救出(2)
今度は、円形校舎に灯されていた明かりが1つずつ消えていく。
まずは6階の明かりが消え、5階、4階、3階、2階と順に暗くなっていく。
そして、ついに1階の明かりが消え、円形校舎から漏れる光がなくなる。
ガチャリ――
鍵が開けられる音。
出入り口の、黒いテープで覆われたガラス戸が開けられる。
「澪葉さん!」
ようやく触れられる距離に現れた澪葉さんに、石月さんが、駆け寄り、抱きつく。
「小百合ちゃん……」
澪葉さんが、枯れ枝のような細い腕を、石月さんの背中に回す。
円形校舎の窓を見上げた時は、本当に幽霊のように見えたが、こうして同じ目線の高さから見てみると、やはり生身の人間であることが分かる。
澪葉さんも、僕らと同じ高校生だ。
その存在を身近に感じることができた。
「澪葉さんが生きていて本当に良かったです! 宮古島の別邸でお祝いをしましょうね!」
石月家の別邸は、南国のリゾート地にもあるらしい。
「澪葉ちゃ……わあっ!」
僕が出した足に躓き、貴矢が顔面から転ぶ。
石月さんのように、澪葉さんに抱きつかせるわけにはいかない、という僕の咄嗟の判断だ。
「あ……」
石月さんが抱きしめていた身体を離すと、澪葉さんは、フラリとよろめいた。
その様子に気付いた石月さんが、すかさず澪葉さんの身体を支える。
「澪葉さん、大丈夫ですか!」
「……大丈夫。少しだけ立ち眩みをしただけで……」
澪葉さんが、微笑んでみせる。
これが強がりに過ぎないことは、誰にだって分かる。
「澪葉にはしばらく休養が必要だろうな」
舞泉さんの言うとおりだろう。
舞泉さんが、貴矢と石月さんに指示する。
「貴矢、小百合、澪葉を千翔高校の外に連れ出し、適当な場所で休ませてやれ!」
「ミト様、了解!」
「学校のすぐ近くにも別邸がありますので!」
澪葉さんも、弱りきっていることは自覚しているのだろう。
「ごめんね。ありがとう」と、石月さんの胸に身体を委ねる。
「澪葉、これからも決して自分を責めるなよ」
舞泉さんが、餞別の言葉を送る。
「澪葉は、悪魔に操られていただけなのだから」
「悪魔……」
「そう。全ての元凶は悪魔なのだ」
舞泉さんは、「悪魔退治」をする、と言って、今晩学校に居残り、僕らを引き連れて円形校舎に向かった。
とはいえ、澪葉さんが悪魔の正体ではないことは、今回の舞泉さんの発言からしても明白である。
退治すべき悪魔は、澪葉さんではなく、澪葉さんを「操っていた」者だということだ。
そして、水城先輩の死体から内臓を抜き取ったのも、この悪魔なのである。
「我とシモベ君は、これから悪魔を退治する」
「悪魔を退治するって、美都ちゃん、もしかして……」
「まあ、澪葉は気にせずここを離れ、休んでいてくれ。ここから先は、我とシモベ君に任せるのだ」
どうやら、本番はこれからということのようだ。
澪葉さんが降りて来てくれたことで安堵し、緩んでいた気持ちを、僕はまた奮い立たせる。
「それでは、シモベ君、我々は円形校舎の中に向かうぞ!」
やはり悪魔は円形校舎に棲んでいるということなのか。
とはいえ、円形校舎の明かりは完全に消え切っている。
そんなところに本当に悪魔は潜んでいるのか。
僕が立ち止まって考えているうちに、すでに、舞泉さんは、出入り口のガラス戸に手を掛けていた。
そして、澪葉さんが内側から鍵を開けてくれたガラス戸を、迷いなく開け放つ。
「ほら、シモベ君、早く行くぞ!」
「……了解」
僕は大きな一歩を踏み出す。
悪魔は怖い。
ただ、悪魔が怖い存在だからこそ、僕は行かなければならない。
この学校に棲む凶悪な悪魔から舞泉さんを守ること。
それが下僕である僕の役割であり、「使命」なのだ。
仕事で空き時間ができると、気付くとゲーセンにいて、気付くとデスクの上に不要なぬいぐるみが増えてるのはなぜですか?




