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第348話「それぞれの役割」

「ちょっと!どうなってるのよ!?」


レベッカの突進はまたも空振りした。


ノアが部屋へ続く神殿の入口に足を踏み入れた瞬間に、突如として空間が湾曲したのだ。


「空間がねじ曲がっている……レベッカさんのタックルが、触れた瞬間に反対側に向いているみたい」


「とすると、マナの攻撃も反転するだろう。下手に攻撃することは出来ねえか」


地上へ続く道は、この現象のせいで行くことは出来ない。各領域への移動も不可能になってしまった。

外にいるクロノスたちに何かあったのでは、と不安が過ぎる。


「不安ばかり募らせても仕方ないよ……何処か別の道を探さないと……」


「と言っても、俺たちここから先に

進んだことないよ?スクルド様たちもいないし、許可された場所以外を勝手に動き回るのはちょっとなぁ」


ルシウスの提案にルークは気が進まない様子だった。彼らが許可された範囲は、この神殿の中にある各々の部屋と、領域へ繋がるワープゾーン、そして地上に繋がるルートのみ。


つまり、彼らは自分たちの部屋を挟んで続く奥の道には行ったことがないのである。


「なら、俺が行こう」


イングラムが一歩前進し、そのままゆっくりと歩き始める。


「私もついていくわよ」


ソフィアも一緒に、駆け寄って、並び立って進んでいく。

リルルは目と眉毛を細めて、ソフィアの背中を睨みつけていた。


ノアはリルルを抱きかかえ、レベッカに預ける。そして、クレイラが二人の輪郭が奥へと消えたのを確認すると、全員に目配せした。


「よし、じゃあ、アデルはここで空間の調査を続けて、セリアは中和剤の改良をお願い。イングラムとソフィアに何があってもすぐ対応できるように、私は追いかけるよ」


クレイラは迅速に判断を下した。

アデルバートはベルフェルクに次いで超常現象に詳しい。


そして、瘴気を無効化させる中和剤の改良もまだ残っている。

セリアにはそれに集中してもらわなければならなかった。


「なら私も行きます。超常現象は私の専門外ですし」


ノアもクレイラについていくことに決めたようだ。

ふぁさり、と黒い羽扇を広げては、未知の道を真っ直ぐに見つめる。


「この先に何があるかわからないけど、きっと外に出る道にも繋がっているはずよ」


「そう信じよう。

それじゃあみんな、また後で」


そういうと、ノアとクレイラはイングラムたちと一定の距離を空けつつ奥へと進んでいった。


「よし、ルシウスとルキウスは俺と一緒にこいつの解析を手伝ってくれ。

レベッカとルークはシュラウドと特訓していてくれ」


で、とアデルバートはユーゼフを見やった。


「ユーゼフ、リルルを見ててやってくれないか」


その場にいた全員が、まさかの指示に目を見開いた。どういう心境なのかと。

普段の彼ならば、絶対に下さない指示だ。


「いいの?俺を信用して」


「守ることに関しては、多分この中じゃお前が一番適しているだろうっていうのが俺の判断だ。信頼はしてる、その点だけはな」


ユーゼフの防御力は、確かにこの面々で比較するととてつもないものだ。


リルルに身の危険があったとき、真っ先に盾になることができるのも彼だろう。


「ふぅ〜ん、珍しいじゃんね?

リルルちゃんはど〜お?

俺と一緒なら退屈はさせないけど」


ちらりとアデルバートを見やったあと腰を落として目線を同じくする。

ユーゼフとて、強制はしたくないのだろう。


嫌だと拒絶されれば波にさらわれた

砂の城のように、メンタルが壊れてしまうだろうから。


「うーん、確かに蟹のおじさんと遊んだ記憶はないかも?追っかけられてた思い出はあるけど!」


「ふへ、俺も成長したんすよリルルさん!

