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第342話「苛烈な攻防」

「君は凄いな、姉と同じで息が少しも乱れていない。攻撃と防御を織り交ぜてよく戦っている」


「いえいえ、そういうあなたこそ、血の滲むような努力をしてきたってのが伝わってきますよ。生半可な覚悟じゃこうはならないですからね」


「わかるのか、まるで仙人のようだな」


攻撃の手を緩めず、熾烈な攻防を両者は繰り返していた。少女の華麗で強烈な攻撃は、ライルも舌を巻くほど見事なものばかりだった。


「まさか、ただの人間ですよ」


「ただの人間、か……マナを2つも巧みに織り交ぜて戦っているんだ。そんな簡単な言葉で済ませられないな」


少女は仮面の奥でニコリと微笑むと

両手に紫電と水の球体を浮かばせた。


右手の紫色の球体はぱん、と風船のように割れ、枝分かれしたそれは意思を持ったようにライルに迫った。


眼前に迫る無数の放電、その隙間を掻い潜りながら回避していく。


「それ、もう1つ!」


左手に浮かんでいる水色の球体を宙に浮かばせる。中には人体と同じ体液を含ませているため、感電をより強力なものにするには非常に都合がよかった。


それを水風船のように迫るライルに投擲する。プロ野球選手顔負けの速度に、戦士は無反応で手で弾いた。


「悪いところが出たか」


枝分かれしていた紫電は、太く妖しい紫色を揺らめかせて濡れてしまったライルへと直撃する。強烈な痺れが身体中のあらゆる細胞を襲う。


「──く」


地面を踏み潰し、土壁を隆起させる。


後続の電撃を断ちながら、ライルは自身の身体に纏わりついた体液を気迫で全て弾き落とす。


「かなり痛いな」


「ですよね、私も最初は耐えられなくて死にかけちゃいましたもん」


背後から気さくに語りかける少女の声が聞こえた。それもそうか、とライルは思う。


水と雷のマナが彼女の手にあるのだ、探知能力の精度も2倍。気配を悟らせずに後ろを取ることも容易いはずだった。


ぽんっ、と肩に手が置かれる。

生地の薄い布地のもので肌を守っているのだろう。


「ぱんっ、てやってもいいですか?」


「構わんよ」


ぱぁん、と軽やかに割れるような音色が響き、ライルは少女の元いた場所に吹き飛ばされていた。


身体中がまだ痺れを切らしていない中での水圧攻撃は大きなダメージになってしまった。


「おー、すごい!これに耐えちゃうんだぁ……そんな人はじめてかも!」


「やれやれ、身体中が本格的に痛むな……レオンやオヤジ以来だよ。全身に傷をつけた人間は」


ふう、と短く息を吐く。

全身に付いた砂埃を払うように、自分を未だ蝕んでいる電撃を取り払う。


「君たちについてますます興味が湧いた。

師は誰なのか、その力は生まれ持ってのものなのか、答えてもらわないとな」


「あはは、参ったなあ。こんなに迫られるなんて思わなかった……これもはじめての感覚かも」


ライルは構えながら、懐へと音も無く飛び込んだ。白い残影が少女の視界にある。


「おっ、と!」


熾烈な回し蹴りが少女の頰を掠った。

ほぼ反射的に、無意識に身体が避けたのだ。


(迎撃よりも先に、勝手に身体が避けた。

喰らったらまずいってことだね)


