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12冊の本

「シモベ君、今日の放課後、短時間で良いから図書室に来てくれ」


 それは海の家で祥子さんと「会って」から2日後である今日、授業の合間の空き時間に、舞泉さんがわざわざ僕のいる教室まで来てくれて伝えてくれたメッセージだ。


 3年生の追い出しコンサートを明後日に控えた最後の練習日だったから、音楽室に1分1秒でも長く居たかった、というのが本音である。


 しかし、舞泉さんが円形校舎前で言っていた言葉を思い出すと、僕には断る術はなかった。



「……シモベ君には、これから先も私についてきて欲しい。私1人ではダメなんだ。シモベ君がいてくれないと」




 6限目が終わってすぐに図書室に向かうと、そこには舞泉さんを除いて誰もいなかった。


 舞泉さんの定位置であるテーブルの上には、本が何冊も置かれている。

 それはなぜか縦積みではなく、重ならないように横1列に並べられていた。



「シモベ君、忙しいのにありがとう」


 舞泉さんは開口一番に僕に感謝を述べた。


 今日ポップソング部の活動があることは伝えていない。もしかすると、舞泉さんは、僕が所属する部活の活動日は把握してくれているのかもしれない。



「とりあえず私の隣に座ってくれ。見せたいものがあるのだ」


「分かった」


 僕は舞泉さんが座っている椅子のすぐ隣の椅子の背もたれを引き、腰掛ける。


 この動作はスムーズにできるようになったが、舞泉さんの隣というポジションは未だに落ち着かない。


 心拍数が上がってしまう。


 「美人は3日で飽きる」だなんて絶対に嘘だ。飽きるどころか慣れることすらないのである



「テーブルに置かれている本のうちのいくつかには見覚えがあるな?」


「えーっと……ああ、たしかに見覚えがあるね」


 本は全てで12冊置かれていて、そのほとんどはタイトルも表紙も初めて見る本である。


 しかし、その中の4冊は、以前、奇怪な落書きがある本として舞泉さんが紹介してくれた本だ。


 例の、僕が初めて舞泉さんに声を掛けた時に舞泉さんの手元にあった英語の本も含まれている。



「今テーブルに並べている12冊には、全て例の落書きがある」


「【この学校の校庭に死体が埋まっている】ってやつ?」


「そうだ。そして、落書きがある本は、この12冊で全てだ」


 舞泉さんはそう断言した。



「舞泉さん、まさかこの図書室にある本を全てチェックしたの!?」


「そんなわけないだろう。()()()()()()()()()()


「法則性?」


 今回の断言には根拠があるということらしい。



「シモベ君、本の表紙を見て気付くことはないか? 気付いてしまえば簡単な法則なのだが」


「えーっと……」


 机に並んだ本の作者名とタイトルは、左から順に以下のとおり。



………



作者名:スコット・フィッツジェラルド 

タイトル:偉大なるギャツビー

作者名:アルベール・カミュ

タイトル:異邦人

作者名:エルンスト・カッシーラー

タイトル:実態概念と関数

作者名:ジョージ・オーウェル

タイトル:動物農場

作者名:ウンベルト・エーコ

タイトル:薔薇の名前

作者名:サイモン・シン

タイトル:フェルマーの最終定理

作者名:アリ・スミス

タイトル:両方になる

作者名:ミシェル・フーコー

タイトル:監獄の誕生

作者名:アイザック・ダイヤリバー

タイトル:魔法使いになろう

10

作者名:オー・ヘンリー

タイトル:最後のひと葉

11

作者名:ヘルマン・ヘッセ

タイトル:デミアン

12

作者名:アンナ・ツィマ

タイトル:シブヤで目覚めて



…………



「えーっと……12冊ともこの図書館で1度も読まれずに廃棄寸前の本とか?」


「違う。シモベ君は知らないかもしれないが、それなりに有名で、高校生からも人気のある本も含まれているぞ」


 そうなのか。僕は1冊も読んだこともないし、タイトルを聞いたこともない。


――いや、待てよ。作者名の方は何人か聞いたことがある。


 たとえば、オー・ヘンリーは中学校の授業でも作品を扱った覚えがある。「賢者の贈り物」というタイトルの、涙腺を刺激する短編だった。



 そのことに気付いたところで、舞泉さんの言うところの「法則性」とやらには少しもピンと来ない。



 僕がうーんと唸っていると、舞泉さんがヒントを与えてくれる。



「タイトルは関係ないのだ。作者名を眺めていて気付かないか? 本当に単純な法則性だ」


「……全員外国人?」


「そうそう。かなり良い線にいってるぞ」


 適当に答えたつもりだったが、悪くない答えだったらしい。



「シモベ君、もう一声だ」


「もう一声? えーっと……全員名前が2つに分かれてるとか」


「正解だ!」


 さらに適当に答えたつもりだったが、見事正解してしまったようだ。



「落書きがあるのは、外国人が書いた本で、かつ、その外国人の名前の表記が2つに分かれているものなのだ! シモベ君、冴えてるな!」


 僕が冴えていたのか、答えの方がしょうもないだけなのかはよく分からない。


 ただ舞泉さんに褒められると素直に嬉しい。



「ここは日本の高校の図書室だ。作者が外国人で、かつ、その名前の表記が2つに分かれている本を全て当たるのは、根気のいる作業だが、決して不可能ではなかった」


 僕が部活でギターを弾いている間も、舞泉さんは放課後の図書室でそのような地道な努力をしていたということらしい。そのひたむきな性格には尊敬しかない。


 しかし――



「……それで、落書きがある本を12冊に特定したことに何か意味があるの?」


 「もちろんだ」と舞泉さんは即答する。


「それから、これらの本の作者名にも意味がある。シモベ君、外国人の名前の表記が2つに分かれているとき、前の方を頭文字のアルファベット1文字で略することがよくあるだろう?」


「ああ」


 たしかにそういうことはよくある。


 たとえば、ドナルド・トランプをD・トランプと略す場合など。



「並べられた12冊の本の作者名をそのように略すとこうなるんだ」


 舞泉さんはポケットから4つ折りのルーズリーフを取り出し、僕に手渡す。

 開いてみると、達筆な舞泉さんの字がすでに書き込まれていた。



…………



S・フィツジェラルド 


A・カミュ


E・カッシーラー


G・オーウェル


U・エーコ


S・シン


A・スミス


M・フーコー


I・ダイヤリバー


O・ヘンリー


H・ヘッセ


A・ツィマ



…………



「これって……」


 さすがの鈍い僕も、一目見て舞泉さんの言わんとすることが分かった。


 もちろん、僕にも一目で分かるように、舞泉さんが本を並べ、導いてくれたのであるが。



「SAEGUSA MIOHA――三枝澪葉になってる」


「そのとおり。つまり、【この学校の校庭に死体が埋まっている】という落書きと『消えた自殺者』が関連しているという我々の読みは当たっていたということなのだ」


 なお、僕も1冊も読んだことありません。

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― 新着の感想 ―
[一言] ま、まさかの事実(;゜Д゜) ちなみにフェルマーの最終定理の本は古本屋で見かけた事はあります(ぇ
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