ダウジング(2)
そんな気配、僕は微塵も感じなかったから、舞泉さんには、ダウジング能力はさておき、いわゆる第六感があるのかもしれない。
「先ほどから我々を尾けてるのは何者だ!? 出て来い!」
雨に濡れながら、舞泉さんは振り返ると、声を張り上げた。
尻餅をついたままというのはあまりにも無防備なので、僕も慌てて立ち上がり、舞泉さんの向いている方を向く。
そこには、中央校舎の、渡り廊下がある。
僕と舞泉さんを尾行するなんて、一体誰が何の目的で――心当たりは1つしかなかった。
貴矢が、僕と舞泉さんがイチャコラしないかどうかを見張っているに違いない。
サッカー部は雨の日には屋内で筋トレをしているはずなのだが、貴矢は、その下らない目的のためにサボりかねない。
先週だって、貴矢は、サッカーの練習をサボり、図書室での僕と舞泉さんとの会合を見張っていたのである。
「この学校の校庭には死体が埋まっている」という物騒な落書きについて相談していたということを知らない貴矢は、「2人が肩を寄せ合って1冊の本を読み、あとちょっとでチューしそうだった」などと戯けていた。
もしかすると、今回も「2人が相合傘をしてて、あとちょっとでチューしそうだった」などと言うのかもしれない。
もしそうであれば、僕は舞泉さんからの助言どおり、貴矢との縁を切ろうと思う。
尾行しているのは貴矢だと半ば確信していた僕は、校舎の脇からそろりと現れた人物を見て、度肝を抜かれた。
それは、花柄の小さな傘をさした可憐な少女――石月さんだったのである。
「お前は何者だ!? 名を名乗れ!」
「石月さん……どうしてそこに……」
「またシモベ君の知り合いか?」
ヤバい。このままだと、石月さんは、舞泉さんに、貴矢と同類であると括られ、「下賤の者」と蔑まれることになってしまう。
しかし、石月さんの表情からは、そんな危機感はちっとも読み取れなかった。
むしろ、舞泉さんに見つかり、誰何されたことが嬉しかったかのように、ニコニコと笑っているのである。
石月さんは、そのままの表情を保ちながら、僕らの方へ駆けてくる。
ローファーの靴でピシャピシャと飛沫を上げながら。
「シモベ君、こいつは誰だ? 説明しろ」
「この子は石月さん、僕のクラ……」
「友達です!」
石月さんが、僕の言葉を遮って、そう言う。
石月さんは、舞泉さんの前に立つと、
「この傘使いますか?」
と言って、自分が今使っている小さな傘を、開いたままで差し出した。
想定外の出来事に僕が役目を忘れ、舞泉さんが雨に打たれっぱなしだからだ。
「石月さん、大丈夫。僕が大きい傘を持ってるから」
そう言って、僕は舞泉さんをビニール傘の中に入れる。
自分が濡れているのか濡れていないのかは舞泉さんの関心事ではないようで、舞泉さんは、石月さんをじっと観察している。
「『友達』というのは一体何だ?」
相変わらずの難しい質問である。さすがに哲学的な意味を問うているのではないと思うが。
「私はまず野々原君と友達になったんです。それで、野々原君の友達の志茂部君とも友達になったんです」
「野々原君とは?」
「野々原貴矢君です」
「下賤の者か」
「ゲセンノモノ?」
「下賤の者というのはな……」
「石月さんは知らなくて大丈夫!」
石月さんに変な言葉を教えないで欲しい。
石月さんは良いところ育ちのお嬢様なのだから。
それが単なるイメージでなく、実際に実家が金持ちであることは、今日の昼休みに聞いたばかりだ。
驚くことに、石月さんは、貴矢からの告白の返事である「友達から始めましょう」を地で行っており、毎日、僕と貴矢とランチをするようになっていたのである。
「それで、シモベ君の友達のお前……えーっと、名前を何というんだったか」
「石月小百合です。女の子同士なので、ぜひ下の名前で呼んでください!」
「……小百合か。悪くない名前だ」
舞泉さんは、僕が名乗った時にも、「悪くない名前」だと言っていた。その基準がどこにあるのかは僕には分からない。
「では、なぜシモベ君の友達の小百合が、我々を尾けてたんだ?」
「ごめんなさい。尾けてたつもりはないんです。ずっと声を掛けようと思ってたんですけど、2人が『お取り込み中』みたいだったので、声を掛けるタイミングを逸し続けてしまっていて……」
「お取り込み中」では決してないのだが……舞泉さんの握りしめている物が分からず、2人の後ろ姿だけを見ていたら、もしかするとそう見えたのかもしれないが。
「声を掛ける? 我々に何か用か?」
「用事というほどのものはないのですが……」
「では、なぜ我々に声を掛けようとしたのだ?」
「今日は雨なので、私の部活が休みなんです」
石月さんは、おっとりとした雰囲気とは随分ギャップがあるが、陸上部に所属している。
「ですので、私も友達の輪に入れて欲しいな、と」
「友達の輪?」
僕と舞泉さんが同時に訊き返す。
「はい。私と志茂部君は友達ですので、志茂部君の友達である美都さんとも、私は友達なんです」
石月さんは、無邪気に、嬉しそうにそう言ったが、まるでネズミ講のような発想である。
石月さんが言うから微笑ましいのだが、たとえば僕がそんなことを言い出したら、引かれて、一気に友達を無くすような気がする。
というか、今、石月さんは、舞泉さんのことを「美都さん」と下の名前で呼ばなかったか?
なぜ舞泉さんのフルネームを知っているのだろうか?
そもそも、舞泉さんの存在自体、僕は石月さんに一言も話していないのに。
「なるほどな」
と、なぜか舞泉さんには、石月さんの説明が腑に落ちた様子である。
友達とは一体何なのか、僕の方がよく分からなくなってきた。
「ですので、志茂部君、美都さん、私も友達の輪に入れてください!」
石月さんの笑顔はどこまでも無邪気である。
自営業ですので、連休前は多忙を極めています。。
ストックはあるので毎日投稿はできるはずです。。




