、大学の受験料とか?」


「そうだ。シモベ君。大学の受験料もそうだし、初年度の学費もだ」


 たしか、大学の受験料は1校につき数万円、学費に関しては、私立大学だと年間で100万円以上かかると聞いたことがある。



「今通っている高校の学費については、時雨は、不本意ながらも、悪魔と寝ることによって何とかしてもらっていた。しかし、大学に支払うお金となると、そうはいかない」


 たしかにそうだ。水城先輩が遊園地で軽食を買うのを我慢しなければならぬほどに貧乏なのだとすれば、高額な受験料や学費は到底払えないだろう。



「そこで時雨は、一計を練った。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「強請るって……」


「中絶費用と慰謝料を払え、さもなくば、生まれる子の養育費を支払え、という感じだろうな」


 水城先輩の潔白なイメージからは想像がつかない。


 しかし、レジ窃盗の犯人も水城先輩だったのである。


 水城先輩には、僕が知らない一面があった。


 そして、家庭環境については分からないが、水城先輩の経済状況はそれほど逼迫していたのだ。



「時雨は、校長室に赴き、悪魔に対して、妊娠をした、と告げた。その時、澪葉が校長室のエレベーター内でそれを聞いていた」


「え!? 澪葉さんが?」


「たまたま悪魔に用事があり、円形校舎の地下室から、エレベーターで校長室に赴いたところだったのだろう。とにかく、澪葉は、時雨の『妊娠』について知ってしまったのだ」


 そして、と舞泉さんが続ける。



「時雨の虚偽の告白を受けた悪魔は、その日の夜遅くに、再び時雨に校長室に来るように伝えた。対策を考えるための時間稼ぎをしたのだ」


 おそらくロクな「対策」ではないのだろうとは想像がつく。

 水城先輩を脅して中絶を迫るか、もしくは、澪葉さんのようにマインドコントロールをするか、といったあたりだろう。



「他方、時雨が妊娠したと聞き、澪葉も、ある行動を起こすことにした」


「ある行動?」


「澪葉は、時雨に、()()()()()()()()()()()することにしたのだ」


「……え!?」


 信じがたい話である。



「……つまり、澪葉さんは、中絶に反対する立場だから、水城先輩にもその考えを押し付けようとしたということ?」


「それは少し違うな。澪葉は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



――それは一体どういうことなのか?



「先ほど言っただろう? 澪葉は、マインドコントロールによって、悪魔との子どもを産み育てることこそが自らの『使命』だと錯覚していたのだ」


 たしかに舞泉さんは、そのように言っていたが、しかし――



「水城先輩が妊娠したのは、当然、澪葉さんの子どもではないんだよね? それで良いの?」


「そうするほかない、と澪葉は考えていたのだろう。自らは早産で子どもを亡くし、もう悪魔は自分を抱いてくれないので、妊娠のチャンスはない」


 それに、と舞泉さんが続ける。



「澪葉の母親である顕子は、流産をきっかけに自然妊娠ができなくなってしまっている。澪葉も、同様に、今後自分が妊娠することはないのではないかと考えていた」


 澪葉さんのお母さんについては、たしかに梓沙からそのような説明があった。



「まあ、我もそれが正常な判断とは思わない。澪葉は、それくらいに狂った精神状態だったということだろう」


 こんなこと言うと失礼になるが、澪葉さんの子どもへの執着は、人間のレベルを超えてしまっている。


 まるで幽霊か、妖怪のようである。



「澪葉は、時雨に子どもを堕さないように説得するために、悪魔より先に、時雨と接触する必要があった。とはいえ、澪葉は『完全失踪』のために、スマホは捨ててしまっている」


 澪葉さんのスマホは、「入水自殺」の際に、靴と一緒に崖の上に置いてあったのである。



「そこで、澪葉は、画策した。その夜の、時雨と悪魔との待ち合わせを、自らとの待ち合わせに転用したのだ」


「待ち合わせを転用? どういう意味?」


「その日の夜、待ち合わせの少し前に、校長室で悪魔に睡眠薬を飲ませ、眠らせる。そして、校長室のドアに張り紙をしたのだ。『待ち合わせ場所を円形校舎4階に変更する』と」


 なるほど。たしかにその方法を使えば、張り紙を見た水城先輩は、待ち合わせ場所が変更されたと思い、円形校舎に向かうだろう。


 ただ――



「睡眠薬を飲ませた、って澪葉さんは睡眠薬を持っていたの?」


「おそらく校長室で見つけたのだろう。悪魔が、女学生を襲うために常備しているデートレイプドラッグを」


 澪葉さん自身が使われてしまった薬を、布瀬川校長に対して使い返した、ということのようだ。


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― 新着の感想 ―
[一言] なるほど。 こうして呼べたわけですね(;゜Д゜)
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