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第307話 「仙桃卿への道」

「よう、大丈夫かお前ら」


「うん、なんとかね……」


シンディはレベッカとルークの身体に触れて、疲労や呪詛を取り除いた。


もちろん、仮面の魔術師に触れられた感触も綺麗サッパリとリセットしてもらった。


「ごめんなさい、私がもっとしっかりしていれば……」


「いえ、スクルド様のせいじゃないですよ。もとはといえば、あいつが卑怯な手を使ったんですから!今度会ったらぶった斬ってやる!」


レベッカは気丈に振る舞っているものの、どこかしんどそうに見えた。

ルークの足を引っ張ったとか、みんなに迷惑になったとか、きっとそんなことを思っているはずで、だから、神としてはそれを見逃すなんて出来なくて──


「……っ」


声を漏らしたことを、気づかれないように、スクルドはレベッカを抱きしめた。


優しく頭をなでて、背中を擦った。


「私は、オーディン様や姉さん達のように、立派ではないけれど……こうしてあげることくらいは、できるから」


自分は半神半人だ。神にも人間にもなりきれない、中途半端で、未熟な存在。


でも、だからこそわかることもある。


人間の、隠そうとする感情を読み取れるから。


「今は、私の胸の中で心を落ち着けてちょうだい」


「……わかりました」


声を押し殺しているのがわかる。

彼女も戦士だ、何度も死ぬかもしれない場面に遭遇してきただろう。


しかし、今回のような件ははじめてかもしれなかった。レベッカの表情を見れば、わかる。


「よしよし」


ルークもぎこちなく、背後からレベッカを抱きとめる。


頭を優しく撫でて、めいっぱいのかけるべき言葉を思い浮かべる。

けれど、こういう時の適切な言葉が出てこない。


「ねえレベッカ──」


スクルドがルークに頷いて後押しする。


間違ってもいい、これから言う言葉が正しいかどうかなんてわからない。


けれど、レベッカを慰められるのなら、少しでも悲しみを払拭できるのなら──


「結婚しようか」


「「────!?!?!?」」


いきなりの爆弾投下、おまけに拡大した。


シンディもスクルドも、まさかこんなところで告白するだなんて思わなかったはずだ。度肝を抜かれたような顔を浮かべている。


「それで、2人で悠々自適に暮らそう。ずーっと依頼をこなしてきたから貯金はあるし、100年分くらいは余裕で過ごせるよ」


(フッ、ようやく前に進んだか……)


アデルバートは腕を組みながら、背もたれに身を預けて瞳を閉じる。


昔は奥手だったルークだが、旅を重ねて大きくなったらしい。

親友として、誇らずにはいられない。


「クトゥルフたち倒したらさ、お互いの好きな宝石を結婚指輪にしようよ、俺は綺麗なやつがいいな」


こんな状況を、こんなに和やかにする。


レベッカは泣き出すよりもまず、不意を突かれて吹き出してしまった。


「もう、本当に……ふふ」


「なにさー、俺は本気だよ〜?」


冗談ではないのに、とルークは必死に弁明するが、レベッカは終始クスクスと笑っていた。


それは決して馬鹿にしているわけじゃない。彼の中の慰めの選択肢が、まさか結婚になるだなんて、彼女も思ってもいなかったのだから。


「け、け、けけけけ、結婚!?

そ、それってつまり、チューしたり

抱き合ってその、指と指を絡めて、それから──」


「スクルドあんた、恋愛の耐性なかったんだな……」


顔を赤くし、両手で覆う女神様を

アデルバートは髪を掻きながら微笑した。


◇◇◇


レベッカの調子が戻って後、スクルドが再び先導し、壁際のレンガの一部を力いっぱいに押し込むと、それがスイッチの代わりになっていたのか、この古城全体が大きく振動する。


「……なあスクルド、気にかかることがあるんだが」


「大方予想はついているわ。

あの仮面の魔術師、ルシウスが脱却したことも、ベルフェルクが死んだこともおそらく知っていた……」


「ソラリスに内通者がいるのか……?

もしくは、地球側の神に擬態した邪神側の“ナニか”か──」


「わからない……でも、その可能性は捨て切れないわね。オーディン様に伝えておくわ」


「頼む、内紛をしてる暇はないからな」


こくり、と頷く。

今現在の各領域は、揃って警戒態勢を保ちつつ、互いに不可侵の同盟を設けている。


オーディンが全体的のリーダーではあるが、その指揮系統が機能しているとは言い難い。それは、彼らの傷が影響している。


邪神たちから受けた傷は、進行系で

彼らの神核を癌細胞のように蝕んでいる。


イングラムたちと同等の頭身でなくては戦うことすらままならないのだ。


それを挽回するための光のマナであり、そして今回の2つの石なのだ。


「しかしさっきの状況を踏まえると、向こうは俺たちが仙桃卿に行くことも知っているだろう。背後に付いて、掠め取る算段かもしれん」


「邪神にとっては、地球の神が用いる強力な治療薬のようなもの、是が非でも破壊したいでしょうね」


「ふん、ならさっさと取りに向かうぞ。

手に入れた途端にズバン、とならないように、ある程度のプランは練っておく。

それが完成次第、あんたの脳内にテレパシーで伝えさせてもらうぜ」


「ふふ、ずいぶん私を買ってくれるのね?ルークたちでなくていいの?」


「守秘義務って点では、アンタが一番信頼できる。なにより、ルーンのサポートさえあれば挽回もできるだろうし、それも込みだよ」


「ふぅん……?

