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第355話「重なる想い」

クレイラは目の前の彼にその姿を視た。


自分の愛するレオンと、目の前のレオンとが重なるのを──


思わず笑みがこぼれる。


“あの時”と同じように戦わなければ、負けるのは自分だ。

自分の中にある全てのマナを使うつもりで、相対する。


「行くぞっ!」


レオンは吠え、懐まで飛び込んで来る。凍てついた剣に、愚直なまでの

蹴りを叩き込む。


何層にも重ねがけされた氷は、蹴りだけではヒビのひとつも入らない。


少年も理解したのか、やはり、という表情を浮かべてすぐに後退した。


「逃さないよ」


片腕の人差し指が向けられる。

右腕にぶら下がっている氷が、溶け出していた。


「──!?」


この場所で白がない箇所は見当たらない。それでも溶け出している、ということは、彼女が意図的にそうしているということだ。


レオンはふと、自分の拳を見た。

水が滴っている。


「痺れにもなれないとね?」


「そういう、ことか!」


極太の紫電が、クレイラの人差し指から放たれる。紫の直線は、レオンに付着した水に向かって奔る。


迎撃か?防御か?


そのどちらを行ったとしても、迸るような一撃が身を焦がすだろう。

ならば、レオンが取るべき選択は他にある。


「さぁて、どうするのかな?」


レオンは両手を交差させて、迫りくる紫電を捉える。

そして、彼は拳を後ろに引き、そのまま受け止めた。


「え……う、うそ!?」


「ぉぉぉぉぉおおおお!!!!」


直撃はしている。


だというのに、身体が焦がれている様子はない。

放射状に分かれる紫電を、レオンは

目も閉じずに受け止めている。


「破ァッ!」


咆哮する。


振り上げられた手は鋭利な刃のようで、容易く紫電を切断した。


「いったたぁ……」


そう零したのはクレイラだった。

始発点と着弾点を断ち切られた為に、その余波と反動が襲いかかったのだった。


「やるじゃない──のっ!?」


手をスナップさせて、衝撃を逃がしているその隙を、レオンは突いた。

彼は真上から紫電を断ち切った右腕を振り下ろす。


電撃の小気味いい音色が、クレイラの耳元で鳴った。


「うぉっ、と!」


絶縁効果のある土のマナで咄嗟に防御を取る。しかし、そのマナはまたもや簡単に粉砕され、威力健在のまま迫っていく。


ならば、とクレイラも氷の剣の代わりに雷の剣を作り出して、その手刀とぶつけ合う。


「彼の身体が帯電してる……?まさか──」


そんなはずはない。レオンの中に内包されているのはライルから託された光のマナと、元から存在している闇のマナのみ。


衝撃波で身体が飛ばされながら、地面に剣を突き刺して制止する。

その間、クレイラは一つの可能性を

感じた。


(光のマナで防ぎ、そして取り込んだ。イングラムと同じように血液みたいに張り巡らせれば、あの現象の発生も納得がいく)


レオン自体も理解できていないだろう。光のマナと闇のマナは、地球には存在しない宇宙の力だ。未知の能力や謎はこの星のマナ以上に多い。


「閃雷拳ッ!」


白と紫が不可思議な螺旋を描き、少年の拳が揺らめくと、紫電纏う拳が振り下ろされた。


それは地面を穿ち、深々と生まれた亀裂は、底しれぬ闇を見せた。その裂け目から、白と紫の光が放たれて、クレイラへ飛んでいく。


「おっと!」


「俺がいることも忘れないでよっ!」


地面からの雷光を避けていると、

上空から奇襲攻撃が迫ってくる。

拳には紫電が奔っている。


「ふふっ、忘れるわけないでしょ?」


穏やかに微笑むクレイラは、意気揚々と攻め手を繰り出そうとするレオンを見上げる。


なんと晴れ晴れとして、堂々としているのだろう。


(フフ……イイ顔するじゃない)


地面から放出されるエネルギーを避けながら、接触する寸前の拳、その手首をぐっと掴む。


「うわっ!?」


「油断したらダメだよ。いらない怪我をするからね」


攻撃が当たると確信していたからこその油断が招いた隙。


その勢いのまま、レオンは地面に吸い込まれるように叩きつけられた。

砂塵を巻き上げながら、口元を拭って立ち上がる。


「くっ……!」


「さぁて、まだまだいけるよね?」


巻き上がる砂塵を、土と風のマナを使って自分のものにする。


彼女の手に集約するエネルギーが

レオンに向けられる。


「さ、避けられる?」


「避けるさ、避けてみせる!」


バク転しながら、亀裂の直ぐ側まで

移動する。

未だに、そこから滲み出る雷光が

輝かしい。


(光のマナを付与してるなら、この雷は今、俺の支配下にある──!」


右腕を伸ばす。それと同時に、迫る強風と砂塵。


感覚が麻痺してしまいそうな激痛に襲われながらも、レオンはそれを堪えて上空に滞空するクレイラを見据える。


「おっと、流石に楽観視し過ぎかな」


炎と雷、水も追加する。

五大元素のエネルギーが集約され、

より強力なものに進化する。


対するレオンは、光と雷を右腕に宿している。彼はそれをゆっくりと上に上げて、自身の額にまで持っていく。


直後に、ソレは直線状に伸びた。

一筋の光に、雷鳴が周囲を取り囲んでいる。


「行くぞ!」


「いいよ、君の全力をぶつけて!

