偽装(1)
澪葉さんが身を眩ませなければならなかった事情については、完全に理解できたわけではないが、なんとなくは理解できた。
しかし、僕の頭の中は、まだフワフワしている。
澪葉さんの話は理解できたとしても、そもそも、現実を飲み込めていない。
澪葉さんは、どのように「入水自殺」を偽装したのか――それが少しも分からなかったのである。
舞泉さんは、僕とは違い、おそらく自力でその真相に辿り着いている。
僕には、舞泉さんのように優れた勘や推理力はない。
ゆえに、頭上にいる本人に訊くしかないのだ。
「……澪葉さん、一体どうやって入水自殺を偽装したんですか?」
「志茂部君……だっけ? そんなことが気になるの……?」
「……はい。とても」
澪葉さんにとってはすでに過ぎたことで、しかも、実際に自殺を決行しようとしている今では、もう関心がないことなのかもしれない。
ただ、僕にはどうしても気になってしまう。
遺書は偽造したということになるだろう。
遺留品として崖の上に残されているスマホや靴、さらには岩礁で見つかった制服のボタンも偽装工作に違いない。
ただ――
「澪葉さんが崖から海に飛び込むところを目撃していた者がいるんです。だから、澪葉さんがどういう手段を使ったのか、僕にはサッパリ分からなくて」
雑誌でインタビューを受けていた目撃者は、一体どう「偽装」できるのだろうか。
図書館で舞泉さんも指摘したとおり、「会社員B」は、澪葉さんと何の接点も持っていない。
嘘の証言をするインセンティブが皆無なのである。
「まさか、目撃者をお金で買収したんですか?」
澪葉さんは、首を横に振る。
「違うよ。そんなことしたら、父にすぐに調べられちゃうから」
應介は財界のトップ層にいる人物だ。
警察にも影響力を持っているかもしれないし、大金を使って私立探偵に調べさせることもできるだろう。
そして、「会社員B」が誰かを特定すれば、真実を吐かせるのは容易だ。
仮に澪葉がお金で証人を買収したのであれば、更に大金を積めば良い。
「じゃあ、一体どうやって?」
「祥子のやり方を真似たんだろう?」
そう答えたのは、澪葉さんではなく、舞泉さんだった。
「ご名答」と澪葉さんが拍手する。
やはり舞泉さんは、自力で真相に辿り着いていたのである。
「さすが美都ちゃん。というか、祥子のことは知ってるんだ」
「ああ。友達だ」
「ちょっと待って。舞泉さん、祥子さんのやり方って一体どういうこと?」
「シモベ君、そんなの決まってるではないか」
「そんなの決まってる」と舞泉さんは言うものの、僕が祥子さんに対して抱いているイメージは、「捉えどころのない」というものなのだ。何か決まったやり方などあっただろうか。
「ドローンとスクリーンだ」
舞泉さんがそう指摘する。
「ああ!」
たしかに祥子さんは、ドローンとスクリーンを使う人だ。ただ――
「どういうこと? 澪葉さんも、ドローンとスクリーンを使ったということ? どうやって?」
「簡単な話だ。会社員Bが見た澪葉は、本物の澪葉ではなく、ドローンに吊り下げられたスクリーンに映された澪葉の映像だったのだ」




