信仰(2)
――そうだった。
舞泉さんは「死者の霊などというものは単なるまやかし」だと以前話していた。
舞泉さんの「教義」によると、幽霊は存在しえないのだ。
しかし――
「どうして幽霊は存在しないって断言できるの? 幽霊がいることを科学は証明できないけど、幽霊がいないことも科学は証明できないじゃないか」
昔読んだ本で、そのような議論がされていたのを覚えている。
「シモベ君は科学を信仰しているのか?」
「……え?」
舞泉さんの想定外の切り返しに、僕は言葉を失う。
科学は、信仰するような対象ではないと思う。宗教と違い、それは客観的に明らかな法則なのだから。
「シモベ君、科学ごときで明らかにできないことなど山ほどあるぞ。科学で解明できなくても存在しているものなんて数えきれない」
それはそうかもしれない。でも――
「じゃあ、どうして舞泉さんは、幽霊がいないって断言できるの?」
「簡単な話だ。幽霊には、存在する意味がないからだ」
幽霊には、存在する意味がない――本当にそうだろうか。
「でも、舞泉さん、幽霊は、生前報われなかった人が、その遺恨を晴らすために存在するんじゃないかな? たとえば、生前の自分を殺した人間に復讐をするとか……」
僕は決して好き好んで見ないが、ホラー映画に出てくる幽霊は、だいたいそういう目的を持って現れてくるのではないか。
「シモベ君、その復讐とやらは神の意思に反しないか?」
「え?……神の意思?」
唐突に神様の話になったので、僕はびっくりする。
舞泉さんは、幽霊を真っ向に否定しながら、神様は存在していると考えているらしい。
「人間は神の意思に従い、『使命』を持って生まれてくる。他方、幽霊は『使命』を持たない。それを実現する能力がないからな。ゆえに、幽霊には意味がなく、そんな意味のないものを神が作ることはないのだ」
舞泉さんと一緒にいる時間も増え、勝手に舞泉さんのことを理解できてきたつもりでいたのだが、甘かった。
舞泉さんと本気で議論しようとすると、やはりちんぷんかんなのだ。
少し悩んだ末、僕は、ずっと疑問に思っていたものの、口に出すのが憚れていた質問を、ついに投げつける。
「……もしかして、舞泉さんって、何かの宗教に入信してるの?」
舞泉さんの言動は、明らかに非科学的で、宗教めいている。先ほども神様について語っていた。
舞泉さんの考え方は、何らかの特定宗教に基いているものなのではないか。
それは初めて話しかけた時からずっと抱いていた疑念だったのだが、日本国憲法には信教の自由というものもあるし、触れてはならないことのような気がしていたので、なかなか訊き出せずにいたのだ。
しかし、そろそろ訊かなければならないタイミングだろう。そういうことを知っておかないと、僕と舞泉さんとの距離はいつまでも縮まらない。永遠に「他人」のままだろう。
僕は、舞泉さんのことをもっと知りたかったのだ。
果たして、舞泉さんの答えは、
「我の両親は、新興宗教の熱心な信者だった。だが、我はそうではない」
というものだった。
いわゆる「宗教2世」だけれども、舞泉自身はその影響を受けなかったか、もしくは、途中で棄教したということだろうか。
「シモベ君、この話は少し入り組んでいるのだ。できれば、今は話したくない」
舞泉さんの表情に翳りが見える。
きっと思い出したくないトラウマがあるのだ。両親とも上手くいっていないということかもしれない。
「とにかく、今は我々の『使命』である死体探しに集中しよう。別にシモベ君が我の話を理解してくれずとも構わないから」
「ごめんね。僕の頭が悪くて……」
「違う。我の説明が分かりにくいんだ。多分」
舞泉さんが特定の宗教に入信していないのだとすると、舞泉さんの話している神や悪魔の話というのは、全て舞泉さんの「創作」ということだろうか。
いや、彼女にとっては「真理」なのか。
いずれにせよ、舞泉さん自身が教祖に信奉しているのではないのだとすると、舞泉さん自身が「教祖」である、ということになるだろう。
美少女教祖様である。
とすると、僕はその信者ということになろうか。
……いや、下僕か。
「本当に、シモベ君には理解してもらわなくて良いんだ」
ただ、と舞泉さんは少し目線を外す。
「……シモベ君には、これから先も私についてきて欲しい。私1人ではダメなんだ。シモベ君がいてくれないと」
今日は久々にオフなので、執筆に専念するか、もしくは仕事します。。




