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構造(3)

 水城先輩が殺された夜、千翔高校で一体何があったのか。


 それを知る手がかりは、何もないのだろうか――

 


「舞泉さん、この学校に防犯カメラはないの?」


「あるぞ」


 防犯カメラがあるのであれば、事件の手がかりもそこにあるのではないか。



「ただし、防犯カメラ全部で6台しかない。学校にある4台のエレベーターにそれぞれ1台ずつ。あとは、正門と西門に1台ずつだ」


 この高校の敷地の広さからすると、6台のカメラというのはあまりにも心許ない気がする。


 とはいえ、防犯カメラが多過ぎたら、それはそれで逆に問題である。学生生活の過度な監視になってしまい、PTAも黙っていないだろう。


 防犯カメラの数は最低限にしなければならないのだ。


 それにしても――



「エレベーターに設置されてるのは良いとして、正門と西門にしか設置されていないというのはどうなのかな? 東門と南門には防犯カメラはないの?」


 この学校の出入り口は、学校の北側にある正門と、東門、西門、南門、要するに、東西南北に計4つ存在しているのである。


 不審者の侵入を察知するためにも、4つ全ての門に防犯カメラを設置するべきではないだろうか。



「東門と西門のカメラはだいぶ前に故障して、そのままだということらしい」


 それはあまりにも無用心だし、今回の事件の解決にとっては痛手である。


 仮に犯人が東門か西門から出入りしていたとすれば、その姿は一切映らないということなのだから。



「祥子の話だと、防犯カメラには何も決定的なものは映っていなかったということだ。救急隊員と警察が臨場する前の時点で、最後に映っていたのは、エレベーターに乗っていた時雨だったとのことだ」



 被害者である水城先輩が最後まで学校に居残っていることは、何の不思議もない。要するに、防犯カメラ映像は何の参考にもならないということである。



「……舞泉さん、他に何か手がかりはないの?」


 迷える子羊である僕は、結局、「教祖様」に縋るしかないのである。



「シモベ君、実は面白いものを見つけたのだ」


「面白いもの?」


「ああ。これを見てくれ」


 舞泉さんは、自らのスマホを操作して、あるYouTube動画を表示させる。そして、僕にそのスマホを手渡す。


 カバーには、デコレーションがあるわけでも、可愛いキャラクターがデザインされているわけではない。黒一色の中央に、白い円が1つだけ描かれている。とにかく、女の子らしさがないスマホである。


 それでも、触れるのはとてもドキドキする。



「……これ、何の動画?」


「今から約10年前に、この学校の円形校舎内で撮影された動画だ」


「10年前には円形校舎に入れたの?」


「ああ。閉鎖されたのは7年ほど前だからな。当時は円形校舎内に文化系のいくつかの部活の部室があったらしく、この動画は部活のプロモーション用に作られたものらしい」


 音楽室の窓から見え、また、今も僕らの目の前にあるにもかかわらず、一切入ることのできない円形校舎。


 この動画は、今では決して見ることができない、円形校舎の内部を映したものだということだ。



 僕は、心して再生ボタンを押す。



「いえーい!」


 陽気な掛け声と陽気なBGMとともに、千翔高校のオリーブグリーンの制服を着た男子生徒が2人組で登場する。僕らの先輩で、卒業生ということになるだろう。


 オープニングの場面は、まさに、今僕と舞泉さんが立っている渡り廊下の付近であり、男子生徒2人組の背景には、円形校舎がある。

 当時はまだ使用されていたからか、円形校舎の雰囲気はだいぶ違って見える。外壁も黒ずんではおらず、廃墟感もない。



「円形校舎には、4つの部活の部室があります! 篠原しのはら君、分かりますか!?」


「もちろん分かりますとも。富田とみた君、僕をなめないでください。えーっと、科学部、文芸部、華道部、天文学部ですね!」


 男子高校生2人の掛け合いが始まる。

 

 なお、篠原という名前の男子が答えた4つの部活は、現在ではいずれも存在していない。

 円形校舎の閉鎖とともに淘汰されたということだろうか。



 場面は、すぐに円形校舎の内部に転換する。

 富田と篠原が、司会となり、科学部、文芸部、華道部、天文学部の各部室を訪れ、各部活の代表者にインタビューをして回る、というのが、この動画の主な構成だった。



「この部活の良いところは、先輩後輩の垣根がなく、みんなフレンドリーなところです!」


 おそらく新入生、もしくは、入学予定者向けに作られたであろうこの動画において、各部活の代表者は、自らの部活のイチオシポイントを挙げていく。


 明らかに事前に用意された台本があり、棒読み調の台詞や、やりとりのぎこちなさが気になったが、僕が摂取しなければならない情報はそこにはない。



 僕は、背景となっている、円形校舎の内部構造に集中しながら動画を見る。



 動画の場面は、円形校舎の外観から始まり、科学部の部室がある2階、文芸部の部室がある3階、華道部の部室がある4階、天文学部の部室がある5階と6階へと、順に飛んで行く。



