海の家(4)
「澪葉は、とても良い奴だった。いわゆる優等生タイプでな。勉強もよくできた」
たしか怪談のD美も「成績優秀」とのことだった。
「見た目も可愛らしくてな。男子からも人気があった」
たしかD美も「容姿端麗」だった。
「祥子ちゃんもめちゃくちゃ可愛いです! 男子から大人気でしょ!?」
貴矢が要らぬ茶々を入れる。
「澪葉は、育ちも良くてな。上品でおしとやかで、そこも男子からウケていた」
「祥子ちゃんも育ちが良いですし、上品で……上品じゃないですか!」
さすがの貴矢も「おしとやか」とまでは言うのは躊躇をしたようだ。
「野々原君、君が口八丁でも褒めてもらえて嬉しいよ」
「口八丁だなんて、僕も照れます……」
いや、貴矢、「口八丁」は決して褒め言葉ではない。
……それはともかく、たしか怪談のD美も「家柄が良い」と評されていた。
澪葉とD美のステータスは一致しているということだ。
「自分で言うのも難だが、石月家もなかなかの家柄だ。ただ、三枝家も石月家に匹敵する名家なんだ。……三枝証券は聞いたことがあるだろう?」
「え? あの三枝証券ですか?」
もちろん聞いたことがある。
日本で有数の証券会社で、去年メジャーリーグでMVPをとった日本人投手がイメージキャラクターを務めている大会社だ。
「ああ。三枝証券の創設者の血筋でな。澪葉の父は、今のCEOだ」
それは文句無しに名家である。
「私と澪葉は、中学ではクラスが一緒だった時期もあり、よく遊んだものだ」
「石月家と三枝家が通ってた中学校って一体……」
「志茂部君、冷やかすのはやめてくれよ。普通の公立中学校だよ。それに、高校は君たちと一緒なのだから」
言われてみるとそうである。
親の教育方針で、あえて下々の者と混じらせているということだろうか。
「とにかく、私と澪葉は、中学の頃は互いに互いの家を行き来するような仲だった。中学3年生の時、澪葉が私の誕生日パーティーを企画してくれたこともあったな」
「本当に仲良しだったんですね」
「ああ。しかし、当日は雨でな。澪葉が借りてくれたパーティー会場に私は行くことができず、やむなく、今日みたいにビデオ通話参加になってしまったのだ」
信じられない話である。
たかが天候不良を理由に、パーティーの主役がビデオ通話参加だなんて――
「あの日も小百合に機材の手配をお願いしたんだったな」
「はい。スクリーンとプロジェクターを会場に持ち込みました。『そこにいる感』を出すための調整も頑張りました」
祥子さんは、中学生の頃から、今日と同じようなことをし、同じように妹を巻き込んでいるらしい。
「澪葉とは仲が良く、奇遇にも高校も同じだったのだが、高校ではクラスが離れてしまってな。一気に疎遠になってしまった」
「それでは、澪葉の自殺の経緯は、祥子にはほとんど分からないのだな?」
「美都ちゃんの言うとおり。澪葉の高校時代については、自殺に関するところも含めて、全て人伝てに聞くのみだ」
「万引きについてはどうなのだ?」
怪談のD美の万引き――それは明らかに大きな謎である。
怪談の中でもあまりにも唐突であったし、澪葉が三枝証券の御令嬢なのだとすると、万引きとはほど遠い。
欲しい物があれば、犯罪行為など行わずに、いくらでも手に入ったはずではないか。
舞泉さんの質問に対する祥子さんの回答は、あまりにも拍子抜けするものだった。
「……『万引き』は私の創作だ」
要するに、澪葉が万引きをしたという事実はそもそも存在しないということか。
「創作って、あの『怪談話』を作ったのは祥子なのか?」
「左様」
「では、怪談は全て祥子の創作ということなのか?」
スクリーンの祥子が大きく首を横に振る。
「そうではない。私が創作した部分は『万引き』の部分だけで、それ以外の部分は元から怪談話として学内に広がってたものだ」
「だとすると、入水自殺した澪葉の死体が消えたことも、その後の円形校舎での『幽霊騒ぎ』も事実なのだな?」
「私が断言できるのは、私の創作ではない、ということだけだ。誰か別の者の創作なのかもしれないし、歴とした事実かもしれない。それは私には分からない」
それに、と祥子は続ける。
「『万引き』は私の創作だが、何もないところから私が生み出した話ではない。元々学校に広まっていた話では、そこは『横領』だったのだ」
「横領?」
「ああ。D美がバイト先で横領をした、という話だった」
「そのバイト先はどことされてるんだ?」
「高校のそばのファミレスだ」
千翔高校の近くにファミレスはあっただろうか。すぐには思いつかない。
「『横領』というのは、なんというか、ちょっと分かりにくいだろ? だから、私が『万引き』に差し替えておいたんだ」
祥子さんが言わんとしていることは分からなくない。「万引き」の方がシンプルで頭に入ってきやすい。
「ちなみに、祥子さん、怪談に出てきたA子とかB助とかC香も、D美同様に実在しているんですか?」
ポップソング部に所属する僕としては、そこはかなり気になる点である。
「シモベ君、それは私には分からないよ。それは私が聞く前から広まっていた怪談なのだ。厳密には、D美と澪葉が同一なのかも分からない」
ただ、と祥子さんは続ける。
「澪葉がこの海で入水自殺をしたというのは、どうやら事実らしい。だから――」
スクリーンに映った祥子さんが、パッと椅子から立ち上がる。
「今からみんなでその現場を見に行こうではないか! いざ出陣だ!」
休みの日になると緊張の糸が切れて体調を崩すタイプなので、GW中は体調を崩しながらも、それなりに小説が書けています。あと、昨晩眠れなかったので、ベッドの中で中盤以降の細かいプロットをだいぶ詰められました。それに伴い、既出の部分も微妙に修正しています(ズルいと言わないでください。これがネット小説の強みです)。
今はストックを3話分用意すると決め、3話を超えた部分を即時アップしています。
今日中に次の話、と行きたいのですが、次の話も簡単な図を挿入するので難しいかもしれません(出先でPCを持っておらず)。
あと、「殺人」という文字がタイトルに入っていないと落ち着かないので、タイトルを少し変更しました(実は別の事情もあるのですが、そこは追々)。
……懺悔します。澪葉という名前は、子どもと最新のポケモンアニメを見ていたら思いつきました。。




