決行(2)
「で……出たあ!」
僕は腰が砕け、その場で尻餅をつく。
「シモベ君、落ち着け! あれは幽霊ではない」
「いや、で、でも……」
舞泉さんは、霊魂の存在を否定しているからそうやって言うのかもしれないが、窓の向こうの人物は、僕には、幽霊にしか見えなかった。
生気が全く感じられないのである。
着ている白いワンピースも、ところどころ黒ずんでいて、ボロボロだ。
「シモベ君、あれは幽霊ではない。あれは――」
舞泉さんが言う。
「あれは生きた三枝澪葉だ」
澪葉さんは生きていた――舞泉さんはそう言ったのだ。
しかし、そんなの信じられるはずがない。
「舞泉さん、澪葉さんは死んだはずじゃ……」
澪葉さんは、入水自殺をしたのである。
目撃者だっているし、遺書だってある。
たしかに死体は見つかっていなかったが、かといって、生きている姿も誰も見ていない。
それに――
窓の向こうの人物には、容姿端麗な少女の面影など、一切ないのである。
百歩譲って、その人物が生者だとしても、老婆のようにしか見えない。
頬は削げるように痩せこけ、目も窪んでしまっている。肌の血色も、あまりにも悪いのである。
「……あれが澪葉さんなのですか? 信じられません……」
石月さんは、姉である祥子さんの友人であった澪葉さんと面識があるのだ。
その石月さんですら、澪葉さんには見えないと言うのである。
「澪葉は、円形校舎の中でずっと生きていたのだ。当然、見た目にも影響するだろう」
円形校舎の中でずっと生きていた――廃墟の中で長く暮らしていた結果が、あのような姿だというのか。
というか、円形校舎の中で生きていたとは一体どういうことなのか。
なぜ日本を代表する証券会社の社長令嬢が、身をやつしてまで、廃墟の中で暮らさねばならぬのか。
そんな奇妙奇天烈な話、僕には受け入れられない。
しかし、舞泉さんが「三枝澪葉」と呼んだ人物は、明らかに、今、実在している。
折れそうなくらいに細い腕を窓に伸ばし、鍵を開け、窓を開ける。
そして、焦点の合わない目で、窓の向こうの中空を見ている。
その真下にいる僕らには気付かない。
まるで別次元にいるかのように、目線が一向に合わないのである。
「澪葉!」
舞泉さんが大声で呼び掛けて、ようやく、円形校舎の人物が反応する。
「……何? あなたたち誰?」
夜深くの静まった場所でなければ、決して通らなかったであろう、か細く弱々しい声。
舞泉さんが、「澪葉!」と呼び掛けて反応したということは、やはりこの人物を澪葉さんと考えて良いのだろう。
澪葉さんは、「あなたたち誰?」とは質問したものの、僕らのことにはあまり関心がなさそうである。
すぐに目線を外し、また、中空をぼんやり見つめる。
「澪葉、バカなことを考えるな!」
舞泉さんがまた叫ぶ。
「……バカなこと?」
「今からしようとしていることだ! それを止めろ!」
澪葉さんが今からしようとしていること、それは僕にも何となく察しが付いた。
窓から飛び降りようとしているのである。自らの命を絶とうとしているのだ。
生気のなさが感じられないのには、きっとそういう理由もあるのだ。
「……あなた、お名前は?」
「舞泉美都という。隣にいるのがシモベ君で、その隣が貴矢、その隣が小百合だ」
「小百合……もしかして、石月小百合ちゃん?」
「そうです。澪葉さん、お久しぶりです」
石月さんが、恭しく頭を下げる。
「懐かしいね……祥子は元気にしてる?」
「はい。とても元気です」
「良かった。祥子によろしく伝えておいてね」
「はい」
「それから、可愛い子ちゃんは、こんな時間に外に出歩いちゃダメだよ」
それから、と澪葉さんは続ける。
「みんな、そこをどいてくれないかな? 巻き込まれたくないでしょ」
やはり澪葉さんは飛び降り自殺を図るつもりなのだ。
「私と違って、みんなには未来があるんだから」
澪葉さんは、そう言って、悲しげに微笑む。
「澪葉、早まるな! 澪葉が死ぬ必要なんてどこにもないのだ!」
「美都ちゃん……だっけ? とても優しいのね」
でも、と澪葉さんが付け加える。
「美都ちゃん、何も知らないのに、無責任なこと言わないでね」
澪葉さんはもう一度微笑んでみせたが、その笑顔はすぐに崩れる。
「私はもう死ぬしかないの。いや、もっと早く死ぬべきだった」
澪葉さんの頬を、大筋の涙が伝う。
「だって、私、大事な人を殺しちゃったの。1人のみならず2人もね」
福岡旅行2日目ですが、1人での自由行動時間を1時間ほど手に入れましたので、迷わずに、天神に行きました。
アーティストのYUI(FLOWER FLOWER)の聖地巡礼目的です。
初めて好きになった女性タレント(アーティスト)であり、僕の青春です。高校生の頃は、イントロの最初の1音を聴くだけでどの曲か分かるくらいにはキモヲタでした。
聖地ど真ん中である、YUIがストリートでやっていた天神駅の出口で写真を撮りまくり、サインが飾ってあるCDショップなどにも行きました。
通っていたラーメン屋は、死ぬほど並んでいたので泣く泣く諦めました。
死ぬまでに福岡に行けて良かったです。




