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贖罪(3)

 結局、5月3日のことを貴矢に思い出させることはマストなのである。



「何も覚えて……痛っ! 遼、何するんだ!?」


 張本人の貴矢は少しも使えない。


 なんとかして「取り巻き」の僕が答えを見つけるのだ。



「えーっと、たしか梓沙の誕生日って……」


「10月8日よ」


 5月3日ではなかった。貴矢が誕生日を忘れた、というわけではないらしい。



「貴矢が、梓沙のことを、間違えて別の女性の名前で呼んだとか……」


「そんなことがあったら、とっくにリボンで締め殺してるわ」


 これも違う。



「貴矢が、梓沙以外の女性のことを『可愛い』って言ったとか……」


「クラブで殴り殺す」


 これも違う。

 そして、梓沙は、新体操の優雅なイメージを覆す発言を繰り返している。



「さっきから取り巻き君が喋ってばかりで、貴矢は黙ってるだけじゃない。一体どういうつもり? 貴矢、その土下座はポーズなの?」


 文字どおりの「ポーズ」でしかないのだが、貴矢は、「違う」と答えた。



「……正直に言おう。梓沙、俺はずっと謝りたかったんだ」


「何を謝りたかったのかしら?」


「……実は、俺は、梓沙と付き合ってた1ヶ月間、ほとんど記憶がないんだ」


 貴矢は、本当に正直に白状した。

 果たしてそれが得策なのかどうかは僕には分からない。



「はあ!? 何言ってんの!? 私と付き合ってた期間は、記憶喪失で、無かったことにしたいわけ? 本当に最悪ね!!」


「違う!! 梓沙、聞いてくれ!!」


「私と付き合ってたのは、消し去りたい黒歴史ってことでしょ!!」


「違う!! だから、ちゃんと聞いてくれ!! 俺が梓沙と付き合ってた1ヶ月間はな……」


 貴矢が、そこで言葉を区切る。


 そして、頬が引きつらせ、言いにくそうに言う。



「……俺はずっとお腹が痛かったんだ。盲腸が痛んでな」


 それは親友である僕も初めて聞いた事実である。

 中学生時代に貴矢が虫垂炎を患っていただなんて!



「正直、人生で一番辛い時期だった。思い出したくないくらいに。でも、それは、決して梓沙のせいじゃない。盲腸のせいなんだ」


「……どうせそれも口八丁の言い訳でしょ?」


「違う! 本当に辛かったんだ! GW中に手術をして、盲腸を除去するまで!」


 本当に知らなかった。

 貴矢が、親友にもバレないようにこっそり盲腸の手術をしていただなんて!



「……まさか、それで5月3日の新体操の大会に来れなかったって言いたいわけ?」


 梓沙の口から、ついに答えが明かされる。


 2年前の5月3日にした貴矢の「酷い仕打ち」の正体は、梓沙が出場する新体操の大会の応援に行かなかったことだったのだ。


 第三者の僕がこんなこと言うのも難であるが、たかが「それだけ」のことだったのである。



「……梓沙、今ハッキリと思い出したよ。俺は梓沙がレオタードを着て躍動する姿を見るのが楽しみで仕方なかったんだ。でも、あの日、俺は、病院のベットの上にいて、不本意にも、レオタード姿の梓沙を見に行くことができなかったんだ。枕を涙で濡らしたぜ」


 なぜだろうか。僕には、貴矢の言葉が少しも嘘には聞こえなかった。



「……というか、俺は梓沙に、『入院してて行けない』と伝えていたはずだ」


「そんなの信じられるわけないじゃない! 適当な言い訳を並べて、別の女と遊んでるんじゃないかと思ってたわ! 病名も言ってくれなかったし!」


「……盲腸って、言いにくくないか?」


 貴矢の言わんとすることは分からなくはない。


 学校のトイレで大便をしていることが見つかるだけでイジられるのが中学生時代だ。


 「盲腸」を患ったことは、決して広めたくはないだろうし、ましてや、付き合いたてのカノジョには黙っておきたいだろう。



「……とにかく、私は口八丁の言葉なんて信じないから!」


「なぜだ!? 俺は全て真実を打ち明けたのに!?」


「これがオオカミ少年の哀れな末路よ! 村ともども滅びると良いわ! 私はもう練習に戻るから! バイバイ!」


「おい! 梓沙、待ってくれ! 俺は嘘なんか吐いてない!」


 梓沙は、プリプリしながら踵を返す。



 長年培った「不信関係」は、そう簡単に壊せないようである。



 しかし、僕には、とっておきの閃きがあった。



「貴矢、次の新体操の大会に行って、梓沙を応援しよう!」


 僕の言葉に反応して、梓沙が再びこちらの方を向く。



「……え? 取り巻き君、今なんて……」


「梓沙、さっき大会が近いって言ってたよね? その大会に行って、梓沙を応援しに行くよ」


「別に、取り巻き君に来てもらっても……」


「僕は所詮『取り巻き君』だから、メインは貴矢だよ。僕は貴矢について行くだけだ」


「……貴矢、本当に来てくれるの?」


 梓沙の瞳がキラキラ輝く。

 今まで僕が見たことのない表情だ。


 それは、正真正銘、妖精のものである。



「貴矢、そうだよね?」


「……ああ、行くよ」


「本当!?」


「ああ」


「やった!」


 

 梓沙はしゃがみ込む。そして、先ほどからずっと土下座をしたままの貴矢の頭を優しく撫でる。



「……貴矢、ありがとう。日時と場所は後でLINEするね」

 

「……梓沙、ありがとう。次は這ってでも行くから」



 過去は変えられないとしても、未来はいくらでも変えられる。


 そして、大事なのは、過去よりも未来なのだ。


 ちなみに、5月3日は、梓沙の誕生日ではありませんが、僕の妹の誕生日です。LINEギフトでアマギフを送っておきました。


 今日はたくさん更新しました。今週中には第3章は終わると思います。いや、絶対に終わらせます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >学校のトイレで大便をしていることが見つかるだけでイジられるのが中学生時代だ 悲しい事だよねぇ。どっちかって言うとお腹の中にためてる方がうんこマンだと思うのに(ォィ [一言] いやぁ、…
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