決行(1)
夏の、日の長い時期であったが、気が付くと夕陽は沈み、外は真っ暗となった。
時計を見ると、もうそろそろ22時である。
校舎内で明かりがついているのは、おそらく、今僕らがいる1年J組の教室のみだ。
あっという間に時間が経ったのは、間違いなく貴矢と石月さんのおかげだ。
貴矢の持ち込んでいたトランプで、ババ抜きや大富豪をやりながら、石月さんの持ち込んでいたポテチやチョコレートを摘んでいるうちに、もうこんな時間なのである。
僕はうっかり悪魔退治のことを忘れかけていたが、舞泉さんはその点はしっかりしていて、常時、窓の向こうの円形校舎の様子をチラチラ伺っていた。
そして、「遅いな……」とか「まだか」とかぶつくさ呟いていた。
「よし! 来たぞ!」
と、舞泉さんが声を上げたのは、ちょうど4人でポーカーをやっていた最中である。
僕は、舞泉さんがどんな役を揃えたのかと思ったのだが、舞泉さんは手札を放りなげ、窓の外を指差した。
舞泉さんが何を言いたいのかはすぐに分かった。
円形校舎の1階の電気が点いているのである。出入り口のガラス戸は目張りされているが、テープの隙間から光が漏れている。
「いよいよ始まりか」
貴矢も手札を床に置き、肩をグルグルと回す。
「ついに今から円形校舎に行くんですね……」
石月さんが、手札で口を覆いながら言う。
こちらは、少し不安げな様子である。
そのことを、舞泉さんが敏感に読み取る。
「小百合はここで待ってるか?」
「……いいえ。みんなについて行きます」
「本当に大丈夫か?」
「……大丈夫です! みんなで力を合わせれば何でもできます!」
石月さんが、若干ぎこちないながらも、笑顔を作る。
「うむ。ただし、無理はするなよ」
舞泉さんが優しい一面を見せる。
気付くと、円形校舎の2階の明かりも灯されていた。
1階も2階も電気の点いた状態となっている。
「シモベ君、急ごう!」
「……り、了解」
実は、石月さん以上に怯えているのは僕だ。
何があっても動じない舞泉さんとは違い、僕は小心者である。
ハッキリ言って、悪魔も怖いし、幽霊も怖い。
これから決行する悪魔退治の中で、僕らの誰かが殺されることもあるのではないか、と内心ビクビクしている。
現に、水城先輩は、あんなに残虐な方法で命を奪われているのであるのだから。
「シモベ君、何をボーッとしてるのだ!? 時間がないのだ! 早く、円形校舎まで行くぞ!」
「……は、はい」
円形校舎の明かりは、すでに3階まで灯っている。
円形校舎が、下から上に徐々にライトアップされていくことに、どんな意味があるのかは分からない。
ただ、舞泉さんの焦る様子からするに、全ての階の電気が点くと何かが起こるということかもしれない。
「シモベ君、早く!」
すでに、舞泉さんだけでなく、貴矢と石月さんも、廊下に出ている。
僕だけが出遅れているのだ。
僕だけが覚悟ができていないのだ。
――そんなのではダメだ。
僕は、自分の脚を平手で叩いて、小刻みな震えをなんとか止める。
そして、3人の待つ廊下に出る。
石月さんの言うとおり、みんなで力を合わせれば何とかなるはずだ、自分に言い聞かせる。
「行くぞ!」
舞泉さんの掛け声を号令に、僕らは廊下を全力で駆ける。
「廊下は走るな!」と注意してくる教師は、当然にいない。
そして、渡り廊下に出て、そのまま、外履に履き替えることもないまま、コンクリートの地面に踏み出す。
円形校舎を見上げると、すでに電気は5階まで点いている。
まだ暗いのは6階だけだ。
6階まで明かりが灯ると、どうなってしまうのか――
「みんな、円形校舎の南側へ行くぞ!」
南側というと、ちょうど水城先輩の死体が落ちていた場所である。
果たしてそこで何が起こるのか――
見当もつかなかったが、舞泉さんの指示に従うしかない。
「分かった!」
と、僕は舞泉さんの背中を追う。
貴矢と石月さんも、同様についてくる。
ついに、円形校舎の明かりが、1階から6階まで全て灯る。
間も無くして、僕らは円形校舎に辿り着く。
「みんな、6階の窓を見るのだ!」
「分かった!」
ここも舞泉さんの指示に従うほかない。
僕は顔を上げる。
6階の窓のカーテンが開いている。
そして、人影が見える。
その人影は――
「円形校舎の幽霊……」
僕は思わずそう呟く。
それは、東海林先輩が言っていた特徴どおりの、青褪めた顔をした女性だった。




