信仰(1)
「シモベ君、音楽室の窓から、円形校舎の窓はバッチリ見えたな」
「……そうだね」
舞泉さんが音楽室に来たのは、決して僕に会いに来たわけではなかった。
そもそも、「シモベ君の方こそ、ここで何してるのだ?」という言葉のとおり、舞泉さんは、僕が部活動で音楽室にいることすら知らなかったのである。
舞泉さんが音楽室に来た目的――それは、怪談話の真否を確かめるためである。
舞泉さんも、「鬼の間」で聞いた怪談話の舞台が千翔高校の音楽室だと気付いていて、ゆえに音楽室の視察に来ていたのだ。
合わせ練習の後に舞泉さんを見つけた僕は、部活動を中断して、舞泉さんを音楽室の外に連れ出した。
そして、今、2人は、外靴に履き替え、円形校舎の前にいる。
特に示し合わせたわけではなかったが、暗黙のうちに、ここが2人の会合場所と決まった。
「……うーん、やっぱり開かないか」
念のため、出入り口のガラス戸を引っ張ってみるがビクともしない。
手はホコリで真っ黒になる。怪談と同様、すでに閉鎖されているのである。
「シモベ君、音楽室は3階だったな」
「そうだね」
「円形校舎の3階の窓は、中央校舎と向かい合っているということだな」
「そうだね」
「……シモベ君、反応が薄いな。窓と窓が向かい合っている……これは驚くべきことではないか?」
「どうして?」
中央校舎と円形校舎とは近くにあるのだから、窓同士が向かい合っているのはむしろ当然のように思える。
「シモベ君、円形校舎をよく見てくれ」
僕は、なんとか雨を降らさずに持ち堪えている曇天の空の下に、そびえ立つ円形校舎を見上げる。
――ああ、なるほど。そういうことか。
僕は、舞泉さんの言いたかったことをようやく理解した。
「この円形校舎の窓の付き方は特殊なのか」
「そのとおりだ。窓の位置が、階ごとに90度ずつズレているのだ」
普段使うことのない建物なので、あまり意識したことがなかったのだが、とても奇抜なデザインである。
各階に窓が対面2つずつしか付いていないというのは、建物の機能として大丈夫なのかと心配になる。
一体誰がこのようなデザインの建物を学内に作ろうと考えたのだろうか。
正直言って、不気味である。
舞泉さんが指摘したかったのは、円形校舎の3階の窓が、ちょうど中央校舎の方を向いている、ということである。
驚くべきことかはどうかは分からないが、奇遇だとは思う。その奇遇によって、怪談話と現実とがリンクしているのだ。
「ところで、舞泉さんは、祥子さんのしてくれた怪談話と、僕たちが探している死体には関係があると思うの?」
「ああ。そう思う」
「どうして?」
「だって、怪談話の死体は消失していて、未だ見つかっていないのだろう?」
たしかにその点が、怪談話と「校庭に埋まっている死体」を結びつけているのだと思う。
しかし――
「舞泉さんは、誰かが水の中に沈んだ自殺体を回収して、わざわざ校庭に埋め直した、って言いたいの?」
そんなこと、普通に考えたらありえない。
そんなことをするメリットなどどこにもないのである。
「それは分からない。ただ、校庭に埋まっている死体と、怪談に出てくるD美の死体が見つからないこととは、必ず関係がある」
舞泉さんは時折根拠のない断言をする。
それは出鱈目なのか、もしくは、鈍い僕が根拠に気付けていないだけなのかはよく分からない。
「舞泉さんは、怪談話は真実だと考えてるんだね?」
「我は、全ての作り話は多かれ少なかれ真実に基づいていると考えている。むしろ作り話の方が真実を語っていることも多い」
祥子さんがしてくれた怪談話は、完全なるフィクションでも、完全なるノンフィクションでもないということに関しては、僕も同感である。
おそらくは、元々あった真実に、色々と尾鰭が付いたのが、あの怪談話なのだ。
「舞泉さんには、あの話のどこが真実で、どこが虚構かは分かる?」
「どこが真実かは分からない。しかし、どこが虚構かは分かる」
「どこ?」
「幽霊が存在する、という点だ」




