怪談
みんな、お茶は手元に来たか?
京都から取り寄せた宇治抹茶を使った特製緑茶だ。
小百合、照明を落として。
もう少し暗く……そうそう。それで良い。
それから、雷の音を鳴らしてくれ!
(バリバリバリバリ)
うん。雰囲気が出て良いな。
そろそろ始めるから、小百合も早く座ってくれ。
……さて、みなさん、お揃いのようで。
これから怪談を始める。
怪談中は、泣くも叫ぶも気絶をするのも自由だ。ただし、私語だけは慎むように。
怪談のタイトルは、「円形校舎の幽霊」。
S高校に通う1年生のA子は、音楽系の部活に入っていた。
放課後は、音楽室に行き、アコースティックギターの練習をしていたという。
ある日のこと、A子がいつもどおり音楽室でギターの練習をしていると、視線を感じた。
誰かに見られている、とA子は感じた。
しかし、A子が視線を感じた方向を見てみても、誰もいなかった。そこには、音楽室の窓があるだけだった。
――気のせいかしら。
そう思って、A子はギターの練習を再開する。
しばらくすると、A子は、また視線を感じた。
――絶対に気のせいじゃない。
そう思い、A子はまた視線を感じた方向を見たのだが、やはり誰もいない。そこには窓があるだけだ。
――もしかすると、疲れてるのかもしれない。
授業の予習復習のために徹夜をすることも多かったA子は、ぼーっと窓の方を見つめていた。
すると、窓の向こうに、本来は見えるはずのない、「あるもの」を見た。
窓の向こうにあるのは、「円形校舎」と呼ばれる、塔状の、小さな古い建物。
A子の入学するずっと前には、文科系の部活の部室に使われていたらしいが、今は閉鎖されており、一切使われていない。
それにもかかわらず、A子は見たのである。
円形校舎の中に、白い、ゆったりとした服を着た女性がいることを。
その肌は青白く、生きた人間のものには見えなかった。
その女性が、円形校舎の窓から、対面の中央校舎にある音楽室を覗いていたのである。
――目の錯覚だろうか。
不安になったA子は、音楽室でギターを弾いていたB助に声を掛け、窓の向こうの円形校舎を見るように言った。
A子の求めに応じて、B助は円形校舎を見たものの、先ほどの女性はいなかった。
すでに女性は消えていたのである。
そして、窓は白いカーテンで覆われていた。
B助は「A子の目の錯覚ではないか」と言ったものの、A子は、どうしてもそうは思えなかった。
そこで、音楽室を出て、階段を降り、渡り廊下から上履きのまま外に出て、円形校舎に向かった。
全ての窓のカーテンが閉まっている。
そして、出入り口のガラス戸も、テープで目張りされている。
――必ず中に誰かいるはず。
A子は、円形校舎の入り口のガラス戸を思いっきり引いたが、鍵がかかっていてビクともしない。
やはり円形校舎は、閉鎖されており、中に人がいるなどということはあり得ないようだ。
音楽室に戻ったA子は、同学年のB助だけではなく、先輩のC香にも、円形校舎にいた女性について話してみた。
すると、C香先輩は、それは「D美の幽霊かもしれない」と言う。
C香先輩によると、A子が入学する前、この高校の女子生徒が1人、入水自殺をしたという。
その女子生徒――D美は、家柄も良く、容姿端麗、成績も優秀だった。
しかし、D美は、放課後にコンビニで万引きをした。
D美がなぜ万引きなどをしたのかについてはよく分からない。まさしく「魔がさした」のかもしれない。
D美は、万引きを理由に、退学処分になることになった。
D美はそのことを苦にして、入水自殺をしたのだという。
しかし、この入水自殺には、不審な点があった。
D美の死体が未だ見つかっていないのである。
ゆえに、D美を火葬することはできておらず、D美は成仏できていない。
D美は、この世に、そして、この高校での生活に対して強い未練があった。
そのため、C香先輩は、D美の霊が、この学校の校舎に取り憑いているのではないか、と言うのだ。
A子は、C香先輩に、なぜD美の霊は、音楽室を見ていたのかを聞いてみる。
すると、C香先輩は、こう答えた。
「これは噂だが、D美の万引きがバレたのは、私たちの部活の誰かが、D美の悪事をチクったからという話がある。だから、D美は、そいつが憎くて、死んでもなおそいつを睨み続けているのではないか」と。
(キャアアアッ)
(プロジェクションマッピングで、壁に、蒼白く、不気味な女の顔が映し出される)
僕も怪談は苦手です。。