レオン!」


右足を前に踏み出して、そのエネルギーを頭部とともに突き出すことで発射する。


地上の光と、上空の五色のマナが

中間地点で衝突する。


「くっ──!ぅぉぉぉ!」


地面が衝撃で大きく抉れ、レオンは

反動で後退してしまう。

クレイラも、光のマナの凄まじい破壊力に苦笑を漏らす。


「これが、光のマナの力──!

凄すぎる!ちょっと、耐えきれない、かもっ!」


地球のマナよりも、宇宙のマナの方が強い。そう、目に見えない空の果てにいる存在に言われているようで──


「いやいや、ここで全力出したら、

レオンや皆と戦えなくなる、か」


クレイラはこれ以上の出力を断念し、自身の肉体を風のマナで地面へと降下させる。


同時に、衝突したエネルギーが空中へと暴発して、巨大なエネルギー反応を起こした。


「……お姉ちゃん!」


ビリつく腕を押さえながら、レオンはクレイラの気配を辿って駆けていく。


◇◇◇


「クレイラ、ようやく見つけた……」


「やっほぉノア、飛ばされた先に

あなたがいるなんて、驚いちゃった」


クレイラは後方へと吹き飛ばされていて、気が付けば大木に身を預けて

いた。彼女の目の前に立つのは、ノア・ハーヴィだった。


「さっきの光の柱、あれはあなたの仕業ね。一体なにと戦っていたの?」


「レオンだけど?」


隠す必要もないと判断して、クレイラはその相手の名を呟いた。

ノアが眉毛を細める。


「まさか、過去の人間に接触したの?」


「ダメって言われたわけじゃないし

歴史が別の方に分岐するだけだよ」


確かにこの時代でレオンとクレイラが逢うことはなかった。あの時空間に飛び込まなければ、この邂逅は絶対に起こらなかった。


「それはそうだけど、私としてはあまりいいものだとは思わない。

過去は過去のままであるべきだよ」


「それじゃあ、あなたはレオンを

孤独にしたまま成長してくださいっていうの?兄のレイに見捨てられて、魔帝都に行くまでずっと独りで?」


共に過ごしたのはたった1日だけだが、クレイラはレオンと触れ合った。


彼は素直で、真っ直ぐで、あの邪神に対してすら和解の道を提示したいと言っていた。そんな曇りのない少年の眼を、曇らせたのは誰だ──


同じ神殺しの血を持つ者ならば、身内であるのならば、それを理解できないはずはない。


「それが私たちの本来の歴史よ」


だというのに、ノアはそれがさも当然であると言うように述べた。

自分たちが飛ばされてしまったのならば、いかなる誰とも接触せずに元の時代に帰る方法を探るべきだったのだと


だが、それがもし、正しいのだとしてレーヴェやリディアが魔導書を精神干渉を通してきたのはどういう意味があるのか?


彼らは、レオンの現代の姿を知ってしまったからこそ、クレイラに頼んだのではないのだろうか?


ノアは、彼らと接触していないのか?

いや、接触してなお、その結論に至ったというのか?


「そう……あなたの考えはよく理解できた」


クレイラは身体を起こす。


雷のマナに混ざっていた光のマナに触れたおかげか、身体の負傷は無いも当然のものになった。

それどころか、全盛期に戻ったような感覚さえ覚える。


(レオン……もしかして私の身体のことを戦って察知したというの?)


先ほど戦っていた時よりも、感覚が研ぎ澄まされているようだ。


拳を握る感触や、地を踏む力がほんの少しで済んでいる。


「どこへ行くつもり?」


ノアはクレイラの行動を知りながら、そんな言葉が出てしまう。

友だと思っているからこそ、怒気が強めに出てしまう。


「レオンのところに戻る。あの子を……まだ独りにさせるわけにはいかない」


「ダメ、これ以上過去に干渉することは許されない」


ノアは黒い羽扇を突きつけ、クレイラの前に立ちはだかる。


歴史を愛するからこそ、IFを許すことはできないのだろう。

たとえ、それが身内の辿る経緯だと知っていても──


クレイラは、レオンが孤独ではない世界線があってもいいと願う。

それが身勝手で我儘なことは百も承知している。


だが、それは他でもない彼の両親からの切なる願いでもあるのだ。


「どいて、せめてレオンが心を強くするまでは私が近くにいてあげないと」


「あなたが元の時代に戻ったら、その行動は意味がなくなる。

むしろ、もっと孤独を感じるかもしれないのよ?」


「意味のない行動なんてない。

私はレーヴェとリディアに頼まれたの。私を邪魔するってことは、2人の願いを踏みにじることになる」


ザッ、と第三の足音が聞こえてきた。


右腕を押さえた、若きレオンがやってきたのである。


「えっ──ノア姉さん!?」

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