拿捕
舞泉さんが背後に引き連れている人物――
それは、千翔高校の校長である布瀬川鈴人であった。
トレードマークのオールバックの髪型と、仕立ての良い白いワイシャツと、ベージュのスラックスが月明かりに照らされている。
見間違いようがない。布瀬川校長だ。
まさか、布瀬川校長が「悪魔」であるというのか――
僕が驚愕のあまり動けずにいると、舞泉さんが、僕のいる階段下のスペースに目配せをする。
「早く手錠を掛けろ」というメッセージだろう。
目配せというよりも、僕に向けられたのは、ほぼ睨みつけるに近い、鋭い目だ。
「舞泉君、照明をつけてくれないか?」
少ししわがれた声は、言うまでもなく、布瀬川校長のものだ。
「うぬ。少し待ってくれ」
舞泉さんが、螺旋階段の入り口手前にある、照明のスイッチの方にゆっくりと歩み出す。
布瀬川校長は、舞泉さんの背後にピッタリついている。
舞泉さんが、もう一度僕を睨みつける。
舞泉さんの心の声が聞こえる。
「シモベ君、何をモタモタしているのだ。早く悪魔を拿捕するのだ」
僕も分かっている。暗闇に乗ずるならば、チャンスは今しかないと。
布瀬川校長が本当に「悪魔」なのかどうかを確かめるのは、拿捕した後でも構わない。
緊張で震える身体をそのままに、僕は、布瀬川校長の背後に飛び出す。
僕の気配に気が付き、布瀬川校長が、背後を振り返る。
布瀬川校長の首がこちらを向き切る前に、僕は、左手で、布瀬川校長の左腕を強く掴む。
「うおっ!?」
暗闇の中、背後からの突然の襲撃に、布瀬川校長は呻き声を上げる。
早く手錠を掛けなければ。
早く――
僕は、右手に持っていた手錠を、左手で掴んだ布瀬川校長の手首に強く当てる。
輪っかの開いた部分が、布瀬川校長の手首を捉え――
――たかと思ったのだが、わずかに標的をズレ、手錠は手首に嵌まらなかった。
「おい! 君は一体何をしようとしているんだ!」
最初のチャンスは逃してしまった。
しかし、まだチャンスはある。
布瀬川校長の左腕は掴んだままだ。
今度こそは、的確に手首を捉えるのだ。
今度こそは――
その時、月明かりを反射し、キラリと輝くものが、手錠以外にももう1つ見えた。
布瀬川校長が、スーツのズボンのポケットから、何かを取り出したのである。
銀色に鋭く光るそれは――
バタフライナイフである。
切られる――
――ダメだ。恐れてはならない。
僕は、恐怖心を捨て、「使命」に徹しなければならないのだ。
僕の「使命」は――
「おい! シモベ君、何をやっているのだ! 動きを止めるな」
舞泉さんが叫ぶ。
しかし、僕は静止したまま、これ以上動くことはできない。
なぜならば――
布瀬川校長のバタフライナイフの刃先は、僕ではなく、僕が守らなければならない、舞泉さんに向いていたからである。
戦闘シーン……のようなものです。
ミステリーを書くのは難しい、と言う方もいますが、僕からすると、基本的に戦闘シーンを書かなくて良いので、ミステリーの方が書きやすいと思います。。




