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取り調べ(1)

 校長室は、この学校で1番大きな中央校舎の、屋上を除いた最上階にあった。いかにも最高権力者が鎮座する間といったロケーションである。



 校長室に入るのは初めてである。


 おそらくほとんどの生徒が、校長室に足を踏み入れることもないままで卒業していくだろうから、貴重な機会と言えば貴重な機会だろう。


 とはいえ、誇らしい気持ちは一切ない。今後、誰かに自慢することもないだろう。



 学内の他の空間とは明らかに隔絶された、品のある校長室。その、高級そうな低反発ソファーにちょこんと腰掛けながら、僕は赤い絨毯をじっと見つめていた。


 隣に座っている舞泉さんには、僕とは対照的に、少し落ち込んでいる様子はない。


 まるで博物館の見学客のように、校長室に飾られているトロフィーや写真などを、興味深そうに見渡している。



 小机を挟み、目の前のソファーには、布瀬川校長と、教頭である豊浜とよはま晋佑しんすけ先生が座っている。


 僕の目の前が豊浜教頭で、舞泉さんの目の前が布瀬川校長である。


 2人ともたしか年齢は60代前半。布瀬川校長は、黒髪をポマード後ろに流しており、若々しく見える。豊浜教頭の方は、白髪で、レンズの厚いメガネをかけており、どちらかというと老け込んでいる。2人とも、仕立ての良さそうなスーツをビシッと着込んでいる。


 そして、2人とも、険しい顔をしている。



「君たち、名前は? どこのクラスだい?」


「僕は、志茂部遼。1年J組です」


 布瀬川校長の質問に、僕は淡々と答える。



「隣の君は?」


「我の名は舞泉美都」


「ワレ?」


 舞泉さんの一人称は、目上の人相手にも変わらないらしい。



「クラスは?」


「1年B組だ」


 そういえば、舞泉さんがどこのクラスかは僕も今まで聞いたことがなかった。僕は、心の中にメモをする。


 豊浜教頭は、ルーズリーフにメモを取っている。

 供述調書、といったところだろうか。これは、僕と舞泉さんにどのような処分を下すのかを決めるための取り調べなのだ。



「単刀直入に訊くが、君たちはテニスコートの付近で何をしてたんだ?」


「死体を探していたのだ」


「舞泉さん、ちょっと待って!」


「死体……だと?」


 舞泉さんがあまりにも単刀直入に答えるので、校長室が騒つく。



「いや、あの、その、最近、高校生の間で流行ってるホラー動画があって、僕と舞泉さんはその動画のファンで、動画の人を真似して、『死体探しごっこ』をしていたんです」


「舞泉君、本当か?」


「我はホラー動画など下らないものは見ない」


 舞泉さんは、僕が出した助け舟も一瞬でペチャンコにする。



「じゃあ、君たちは本当に死体を探していたのか?」


「……い、いいえ。違います。第一、この学校のどこかに死体があるわけないじゃないですか」


「シモベ君、なぜそんなことが言えるんだ。むしろあの岩の下に……」


「舞泉さん、一旦冷静になろうよ!」


 舞泉さんの暴走は止めなければ。



「我は常に冷静だ。むしろシモベ君のこそ正気か? ホラー動画とは一体何のことだ?……まさか……」


「違う! 僕は憑かれてないから!」


 舞泉さんがまた「悪魔」云々言い出しそうだったので、必死で阻止する。


 舞泉さんはバカ正直というか、空気が読めないというか……少なくとも、この場をクレバーに遣り過ごそうという発想がないようだ。



「先ほどから君ら2人が何を揉めてるのかよく分からないのだが……とにかく、あの穴を掘ったのは一体誰なんだ?」


 布瀬川校長の質問に対して、僕は何か起死回生の言い訳を探していた。


 元々穴は開けられていて、僕と舞泉さんはたまたまそこに通りかかっただけというのはどうだろうか--よし、それしかない。



「実はあの穴は元々……」


「掘ったのはシモベ君だ」


 敵は味方にあり、である。


 僕は舞泉さんを牽制しよう睨みつけたが、舞泉さんは隣の僕を見さえしない。



「志茂部君、君が穴を掘ったということで間違いないか?」


「……はい。僕がやりました」


 こうなれば作戦変更である。

 僕が犠牲になることで、せめて舞泉さんだけでも救うのだ。



「僕が穴を掘っていたら、偶然舞泉さんが通りかかって、僕に注意をしてくれたんです。その場面を校長先生に見られてしまいました。ですので、舞泉さんは、運悪く巻き込まれてしまっただけで、何も悪いことはしていません」


「志茂部君、本当かい?」


「違う! シモベ君に地面を掘るように指示したのは私だ! 地面を掘ったのはシモベ君だが、シモベ君には何の責任もない!」


 舞泉さんが庇ってくれた……わけではないのかもしれない。


 きっと舞泉さんは、本気でそう思っているのだ。僕は単なる舞泉さんの「手先」に過ぎないと。


 舞泉さんには、世間体とか、損得勘定とか、そういうものが一切ないのである。


 舞泉さんは、常に、彼女の中の「真実」を述べているだけなのだ。



「だから、シモベ君が校長室に呼ばれるのは筋違いだ。もし校則違反で処分があるなら、我のみを対象にすべきだ」


「舞泉さん……」


 舞泉さんは美しい。


 それは決して見た目だけではないのだ。




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― 新着の感想 ―
[一言] どっちにしても、さらに厄介な事態になったぞぇ(;'∀')
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