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乙女心(2)

「変態ストーカー!」


 事情を知らない者が聞いたら通報を迷うような、貴也からすると極めて不名誉な糾弾が、ホールに響き渡る。



「梓沙、なぜここに!?」


 貴矢の動揺は明らかだ。

 その証拠に、参考書とともにテーブルの上のコップを投げ飛ばし、中の水が、隣にいた僕の顔面に盛大にかかった。



「とぼけないで! 私のバイト先を特定して、わざわざやって来たくせに!」


「そんなの言い掛かりだ! 被害妄想だ!」


「貴矢の低劣な考えなんて、全てお見通しなんだから!」


 突如始まった口論に、僕も石月さんは唖然とする。舞泉さんも渋い顔をしている。


 当然、オーダーを告げる隙などない。



「そもそも、なんでこんな日にバイトしてるんだ!? 試験1週間前だろ!?」


 梓沙も千翔高校の生徒である。

 

 立場は僕らと同様のはずである。



「仕方ないでしょ! ここは人手不足なんだから!」


「試験勉強は大丈夫なのか?」


「貴矢なんかに心配されなくても、ちゃんとやってるわよ! ……それより、貴矢こそ、余裕綽々じゃない。可愛い女の子2人と取り巻きを連れてお食事だなんて」


……そうか。僕は「取り巻き」か。



「もしかして、わざわざ私に、仲の良い女の子を見せびらかしに来たのかしら?」


「違う! そんなわけないだろ!」


「ふーん……もしかして、貴矢、どっちかと付き合ってるの?」


「違う! 両方ともただの友達だ!」


「本当?」


「本当だ! 信じてくれ!」


 貴矢の方から、舞泉さんはともかく、石月さんのことを「ただの友達」と呼ぶのは想定外だった。

 梓沙になるべく弱みを握られたくないための戦略か。



「そこの可愛い子たち!」


「……は、はい!」


 石月さんが、梓沙の圧に押され、硬直する。


 舞泉さんは、眉間に皺を寄せ、まさに「我を巻き込むな」という顔をしている。



「貴矢は最低最悪の男だから、早く縁を切りなさい! いい!? 分かった!?」


「……でも、野々原君とは友達なので……」


「あなたはウブそうだから、貴矢に騙されてるのよ!」


「いいえ。野々原君は人を騙すような悪い人では……」


「あなたに貴矢の何が分かるの!?」


「え? いや……その……」


 梓沙に一方的に啖呵を切られ、石月さんもタジタジである。



「貴矢! 女遊びもいい加減にしてよね!」


「待て。俺は遊んでるわけじゃない! 将来のお嫁さんを本気で探してるんだ!」


「相変わらず口八丁なんだから!」


 もはや貴矢の代名詞にもなっている「口八丁」だ。



「ところで、貴矢、最近何してるの?」


「……え?」


「最近何してるの!? 私に連絡も寄越さないで!」


「連絡?……いや、別に梓沙に連絡することは……」


「どうせ私に隠さなきゃいけないような疾しいことをしてるんでしょ!?」


「してないってば! 梓沙こそ、今何をしてるのか俺は知らないぞ?」


「私は高校でも新体操を続けてるわ。貴矢は?」


「俺もサッカーを続けてるよ」


「……あ、そう」


 そこでようやく梓沙がハンディーをエプロンのポケットから取り出す。



「取り巻き君、ご注文は?」


「……え?」


「さっき呼び鈴を鳴らしてたでしょ? 食べ物やら飲み物を注文したいんじゃないの?」


 呼び鈴を鳴らしてから、メニューを眺める時間は十分にあったかもしれない。しかし、繰り広げられる口論を目前にして、それどころではなかった。



 僕は慌ててメニュー表を拾い上げ、ページをめくり始める。



「えーっと……」


「梓沙、三枝澪葉のことは知ってるか?」


 この場面で冷静に本題を切り出せる舞泉さん。さすがである。



「……サエグサミオハ? 聞いたことないけど、新手のフレンチ?」


「いや、ここで昔アルバイトをしていた者で、千翔高校の生徒だった者だ」


「あ、そう……聞いたこともないけど」


「そうか。我々は三枝澪葉の情報を集めてるんだ。梓沙、貴矢を生贄に捧げるから、三枝澪葉について、この店の店長や古株のバイトに訊いてみてくれないか?」


「ちょっとミト様、俺を勝手に生贄にするなよ?」


「下賤の者、しばらく黙っていろ!」


 舞泉さんは、動揺してではなく、意図的に、斜め前の席の貴矢の顔面に水を掛ける。



「それは構わないけど……」


 梓沙は、舞泉さんの依頼を承諾した。



「他に注文はないの?」


「あと、ドリンクバーを人数分と山盛りポテト!」


「はい。ドリンクバーを4つとポテト……取り巻き君、これで以上?」


「以上!」


「……ありがとうございます」


 梓沙は、僕がした注文を打ち終え、ハンディーの蓋を閉じる。

 そのまま踵を返すと、今まで声を荒らげていたことがなかったかのように、厨房まで淡々と歩いていく。



 なんとか修羅場を潜り抜けられたようだ。



 梓沙が厨房の方へと消える。



 他の客席からの好奇の目が絶え、各々が食事と会話に再度集中し始めたところで、貴矢が、今まで溜めに溜めた大きなため息をつく。



「はあ……梓沙はどれだけ俺のことを嫌ってるんだ……」


「まさに不倶戴天の敵だね」


 僕は相槌を打つ。

 


 しかし、石月さんは全く違う感想を残した。



「思うに、梓沙さんは、野々原君のことが好きなんじゃないですか?」


「……え?」


 僕と貴矢が同時に眉を顰める。



「小百合ちゃん、今のヒステリーを見てたか?」


「ええ、もちろん」


「……それでも、梓沙は俺のことが好きだと?」


「はい。私にはそう見えました。美都さんもそう見えませんでしたか?」


「え? 我か?」


 舞泉さんは、苦手分野での意見を求められ、明らかに戸惑っている。



 しかし、最終的には、


「……客観的に見れば、小百合の言うとおりだと思う」


と、石月さんに同意した。



「小百合ちゃんもミト様も、梓沙のことが分かってないだけだよ!」


 僕も貴矢と同感である。


 梓沙は、台所に現れる黒い害虫くらいに、貴矢のことを毛嫌いしているのだ。



 しかし、石月さんは、呆れた顔で言う。



「私から見れば、野々原君が乙女心が分かってないだけだと思うのですが……」



 乙女心――それは僕と貴矢にとって、人生の難題に違いなかった。


 今日は、コミティアに参加するため、東京ビッグサイトに行ってきました。

 言うまでもなく、出店する側ではなく、客としてです。


 とても刺激になりました。


 僕も頑張って絵を練習して、いつか巫女モノの4コマ漫画を描いて出店したいなと思いました(ミステリー書け)

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― 新着の感想 ―
[一言] 貴矢くん、本気で探してるならレディの気持ちをちゃんと理解して、最適な行動をとれるようにしようぜ(;'∀') そして……なるほど。 本気で嫌いならガン無視するもんな(ぁ
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