自制がこう、ぎゅって!」


語彙力が壊滅的ではあるが、その口調に下心は感じられない。守ろうとする意思が感じられた。


だからこそ、アデルバートもユーゼフなら絶対に守り切るだろうという

信頼が芽生えたのだろう。


「よし、それじゃあ解散だ。

俺たちは、この空間湾曲を解析する」


「ルーク殿、レベッカ殿……しばらくは私と特訓と参りましょう」


ルークとレベッカもシュラウドに頷いて、特訓ルームに入っていく。


「よし、リルルちゃん!この、ユーゼフ・コルネリウス様と一緒に有意義な時間を過ごそうねっ!」


「はーい!蟹のおじさんなら、私とたくさん遊んでくれるよね?休んだりしないよね?」


「モチのロン毛よ!」


じゃ!行こ?と手を握られて、ユーゼフとリルルは一番奥の部屋に移動していった。


◇◇◇


イングラムとソフィアは、奥へ奥へと足を進めていた。

前後は暗がりばかりで、イングラムの作り出した紫電が唯一の光源だった。


「さっきからずっと一本道が続いてるね……なんか空気も重たいし……」


「そうだな、幽霊でも出てきそうだ。

俺は歓迎だけどな」


「ははは……まあ、私は死神もついてるし、イングラムさえいればなんとでもなるよね」


引きつり笑いをしながら、イングラムを見つめていると、彼がピタリと足を止める。


「なんだ、やけに厳重な扉だな……」


そう呟いて、ふと視線を前に向ければ何重にも施錠がされている扉が見えた。


「イングラムのマナで破壊できない?」


「それは最終手段だ。まずは解錠できるかどうか確かめてみよう」


イングラムはまず、手でそれに触れてみた。何か特殊な守護が施されているわけではないようで、拒絶されるような現象は起こらなかった。


「これ、知育?」


「さあな……この手のものはあまり得意じゃないが」


よく見れば、それはダイヤルがついている南京錠で、大人の知育で用いられるような鎖のようなものがあった。


「まあいい、とにかく挑戦するか。

君はそこで見ててくれ」


そして、どれほどの時間が経過しただろう。イングラムは大の字に寝そべって白旗を上げていた。


「もう無理!」


「あはは……」


こういったものでも難なく解いてしまえるのがイングラムだと思っていたのだが、流石に彼も苦手なものがあるらしかった。


〈情けないわね、私が手を貸してあげましょうか?〉


「紫狐様……?このクソ難しいクイズを解いてくれるんですか?」


〈ええ、あなたを通して構造を確認していたの……解く為にもあなたの身体をほんのちょびっとの間借りるわ〉


ふっ、とイングラムの中に紫色のオーラが入っていくと、その姿が妖艶な着物を着た美女へと姿を変えていた。


肉体の主導権を紫狐に明け渡したのだろう。


「ふふふ、こういう難しいのはね……

こうするのよ!」


紫狐は人差し指を向けて、そこから小さな紫電を放出した。

辛うじて目に見える程度の紫電が、南京錠をいじった。

すると、勝手にクルクルと動き出す。


「数字が……」


最初は適当に並べられているだけだった数字も、数分すると綺麗に並び替えられた。

かちり、と音が鳴って、南京錠が落ちる。


「やったわね、それじゃあ次よ。

こういうジャラジャラしたのは、こうすればいいのよ!ふんぬっ!」


紫狐はそれを無理矢理引きちぎった。


「うわぁ……」


知的な雰囲気を感じさせる彼女からは想像もできないほど脳筋な方法で強引に突破したのだ。


「あ……ほら、開いたわ」


がちゃりと扉が開くと、そこに広がっていたのは吸い込まれるかのような異空間だった。それは、封印が解かれたせいなのか、


その場にいる2人を吸い込もうとしはじめる。


「これ、絶対外に続く道じゃないよね!?

絶対どっかに飛ばされるパターンだよね!?」


「いいじゃない、ここにずっといるのも退屈でしょう?」


にこり、と微笑んで2人は吸い込まれていった。


そして、その後ろについて行った

クレイラとノアも巻き込まれる形でその扉の向こうへと消えていくのだった。



眼前に広がるのは、まるで宇宙空間だった。無重力で浮かぶ身体は、うねり曲がった一本の道を進んでいる。


この空間が動いているのか、それとも彼女らの身体だけが動いているのかは定かではないが、摩訶不思議な経験であることは間違いなかった。


「どこに向かってるのよ!?」


「……さあな、別の世界に行くのか、それとも宇宙の果てに投げ出されるのか……どちらにせよ、到着しなければわからないさ」


「なんで冷静でいられるのよー!!!!」


もとに戻ったイングラムの両手を恋人繋ぎして、離れまいとするソフィアたちはぐんぐん吸い込まれていく。


「ねえノア」


「うん?」


「火星とか水星とか見えるよ」


「あっ、ほんとだ!なんかすごく近いわ!

この空間、もしかして宇宙なのかな?」


空中へダイブする姿勢で、2人は左右に過ぎ去っていく天体を眺めていた。


しかし、感想を言い合う前に、彼女らも吸い込まれ、そして消えた。

4人を取り込んだワームホールらしき

ものは、ねじれた空間を正し、閉じた。

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