手錠(3)
「……ところで、貴矢と石月さんは、何しに教室に戻って来たの?」
この悪い流れを断ち切るために、僕は大きく話題を転換する。
「実は、探し物をしてるんだ」
と貴矢が答える。
「教室に落とした可能性もあるかなと思ってて。遼かミト様、この教室に何か落ちてなかったか?」
「これか?」
舞泉さんが、教壇の下のスペースから、ひょいと手錠を取り出す。
「そう! それだ! それ! ミト様ありがとう!」
「待て」
舞泉さんから手錠を受け取ろうと伸びてきた貴矢の腕を、僕はすかさず掴む。
「貴矢、その手錠は何だ? なぜ学校に手錠を持ち込んでるんだ? 一体何に使うつもりなんだ?」
「遼、そんなに問い詰めないでくれよ……」
詰問しないわけにはいかない。
だって、明らかに犯罪臭がするから。
「遼は誤解してるぜ」
「何が誤解だって? 長い付き合いだから、貴矢が手錠を使って何をしようとしてるかくらい察しがつくよ!」
「違う違う。そうじゃない。手錠を学校に持ってきたのは俺じゃなくて、小百合ちゃんなんだ」
「苦しい言い逃れはやめろ」
僕は、貴矢の腕を掴んでいる手に力を加える。
「いててて」
「志茂部君! 野々原君の腕を離してあげてください! 野々原君の言うとおりですから!」
……え?
石月さんの申告に、自然と手から力が抜け、貴矢が解放される。
「……本当に石月さんの手錠なの?」
「はい! そうです!」
なぜ石月さんが手錠を学校に持ち込んでいるのか? 石月さんと手錠――あってはならない組み合わせである。
まさか――
「貴矢! 石月さんに何を教えたんだ!?」
「おいおい、遼、一体何を変な想像をしてるんだ?」
「長い付き合いだから、貴矢の変なことを考えてることくらい、容易に想像できるよ!」
「それが変な想像なんだ! 俺はそういうプレイには興味はないから!」
言い逃れしようとする貴矢は放っておいて、僕は、石月さんに警告を発する。
「石月さん! 貴矢に騙されてるよ!」
「あのお、志茂部君、えーっと……」
「これ以上貴矢と関わってたらダメだ! 不幸になる!」
「遼、冷静になって聞いてくれ。俺は全然関係ないんだ。小百合ちゃんが手錠を持ってきてたこともさっき知ったばかりで……」
「口八丁め!」
「さっきから梓沙が乗り移ってるぞ!?」
僕がついに貴矢を殴りかかろうとしたところで、石月さんが2人の間に身を投げ出す。
「志茂部君、やめてください。野々原君の言うとおりです!」
「……へ?」
またも力が抜ける。
「私は部活終わりに野々原君にLINEをして、一緒に手錠を探してくれるようにお願いしただけなんです。手錠は、姉に渡されたものなんです」
「……え? 姉? 祥子さん?」
「はい。美都さんに渡すように、と言われて預かった物なんです」
とすると、この手錠は、祥子さんから舞泉さんへのプレゼントということ?
結果として、舞泉さんの手に渡っていたのは正解だったらしいが、一体何のために……?
「なるほど。祥子がくれた物か」
「舞泉さん、納得してるけど、心当たりはあるの?」
「もちろん悪魔退治のためだろう。祥子は、悪魔退治がそろそろ迫ってることを予感して、我に、悪魔を拿捕するための手錠を託したのだ」
「はい。姉はそのようなことを言っていました」
舞泉さんが、拾った手錠を悪魔退治に用いろうとしていたことも、結果として正解だったということか。
舞泉さんは、まるでヌンチャクのように、手錠をブルンブルンと回している。
「祥子には感謝しなければな」
「ちょっと待ってくれ」
貴矢が口を挟む。
「ミト様と遼は、これから悪魔退治をするつもりなのか?」
舞泉がどう答えるのか気になるところだったが、ここも舞泉さんらしく、「ああ。そうだ」と素直に答えた。
「なんだか楽しそうだな! 俺も仲間に入れてくれよ!」
「私もみんなにご一緒したいです!」
貴矢と石月さんは、おそらく悪魔退治を、肝試し程度にしか思っていないのだろう。
そんな2人を巻き込んでしまうことに、僕には抵抗があったが、舞泉さんは「もちろん良いぞ」とおともの増加を承諾した。
「ただし、悪魔が現れるまで、まだまだ時間があるぞ。小百合、貴矢、それまでこの教室で待てるか?」
「もちろん待てるさ! トランプを持ってきてるから、みんなで遊ぼうぜ!」
貴矢は、手錠は持ってきてなかったものの、別の余計な物は学校に持ち込んでいるようだ。
「私、学校にお菓子を持ってきてます! 今カバンから出しますね!」
石月さんも、完全にお泊まり会モードである。
悪魔退治を控えた者たちの態度として相応しくないのかもしれないが、2人のおかげで、悪魔が現れるまでの時間、退屈しないで済みそうだ。
今日から3日間福岡にビジネストリップ兼家族旅行に出掛けます。
執筆のほとんどが移動時間中なので、移動中に子どもが騒いでいれば更新頻度は下がり、寝ていれば更新頻度は上がります。
何卒よろしくお願いします。