 動画の再生が終わったところで、舞泉さんは、いつもの調子で、


「シモベ君、感想は?」


と訊いてきた。



 「僕が入るなら文芸部かなあ」などと真面目な感想を述べたら顰蹙を買うことが明らかだったので、僕は、ポケットに入れていたボールペンで、ルーズリーフに、簡単な見取り図を書き込む。




挿絵(By みてみん)



挿絵(By みてみん)




「たとえば、3階と4階はこんな感じだったかな。要するに、中央にある大きな机の形が、丸い机なのか、四角い机なのかという点では異なっていたけど、それ以外は全く同じように見えた」


「……なるほど。この動画を見ている限りは、たしかにシモベ君の書いた図が正しいように見えるな」


 僕の書いた図が正確であることを、舞泉さんも認めてくれた。

 僕は、階段と窓の位置関係に気をつけながら動画を見て、それを図に正しく落とし込んだのである。



「ただ、シモベ君が書いた図は、矛盾してないか?」


「え!?」


 「正しい」と言われた次の瞬間に、「矛盾」していると言われ、僕は面を食らう。



「……どこが矛盾してるの?」


「目の前の光景と、だ」


 目の前の光景とは、すなわち、今僕らの目の前にある円形校舎のことだろう。

 円形校舎の外観は、錆びれてはいるものの、10年前と大きくは変わっていない。



「シモベ君、矛盾に気付かないか?」


「矛盾……」


 僕は、自らの書いた見取り図と、目の前の円形校舎とを見比べる。

 そして、ようやく舞泉さんの言わんとしていることに気がつく。


 たしかに明白な矛盾があるのだ。



()()()()()()()()()()()()


「そのとおりだ。シモベ君。円形校舎の外観を見る限り、3階と4階とでは、窓の位置が90度ズレているはずなのだ」




挿絵(By みてみん)



 3階と4階とでは窓の位置が90度ズレているはずなのに、僕の書いた見取り図では、窓の位置が重なってしまっている。


 僕の書いた見取り図に大きな矛盾があることは理解できた。しかし――



「でも、舞泉さん、僕は、ちゃんと階段と窓との位置関係を意識して見取り図を書いたんだ。僕が書いた見取り図は間違ってないはずだよ」


 なぜ僕の書いた見取り図と、目の前の円形校舎の外観とが合致をしないのか、僕には全く理解ができなかった。まるでキツネに摘まれたような気分である。



「階段と窓の位置関係は、3階4階ともにシモベ君の書いた図のとおりなのだ。しかし、この円形校舎の階段には、()()()()()()()()()()()


「トリック!?」


「ああ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



 浮かない表情から、僕が舞泉さんの言葉を咀嚼できてないことに気が付いたのだろう、舞泉さんは、僕の手からペンとルーズリーフを取り上げた。



挿絵(By みてみん)



「4階の窓と階段の位置は、実際には、このように、3階での位置関係を、反時計回りに90度回転させたものになるのだ。そして、机の向きも90度回転する」


 たしかに、そうだとすれば、窓の位置の辻褄は合う。ただ――



「つまり、舞泉さん、どういうことなの? 円形校舎の階段はどうなってるの?」


 僕は、舞泉さんほどは頭がキレないのである。



「うーん、言葉では説明しにくいんだが、簡単に言うと、シモベ君が思っている以上に、階段は長い、ということなのだ」


 そう言って、舞泉さんはさらにペンを動かす。




挿絵(By みてみん)




「3階の階段の位置を書き込むと、分かりやすいだろう。このように、真上に上がるのではなく、反時計回りに90度ズレた位置に上がるような階段になっているのだ」


「ああ!」


 ようやく理解できた。舞泉さんは、やっぱり頭が良い。



「さらに、円形校舎全体の階段の入り口と出口を対応させるとこんな感じだな」




挿絵(By みてみん)




 重ね重ね、なんとも奇妙な建物である。


 なぜこのような構造になっているのか。「悪魔の根城」という説明が、まさにピンと来るのである。




 ラブコメが突然ミステリーに豹変してしまった感じですね。

 ただ、次の話(「贖罪」)は、またラブコメに戻ります。もしかすると、最後のラブコメ回かもしれません。


 作図能力はないのですが、図に逃げるのは好きで、よくやっています。小説と称しながらほぼ図じゃん!みたいな「小説」もたまに書いています。


 なろう向きの小説じゃないのに、他の小説サイトだと図の載せ方が分からないので、なろうにしか投稿できないという不遇も味わっていますね。。


 あ、あと、10万字を突破しました!

 

 短編脳なので、連作短編を除けば、10万字を超えたのは、今作で2作目です(「殺人遺伝子」以来)。

 ステキブンゲイの編集者さんが拾ってくれた「ANME」も、最初は15万字を目指していたのに、結果として8万字程度に収まってしまったので、10万字の壁を超えたのは感慨深いです。


 無用の長物にならないように、今後とも精進します。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] あいずさんは、滅多にルビ振らないんですかね。 ひんしゅく、の漢字は一見さんには読めないのです(;'∀') [一言] うぅむ、クラインの壺並みに奇妙ですなぁ。 だけどこの造りはこの造りで…
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