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悪魔(3)

「悪魔、お前の悪事は全てお見通しだ」


 この状況でも、舞泉さんは平然と言う。


 命が惜しい、という考えは、舞泉さんにはないのだろうか。



「ほお。全てお見通しとは……」


「お前は、昔から、指導に託けて女学生と2人きりのシチュエーションを作り、女学生に性暴力を加えていた」


「ほおほお」


「そして、そのための『根城』がこの円形校舎だったのだ。10年前に廃墟となったこの校舎を、お前は、増築したエレベーターによって校長室と繋ぎ、女学生との『密会』場所にしていたのだ」



 エレベーターの収まっている扇形は、外観上、他の壁よりも新しく、数年以内に増築されたものだった。


 舞泉さんによると、それは、布瀬川校長が、円形校舎を、女学生に性的な悪戯をするための場所として利用するためだという。



「そして、昨年、格好の餌食が、悪魔の張った罠に掛かったのだ。それが三枝澪葉だ」


「……澪葉のことも知っているのか」


「もちろんだ。澪葉は、お前に人生を狂わされた被害者の筆頭だ」


 たしか舞泉さんは、円形校舎に入る直前、澪葉さんに、「悪魔に操られていた」と言っていた。


 布瀬川校長は、澪葉さんに一体何をしたのか。



「澪葉は、バイト先のジャンゼリアで、レジのお金に手を出したとされた」


「舞泉さん、()()()ということは、実際には冤罪だったということ?」


 僕が、思わず質問を挟む。



「冤罪……そうだな。澪葉は、実際には、レジからお金を盗んではいない。その意味では冤罪だろう」


 舞泉さんの言葉には含みがあるようだが、とにかく、澪葉さんは無実だということらしい。僕は少しホッとする。



「とはいえ、澪葉にとって最大の不幸は、謂れなき罪を被されたことではない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」


 僕は、図書館で見た雑誌の記載を思い出す。



「澪葉は、校長室に呼び出され、噂では、休学を言い渡されていたという」。


 澪葉さんが休学処分となったのか、退学処分となったのかはどうでも良かったということになる。


 悪魔の待つ校長室に呼び出されてしまったことが、澪葉さんにとって致命的だったのだとすれば。



「容姿端麗な澪葉は、まさに飛んで火に入る夏の虫だっただろう。なあ、悪魔?」


「そうだな。それから、澪葉は家柄も良く、道徳心も強かった。最高に興奮したよ」


「それで、睡眠薬を飲ませ、眠ったところでエレベーターを使って円形校舎に運び込んだのだな?」


「当時は円形校舎にはベッドを置いてたからな。女の子も、どうせヤラレるならベッドの上の方が良いだろう?」


 最悪である。目の前の男は、正真正銘の悪魔だ。



「結果として、澪葉は、悪魔との子を妊娠した」


 澪葉が、家族を捨ててまで守りたいと願った子は、布瀬川校長にレイプされたことによって妊娠した子だったということなのか。



「普段は避妊するようにしているんだがな。あのときはあまりにも興奮して、付けるのを忘れてしまったんだ。許しておくれよ」


「悪魔に今更道義を問うつもりはない」


「辛辣だな。アハハハ……」


 舞泉さんに睨みつけられ、布瀬川校長は笑うのをやめる。



「続けるぞ。澪葉は、妊娠してしまったことを、率直に悪魔に相談した。そして、澪葉は、どうしてもお腹の子を産みたい、と言ったのだ」


 澪葉さんの想いは、先ほど聞いたとおりだ。


 澪葉さんは、孤児院でボランティアをしており、望まない妊娠で宿った命も、一つの命として大切に扱おうとしていた。



「あの時は焦ったよ。私には家族もいるし、社会的な地位もある。しかも、相手は女子高生だ。あまりにも体面が悪過ぎる」


「そういうことだけは気にするのだな。外道め」


 舞泉さんの言葉はあまりにもハッキリとし過ぎているが、ある意味痛快である。


 僕も思っていることを、そのまま口にしてくれる。



「とにかく、澪葉は、悪魔に相談をした。なぜ、憎むべきレイプ魔に相談せざるを得なかったのかといえば、澪葉が、家族を頼ることはできないと考えていたからだ」


 これも先ほど澪葉さんから聞いたとおりだ。妊娠について家族に知られれば、中絶を余儀なくされる、と澪葉さんは考えていた。



「そこで悪魔は提案したのだ。澪葉を失踪させ、自らの庇護の下、円形校舎に住まわすことを」


 いや、と舞泉さんは訂正する。



「『住まわす』というのは正確ではないな。軟禁、いや、監禁だ。澪葉は、千翔高校に閉じ込められ、出ることを禁じられていたのだから」


 千翔高校に監禁――それは一体どういう意味だろうか。



「澪葉の出産を手助けする条件として、悪魔は、澪葉の生存・妊娠が、誰にもバレないことを望んだ。そのために都合が良かったのが、自らが私物化する千翔高校への監禁だったのだ」


