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第26話「レオンとの出会い」

「なに?レオンが行方不明だぁ?」


アデルバートの小屋で、主人の大声が聞こえた。今は旧友同士で会話をしている。

これまでの経緯を、説明するために。


「そうだ、後輩からの情報で、魔帝都の暗部がレオンさんに特務を与えたらしい……

その任務がなんなのかは、未だ掴めていないみたいなんだがな」


「それで、俺の力を借りに来た、と?」


「そうだ。お前のその協力者さえあれば

レオンさんを見つけ出すことができる」


「断る」


イングラムの言葉を遮るように

冷たい声を重ねた。

その返答に、眉を細めて声を荒げる。


「なぜだ!?お前ほどの力があれば、奴らから情報を抜き出すことだって出来るだろ」


「悪いな、俺は今オイフェ皇太子の教育係として忙しいんだ」


オイフェ皇太子、きっとこの国を治める若き王なのだろう。しかしなぜアデルバートがこの人物の教育係をしているのだろうか。


「お前が今思ってる通り、俺以上に適任者は何人かいた。が、そいつらはここの貴族に気に入られてなくてな、全員殺された」


ソルヴィアのみならずここですらまともな貴族がいないとは……貴族不信になるな。とイングラムは思った。


「んで、俺がそいつらをバッサバッサと

再起不能にしたのを気に入られたんだろう。皇太子の召使においでませと言われて

強制的に雇われちまった。殺しても良かったんだがな」


「……それは、運が無かったな」


ふん、とアデルバートは鼻で笑い、言葉を紡ぎ続ける。


「『蒼髪』なんていう貴族殺しの二つ名と

いらねぇ教育係を押しつけられちまった。

一つ目はともかく、二つ目は断ればセリアがどんな目に遭うかわからん、だから仕方なく、しかたなく!大人しく教育係をしているわけだ」


「なるほど、勝手に経歴を調べあげられたか…」


こくりとアデルバートは頷いて

もたれかかっていた壁からその身体を離した。


「まあ、俺はあーいうタイプにホイホイ従う人間じゃねえのは自分がよく知ってる。

機会があればそのうち……」


片手に作り出した小さな氷のナイフ、その柄の部分を強く握りしめる。


「その人は悪政を敷いているのか?」


「いいや、政治に関しては無知もいいところだ。それを貴族達が悪用してる。だから、俺が教えてるんだ。あの馬鹿太子の周りの人間も、先代に甘やかされて何も見てこなかったらしいからな」