まあ、期待に応えてみせるわ?」


意外に砕けた反応を見せてくれる。

最初のときとは比べ物にならないほど態度が軟化した。


言葉の棘も、仲間を思ってのことだと理解してからは、なんだか弟のように思えてしまう。


彼が自然を外した。今なら撫でられるかもと思った瞬間に、周囲の景色が桃色の濃霧に包まれた。


どうやら、仙桃卿近くに到着したらしい。


「着いたわね……と言っても、神社は

見当たらないけれど」


スクルドが周囲を飛んで見ていく。

人の気配も、動物の気配も、なにもない。


漂うのは桃色の濃霧だけだ。

吸ってみても変な気分にはならないし、身体が熱くなったりもしない。


「えらく不気味なところだなぁ……ほんとにここに輝石があんのか?神サンよぉ」


「……入口を守る巫女さんがいるはずなんだけど」


〈要は、霧を吹き飛ばしゃいいんだろ?

なら俺とルークの出番だぜ〉


碧虎の提案は一理ある。

視界を遮り、仲間すら見失いかねないほどの濃い霧だ。このままでは樹海のように道に迷ってしまう。


それでは時間を浪費するだけだ。


〈霧は水分ですからね、つまりは我々でどうにか出来てしまうというわけです〉


「よし、そうと決まれば木の板と木の棒を用意するか」


「マッチあるわよ、いる?」


「「「なんでそこだけ原始的なんだよ&なのよ!!!」」」


ルーク、レベッカ、シンディの総ツッコミを右から左へ受け流しつつ、アデルバートは乾いた木を板にして、真ん中に穴を開けて棒を突き刺し、左右に亜光速回転を始めていく。


「着火!」


次いで、スクルドがベストなタイミングで火を投下する。


削られた木の粉が、燃え盛る火と結合して炎を巻き起こす。


〈温かな水を送りましょう!そぉれ!〉


炎を守るように囲う水は、ルークの風によって上昇していく。


〈そら!どんどん飛ばしてくぜ!〉


「レベッカ、シンディ!

アレに向かってふぅ!ってして!」


「「はぁ?」」


ルークと碧虎の巻き起こす風には

酸素のほうが割合6:4で若干多い。

二酸化炭素を少しでも増やすため、スクルドは指揮官のような勢いで水と炎の渦を指さして命令する。


「二酸化炭素注入よ!!」


女神の真剣な眼差しと表情。


そしてその声に思わずやらなければならないという使命感が生まれ、ふたりは空を見上げてふぅふぅと全力で二酸化炭素を吐き出した。


巨大風船を全力でふくらませるが如し。


「オラオラオラぁ!

まだまだ摺るぜ!」


木の板を擦る速度は更に増して、加速していく。


その都度生み出される木の粉は、着火している火に燃え移ってその規模を緩やかに大きくさせていく。

みな全力である。


〈ほれわっしょい!わっしょい!

もっと吹き荒れるぜぇ!〉


〈暖まってきています。

霧を晴らすことができるのも時間の問題でしょう。お湯を作り上げるんです!

このエリアの大気を暖めるんですよ!

もっとね!〉


4人と2つの概念は、まるで祭りでも行うかのようなテンションで、炎と水の渦を育てていった。

そして、15分後──


「晴れたわね……いい汗をかいたわ」


真っピンクだった濃霧は綺麗さっぱりにはらわれた。


秘伝技並みの効果は伊達ではなかったようで、スクルド以外の全員がその場に腰を下ろした。


「……あら、もうへばったの?

らしくないわね」


「へっ、口しか動かしてねえアンタに言われたかねえよ」


「ふっ、まるでありがたみをわかってないわね……いつもより力が出たでしょう?」


まあたしかに、そう言われれば力が湧いたような気もしなくもない。ルークはわかり易すぎるほど張り切ってはいたが。


「それにしても見なさいよ、この晴天。

まるで話に聞いた高天元のよう!」


「行ったことないのか」


「もちろんないわっ!」


雲一つない青空、足元いっぱいに広がる緑の原っぱ、足を踏む度に草の根が仄かに香り、疲れて心身をリラックスさせてくれる。そして目の前に突然として現れる大きな神社。


「あれよ、仙桃卿に繋がる唯一の道。

その名も黒烏神宮よ」


どうやら先程の濃霧は結界の役割を担っていたらしい。


気配も姿も、一切感知できないほどのパワーが秘められているようだ。

人が何人も入れそうな入り口、古き良き時代を思わせる風貌の神社だ。


「ふふ、彼女に会うのははじめてね。

でも事情を話せばきっと理解してくれるはずよ」


「神社ということは、きっと必ずどこかに巫女がいるんですね?」


ルークの声に喜びが宿っている。

巫女服なんて、今ではコスプレでもなかなかお目にかかれないレアな衣装だ。


彼が興味を惹かれないはずもなく


「えぇ、門番のようなものよ。

私も顔は知っているけれど──」


ぎぃ、と中央の扉が開く。

神聖な光をバックに、黒い巫女服に身を包んだ1人の少女が祭壇を降りてきた。


「おぉ……和って感じしますね」


「えぇ、和って感じするわよね」


語彙力の壊滅的なルークとスクルドを他所に、アデルバートとレベッカは嫌な気配を探知して警戒態勢を取る。


「どうやら歓迎ムードじゃあなさそうだ。

お前ら、油断するなよ!」


黒巫女は払い棒を前に突きつけて、

聞こえないようなか細い声を零す


「……侵入者は、排除する」


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