 舞泉さんの言ったことが、僕には腑に落ちなかった。



「舞泉さん、どうして? 千翔高校だと、澪葉さんを知っている人ばかりだから、むしろ監禁には向かないんじゃ……」


「シモベ君、逆だ。一歩外に出ると澪葉を知っている人ばかりであるがゆえに、監禁場所に相応しいのだ」


 どういう意味だろうか?



「通常の監禁と違い、今回は、監禁される者である澪葉も、生きている姿を誰にも見つかりたくないと考えている。ゆえに、澪葉と面識のある者を囲まれた場所に監禁しておけば、澪葉への監視は確実になるのだ」


「つまり、澪葉さんが、知人に見つかることに怯えて、迂闊に外に出られないということ?」


「そういうことだ。たとえば、別に物件を借りるなどして、澪葉を遠い地に軟禁すれば、澪葉が油断して外出する可能性がある。すると、澪葉の生存に気付く者も出てくるだろう。澪葉は、知る人ぞ知る存在だからな」


 たしかに、澪葉さんは、三枝証券の社長令嬢で、雑誌にも顔が出ている。


 テレビに出ている女優のように有名ではないが、顔を見てピンと来る人がいないとは限らない。



「他方で、澪葉の監禁場所を円形校舎とすれば、少なくとも澪葉は、学校のある日の日中は外出できない。外に出たら一発で見つかるからな」


「……ということは、休みの日は、澪葉さんは円形校舎から出ることができたの?」


「円形校舎からはな。ただし、千翔高校から外に出ることはできない。千翔高校の出入り口である4つの門には、全て監視カメラが設置してあるだろ?」


 「そうだね」と答えかけたところで、僕は引っ掛かる。たしか、監視カメラは――



「舞泉さん、監視カメラは、正門と西門にはあったけど、東門と南門にはなかったんじゃなかったっけ?」


 たしか舞泉さんはそう説明していたはずだ。

 ゆえに、水城先輩が死んだ当時、誰が校舎内にいたかを特定することはできない、と。



「シモベ君の言うとおり、東門と南門の監視カメラは機能していなかった。しかし、()()()()()()()()()()()()()。澪葉を監視する上では、それで十分だ」


 言われてみると、舞泉さんの話だと、東門と南門のカメラは、存在しないのではなく、故障している、ということであった。



「機能してないのに監視できるっていうのはどういう意味?」


「悪魔は、澪葉に対して、監視カメラが壊れているとは伝えていなかったのだ。ゆえに、澪葉は当然に学校の出入り口全てに監視カメラがあり、自分は見張られていると思い込んでいた。悪魔がそう思い込ませた。だから、澪葉は千翔高校から出られないのだ」


 それだと文字どおり千翔高校内での「監禁」である。物理的には抜け道はあったのかもしれなかったが、心理的には澪葉さんは完全に閉じ込められていたのだ。



「でも、舞泉さん、どうして澪葉さんは、そんな劣悪な条件を呑まなきゃいけなかったの? 澪葉さんはお金持ちだし、布瀬川校長の助けを得ずとも、自分で物件を借りて失踪できたはずじゃ……」


「シモベ君、澪葉の実家は金持ちであることで間違いないが、澪葉自身はただの女子高生だ。資産は持っていない」


 それに、と舞泉さんは続ける。



「澪葉は、自分のわがままのために、親の金に手を付けるわけにもいかないと考えていたのだろう。もちろん、親の金に手を付けるとそこから足がつく可能性があることも考えただろうな。『完全失踪』は生半可な覚悟ではできぬ」


 ゆえに、澪葉さんは、最低限自分を養える程度の資金力のある庇護者を必要としたということらしい。


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[一言] まさに外道よ(# ゜Д゜)
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