鬼の間(3)
石月さんのお姉さん――言われてみると、ステージ上の女性は、石月さんにそっくりである。
双子と見間違えるほどではないが、小柄な体型も、発育の良い胸も、ほとんど変わりがない。顔も、石月さんを少し面長にして、少し鼻を高くした感じである。
意図してお揃いにしたのかは分からないが、今日は姉妹ともにハーフツインの髪型だ。
「すみません。姉がご迷惑をお掛けしまして」
振り返ると、石月さんが立っていて、頭を下げている。
石月さんの背後の襖は開いており、そこから巨大なプロジェクターが覗いている。
このプロジェクターこそが、襖の向こうの機械音の正体のようだ。
「姉は変わり者で、人を驚かせるのが好きなんです」
「そのために小百合にも協力してもらったのだ。アハハ」
祥子さんが、ステージの上で豪快に笑う。
登場シーンの演出を振り返ってみても、「変わり者」であることには疑いない。
「小百合が裏で明かりを消したり、映写機を使って雷や桜吹雪を映し出したりしてたのか?」
「美都さんの言うとおりです。全て姉からの指示なので、私のことは恨まないでください」
「別に恨みはしないが……」
「美都ちゃん、私のことも恨まんでくれ! なかなか楽しかっただろう?」
祥子さんがぺろっと小さく舌を出す。祥子さんは、石月さんとはまた違った意味で「無邪気」である。
「我には楽しさがよく分からないのだが……」
「え!? 志茂部君が『うわあっ!』って何度も驚くのは楽しかっただろう!?」
「……ああ、そういうことか」
結局、僕1人がまんまと祥子さんの張った罠にハマり、おもちゃにされたわけである。
「私としては、本当は、志茂部君以外の2人も驚かせたかったんだがな」
「俺は今、祥子ちゃんのあまりの美貌に驚いてます」
貴矢が、祥子さんをまっすぐに見つめながら言う。
「さては、野々原君、君は口八丁だな?」
こんなにも早く貴矢の本質を見破るだなんて、祥子さんは只者ではない。
「嘘じゃないです。俺、祥子ちゃんほど美しい女性に出会ったのは初めてだと思います」
「おいおい。野々原君、君は小百合のことが好きなのではないのか?」
「はい。ただ、それとこれとは話が別です」
――いやいや、少しも別ではない。妹と「結婚を前提」に友達になっている一方で、姉にも手を出そうとするなど、許されざる横恋慕である。
張本人の石月さんはうふふと笑っているが、本来であればビンタを喰らってもオカシくはない場面である。
「何はともあれ、君たち、よくぞ『鬼の間』まで来てくれた」
おそらく、僕らが今いる和室が「鬼の間」なのだろう。
「なかなかに辺鄙な場所にあったと思う。よくぞ来てくれた。さて、ここに集まった目的は何だったかな?」
「それはもちろん美しい祥子ちゃんに会うためです」
「軽口はやめたまえ」
貴矢の横恋慕は無事失敗しそうな模様だ。
「我々が探している死体について心当たりがある、と小百合が言ったのだ。それで、小百合が、ここに来れば我々が知りたいことが分かると」
舞泉さんの言うとおりである。貴矢の軽口と比べるまでもなく、とても重々しい事情だが、それこそが僕らの来訪目的なのだ。
舞泉さんが回答した「目的」は紛れもない真実だったが、祥子さんは「残念。ハズレだ」と返した。
「そうではない。君たちは、わざわざこの『鬼の間』に来たのだ。この『鬼の間』に集まる理由など1つしかない」
それは、と祥子さんが続ける。
「怪談話を聞くためだ」
……え? 僕は唖然とする。
舞泉さんも眉間に皺を寄せて怪訝そうな顔をしている。
「この『鬼の間』は、『怪談の会』のための場所なのだ。ここは、石月家がそのためだけに所有している別邸なのだ。小百合、そうだよな?」
「はい。そうです。年に1度、使うか使わないかなのですが」
――さすがに金持ちの道楽が過ぎる。
年に1度あるかないかの「怪談の会」のために、石月家はわざわざ古い日本家屋を購入したというのだ。
そして、おそらく怪談話に演出を加える目的で、巨大な映写機まで設置してあるのである。
石月家は、想像以上に金持ちであり、想像以上にネジが外れているようだ。
「ちょっと待ってくれ! 我はそんなこと聞いていないぞ!」
「美都ちゃん、怪談が怖いのかい?」
「そうではない。私は、校庭に埋まっている死体について知りたくて、そのために、下賤の者がいることにも我慢をして、ここまで来たのだ!」
舞泉さんの言葉には、おそらく貴矢のせいだが、いつもよりも熱が込もっている。
「まあまあ、美都ちゃん、落ち着け。もちろん、私と小百合は君たちを騙したわけではない。私がこれから語る怪談こそが、君たちの死体探しのヒントなのだ」
怪談が死体探しのヒント? 果たしてどういう意味だろうか?
「祥子、その怪談とは一体何なのだ!?」
「だから、落ち着けって。これから私が披露するのだから」
祥子さんは、いつの間にやらステージの中央に敷かれていた座布団の上に、たおやかな所作で正座をした。
着物姿ということもあり、なかなかに様になっている。
「小百合、これから怪談を始める。まず、みんなにお茶を配ってくれ」
「はい。お姉様」
石月さんはそそくさと「鬼の間」を出て、タタタタと階段を下っていく。
そうだ。僕は喉がカラカラだったんだ。先ほどからのサプライズな展開の連続ですっかり忘れていた。
「フフフ、楽しみだな。小百合が戻ってきたら、身の毛もよだつ戦慄の怪談話を、君たちにお見舞いしよう」
僕にとっては少しも楽しみではない。
何を隠そう、僕は怪談が苦手なのである。
今日は予備校講師(副業)の仕事があるので、まだGWには入れていません。。
GWは、絵をたくさん描きたいです(小説を書け)