片方の目が、地についている右足を捉えた。音もなく、素早く左足を身に着けて入れ替えるようにして右足を振るう。


姿勢を崩し、海老反りのようにして身体を曲げて避ける。


ライルへと突き出した右手から、水のマナを放射して距離を取る。


「フゥ……久々にヒヤッとした……」


「残影脚」


たった今避けた二段回し蹴りを繰り出したのは残影だった。


安堵したその一瞬の隙を突いて、ライルは既に距離を置いた場所へと移動していたのだ。気配が前方から後方へと移り変わっている。


「──!」


探知能力よりも疾く、その攻撃は少女の身へと降りかかった。


繰り出された蹴り技はシンプルな二段蹴りだったが、その攻撃は追従するかのように

何度も何度も衝撃が走ってくる。


「ぐっ……つっ!」


ライルが動けば動くほどに影が生まれていく。


「疾くて視覚じゃ全部捉えきれないなぁ」


ならばと、その視覚をあえて封じよう。


小さく一息を置いて目を深く閉じる。


見ていてはラチがあかない。ならば、聞くよりほかはない。

聴覚は近寄る足音を正確に拾い上げた。


暗闇の中で戦う術を強制的に学ばされたのが功を奏した。


「聞こえた──!」


地から脚が離れる音。空を切る脚の音。


それは近くから放たれたものだということ。


「紫電!」


目を見開き、叫んで、自分の左足にマナを込めて振り上げる。

雷が至近距離で着弾したような爆音を轟かせた。眼前には、ライルが驚いたような表情を一瞬浮かべていた。


だがそれはすぐに笑みへと変わる


「大したものだ、視覚の不完全さを

聴覚で補うとは」


まさか、そんな方法で防がれるだなんて。


いや、この子ならばもしやと、心の何処かで思っていたのかもしれない。


まだ誰にも伝えていない方法を、思い付きでやったとは思えなかった。


「君の師は随分といい戦い方を教えてくれたようだね」


素直に称賛したくなって、思わずそれが言葉として出ていた。


「褒めても、何も出ませんよっ!」


紫電纏った足に、水圧を追加する。

重々しい一撃が衝撃となってライルを後退させた。


「……どうやら、ベルフェルクが勝ったらしい」


「そうみたいですね……」


隣の戦闘音が突如としてしん、と止んだ。


ベルフェルクの足音が聞こえて、黒き外套の少女の足音は聞こえない。

妹てある彼女にも、勝敗の天秤がどちらに傾いたのか察したようだった。


「だからといって、俺は安心したりしない。君を確かめるまではな」


「それ、どうにか却下できません?」


女の子の身の上を剝ぐようなことを、紳士のようなあなたがするのかと、白い少女は問うた。


ライルは微笑して、仕方がないんだ。とだけ答えた。


「君の姉があんな大胆な奇襲を仕掛けてきて、クロノス様が危うく重体になるところだったからな。相応の情報は引き出させてもらうぞ。嫌なら全力で抵抗することだ……!」


「うぅ、あまり奥の手は使いたくないんですけど……致し方なしかな」


白い少女は両手の平を向ける。

ふっ、とライルの後ろを何かが横切った。


「なにっ!?」


赤い球体と、緑の球体が取り込まれていく。彼女の身体の背後に、風と炎がオーラとなって顕現した。


「ベルフェルク!」


「ほう……取り替えた、わけではなさそうだ。どうやらマナ自体を譲渡したようにみえた」


ベルフェルクが言うには、姉の方は気を失っているらしい。


ということは、本人の同意無しであっても、マナの譲渡は可能らしい。手数が増えた分厄介かもしれない。と憶測する。


「考えるのはいいですけど、集中を切らしたらだめですよ?」


火、水、風、雷の4種のマナが宙に舞い上がり、そこから極太のレーザーを放射する。


「恐ろしいなっ!」


乱雑に、複雑に軌道を描くレーザーはライルの着地箇所を刈り取るようにして着弾していった。


少女は地を蹴って、残響を響かせながら迫ってくる。


「雷炎昇裂脚」


火炎と雷撃が纏った二段蹴りが、風のマナの効果で加速に次ぐ加速が付与されていく。音を置き去りにした熾烈な二撃。


ライルが防御の姿勢を取るよりも早く、それは触れた。


「ぐっ、ぉぉぉ!!!」


身体が悲鳴を上げる。

雷撃が感覚を遮断し、火炎が即座に内側まで侵入し、焼かれるような不快な感覚な襲う。


「これ、は……想定外だっ」


ライルが膝をつくのははじめてだった。


表情からも見られる苦悶。滲み、零れ落ちる血液は熱によって蒸発していく。


「降参しますか?ライルさんが白旗を揚げてお姉ちゃんを返してくれて、今回の件を忘れてくれるのなら、こちらは引き上げますよ」


「悪いがそうはいかない……君たちのことを知りたいと、知らなければならないと、なせだか俺の意思がそうさせるらしい。悪いが白旗をあげることはできんな!」


加勢に出よう、と思ったベルフェルクは伸ばしていた腕を降ろした。

ライルならば、マナなど使わずとも必ず隙を見つけ出し、機転を効かせて勝ちをもぎ取るだろう。


「そうですか、なら仕方ないですね」


のほほんとしていた白い少女の雰囲気が一気に鋭いものへと変貌する。

宙に浮かばせていた4種の球を取り込んで、全てのマナを身体の外側へと放出する。


「先に謝っておきます。殺してごめんなさい」


雷撃と共に駆け抜け、烈風がその身を後押し、火炎が地面から噴出して、深海と同格の水圧が右手から発射された。


「ちっ!」


捌けど捌けど、マナの連撃は止まない。


光のマナを使うことができない今、ライルは己の肉体のみでそれを躱していた。


「裂傷風雷斬!」


手刀を振られ、空気が震える。

雷の刃を包んだ風が、音速を越えて飛んでいく。それは意思を持つ生き物のように軌道を変え、向きを変えてライルを確実に追い詰めていく。


「ふっ──!」


地面を蹴り上げて隆起させる。

しかし、2つのマナは勢いを殺されただけで、容易く壁を切断し、ライルに激突した。


(強い……!)


壁に叩きつけられ、肺の中の酸素が一気に体外に出ていく。

水面下から顔を上げた時のような感覚が内臓系統をぎゅっと縮小させる。


「がはっ──ぐ、くぅ」


「わお、強いですねぇ」


ライルは立ち上がろうとするが、電撃のせいで動きがぎこちなくなっている。


切れた口元を拭うにもかなりの時間を要する。


「2つのマナを受けて死なない人なんてはじめてですよ。すごいなあ」


白い少女は称賛をしつつ拍手を送る。


嫌味などではない。ライルはそう感じた。


彼女は本当に、心底称賛しているのだと感じ取れた。


「君は、君たちは一体──」


ライルの意識は激しい痙攣とともに

遠のいていった。


「さて、次はあなたですね。ベルフェルク“先生”?」

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