緊急ミーティング(1)
「これで全員集合かな?」
案の定、オンライン通話を仕切っているのは、祥子さんである。
画面からは襟の部分しか見えないが、それなりの正装をしていることが分かる。
祥子さんはオンラインイベントのためにいちいち着替える変わった人なのだ。それは、前回の浴衣姿によって実証済みだ。
僕を含む、それ以外の4人は寝間着から着替えていないのか、いずれもダルっとした服を着ている。
舞泉さんも黒いスウェット姿だ。
舞泉さんの場合は私服もこんな感じなので、それだけでは今日外出したかどうかは判断できないが。
「みんなの顔が見れて嬉しいよ。私は今日、心細くてな」
突然の臨時休校で心細くなっているのは、僕だけではなく、祥子さんもらしい。
祥子さん同様、僕もみんなの顔が見れてだいぶホッとしている。ビデオ通話も意外と侮れない。
「祥子、今日は何の用だ?」
いかにも舞泉さんらしい、ぶっきらぼうな第一声にも安心する。
「今日は緊急ミーティングだ」
「緊急に話すことがあるのか?」
「左様」
「それは今日の臨時休校と何か関係があるのか?」
「さすが美都ちゃん、勘が鋭いな」
「やはりな」
舞泉さんとは違って勘の悪い僕は、まだ話が飲み込めていない。
単に、友達に会えない寂しさを埋めるための会合ではない、ということはなんとなく分かったのだが。
「祥子、臨時休校の理由は掴めたのだな?」
「もちろんだ」
「さすが祥子ちゃん!」
貴矢のように素直に感心する気持ち以上に、どうやって? という疑問が先行した。
なぜ祥子さんは高校の内部事情を知ることができるのか。もしかして--
「……ドローンを使ったんですか?」
「志茂部も勘が鋭いじゃないか。そのとおりだ」
祥子さんは、臨時休校で閉鎖されている千翔高校にドローンを飛ばし、偵察していたのである。
やはりやることが違う。
多分校則違反だし、その前に何らかの法律にも違反しそうだが、祥子さんはそういうことは気にならない人なのだろう。
「みんなも知っているかもしれないが、昨夜遅く、高校に救急車とパトカーが出動していた」
それは僕も知っている。Twitterで出回っていた情報だ。
「ドローンを使って調査した結果、臨時休校の原因は、やはりこの時の事件によるものだった」
祥子さんは、事故ではなく、事件とハッキリ言った。
「祥子、学校で一体どんな事件が起きたのだ?」
舞泉さんは興味津々の様子で、どんどんと話を進めようとする。
「それはそれはとてもショッキングな事件なのだよ。とりわけ、私と、それから、志茂部君にとってはな」
唐突に自分の名前が出されたことで、僕はびっくりする。
「僕にとってショッキング……なんですか?」
「ああ。なぜなら、事件の被害者は私と志茂部君の共通の知人だからな」
祥子さんと僕の共通の知人――海の家での雑談もあったため、僕はすぐにピンと来てしまう。
「共通の知人って……もしかして水城先輩ですか?」
「……ああ。そうだ」
今このビデオ通話にいるメンバーを除けば、僕と祥子さんの共通の知人は水城先輩しかいないだろう。
「事件の被害者」とは一体どういうことだろうか。
何の事件なのか。救急車とパトカーが出動し、しかも、翌日に学校を休みにせざるを得ない事件――嫌な予感がする。
「……祥子さん、水城先輩に何があったんですか……?」
「志茂部君、これは間違いなくショックなことなのだが、ショックを受けずに聞いてくれ」
とても嫌な予感がする。できれば聞きたくない。
しかし、このビデオ通話を閉じるわけにはいかない。ここが僕の「居場所」なのだから。このビデオ通話を切ったら、僕はまた孤独になってしまう。
「水城先輩に一体何が……?」
「時雨は殺された」
――想像した中で、最も最悪な想像が現実化してしまった。
「……そ、そんな……水城先輩が……殺されたって……そんな……嘘でしょ……」
「志茂部君、気持ちは痛いほど分かる。私も時雨の友達だからな。ただ、現実は現実である以上、受け止めなければならない」
祥子さんは強い。すでにこの現実を受け止めているのだ。
僕には決して真似できない。
同じ学校の生徒が殺された、というだけで辛いのに、ましてや被害者が水城先輩だなんて。
一昨日、一緒に遊園地に行ったばかりなのに。
僕には、遊園地で抱きつかれた時の感触が未だに残っているというのに。
どうして――
どうして水城先輩が殺されなければならないのか。
どうして僕は、そんな理不尽な事実を受け入れられなければならないのだ。
どうして――
完全に言葉を失ってしまった僕の様子を心配して、祥子さんは穏やかな口調で言う。
「志茂部君、こんな時だからこそ緊急ミーティングなんだ。みんなの顔を見ないと、心が壊れそうになるだろう? 私も志茂部君と同じ気持ちだ」