これはかなり骨が折れそうだ。アデルバートを正式に仲間にするにはその皇太子をどうにかする他ないらしい。まずはその人間がどんな人物なのかを見定める必要が出てきた。


「レオンが行方知れずなのは俺も気がかりだが、下手に抵抗しようものならあいつと一緒に絶対零度の地下牢送りだ」


「あいつ……?」


「いや、気にするな……あいつは外に出さない方がいい。困る民たちが出てくるのは絶対に、確実だからな」


ふむ、とイングラムは腕を組み、顎に手を当てて思考する。それと同時に、医務室からセリアが顔を覗かせた。


「アデル様、イングラム様。ルーク様のことですが————」


ルークという言葉に、ふたりは無意識に反応して身体を向けた。


「どうやら、先の怪物と何かしらの関係があるようなのです。医務室へどうぞ」






セリアに案内されるがまま、集中治療室のベッドに横たわっているルークの前に彼らがやってくると、早速セリアは説明を始めた。


「看護されていた方の言と、私が独自に検査をした結果。これは重度の精神負荷症と判断しました。」


「精神負荷症……未だ治療が解明されていない難病の一種ですね」


イングラムが腕を組みそう呟く。


精神負荷症とは。プレッシャーによる負荷が精神的悪影響を与え、意識を閉ざしてしまう。強い精神力がなければ、誰にでも患う可能性がある病なのだ。


「ですが、その精神干渉の効力がおふたりのおかげで衰えているようなのです。意識を取り戻すのも、時間の問題ですね」


「……目が覚めなかったらどうする?」


「その可能性も踏まえ、私はあの果実を服用することを考えました」


アデルバートの不安を、セリアは力強く拭い去った。“あの果実”を使うのだという。


「セリアさん、あの果実とは一体?」


「それは、ストロングベリーです」


「す、ストロング、ベリー?」


アデルバートは目を見開いてなるほどと

呟いたが、イングラムはなんの果実なのか見当がつかない。


「簡潔にご説明しますと、ストロングベリーはコンラ周辺にのみ実る果実で、不思議なことに電子媒体と連動させることができるのです。」


「えっ」


なんのことだと、イングラムはさらに

頭を悩ませる。ソルヴィア周辺の動植物しか書庫になかったので仕方がないとは思うが


「医療用の電子媒体と連動させ、精神力、耐久力、持久力などの項目を入力すればそれに見合った効能を発露させてくれるんです。理由は詳しくわかっていませんが、

ルーク様に服用させることが出来れば

あとは精神力を増強させるだけでいいんです」


「だが、あれは希少果実だ。雪と同じで白い見た目をしてるから見つけるのはかなりキツいぞ」


「ふむ…そんな果実があるとは知らなかった。ここの国のことも調べておかなければならんな」


イングラムの智識欲がさらに刺激される。

この国の書物を読み漁って、さらに蓄えなければならない。


「しかし、もう時刻は夜になります。コンラは夜になると吹雪になるので国の外へは出られなくなります。採取は明日にして、今日はお休みになられてはいかがですか?」


「そうですね……リルルたちの様子を見に行ってから休むことにします」


セリアの気遣いは本当に心が休まる。

お言葉に甘えることにした。


「イングラム、俺はルークの様子を見たあと、皇太子に警戒態勢を執るように伝えてくる。例の仮面の魔術師がもしかしたら侵攻してくる可能性もあるからな」


「俺もついて行こう、やつの部下たちと会うのはあれが初めてじゃないからな」


そうだ、まだアデルバートにあの黒い何かが物質を変換する能力を保有しているのを伝えていない。それを皇太子や警備兵たちにも教えなければ


「いや、お前はリルルたちについてろ。

ルークも回復次第同じ室内に移す」


「しかし……」


「俺のことは気にするな。終わり次第床に着く」


穏やかな表情を浮かべながら、アデルバートはイングラムにはにかんで見せ、そして小屋を後にした。


「……アデル」


「イングラム様、私もリルル様たちの元へ同行しても良いでしょうか?」


焚き火がほのかに出す温もりの中で、

彼女が問いかけてくる。


「ええ、もちろんです。リルルも喜ぶでしょうから」


「ありがとうございます。では、向かいましょうか」


セリアは腰を下ろして焚き火を吹き消した後イングラムの先頭に立ってドアを開け、ふたりは小屋を後にした。





空は星々が煌き、黒い闇の中を優しく照らしている。家々の明かりも、赤や青などの様々な色合いがとても幻想的だ。


「イングラム様、お聞きしても良いですか?」


「なんでしょうか」


防寒具を身にまとい、手に息を吐きながら

質問をしてくる。


「アデル様がおっしゃっていたことがあるので気になっていたのですが……レオン様とは、どのような方なのですか?」


「……レオンさんは————」


あれは6年前……まだイングラムが16歳の時だった。


イングラム・ハーウェイはその武勇と知識で数多の人間を返り討ちにしてきた。

どの人間達も、自分が上だと主張してやまなかった。だから、それがうざったくて

片っ端から倒して、倒して倒して倒しまくってきた。それでも、ヤジは飛んでくる。

だから、最難関の場所へ行き、そいつらを黙らせてやると意気込み、得意な槍を携えて向かった。




勉学も運動も人並み以上の実力を発揮した。だが、それを表彰するものはなにも与えられない。与えてはくれなかった。


「俺は何のためにここに来たんだ!

ふざけるな!」


激昂する若き日のイングラムの近くで

優しい風が吹いた。建物の中なのに、風が吹くことなどありえない。


「誰だ!」


イングラムは後ろの気配を感じ取って

振り返った。そこには銀髪の髪、腰には剣を携えた男と、蒼い髪に燃えるような赤い瞳を持つ男が歩いてきた。


「君が新しく来た人かい?俺はルーク、ルーク・アーノルド。よろしく」


「俺はアデルバート・マクレイン。随分イラついてるようだな、イングラム・ハーウェイ」


この時のふたりも16歳だった。魔帝都の中では有名人として名を轟かせていた彼らに気付いた時、イングラムは槍を素早く抜いてルークの喉元に突き付けようと————


「待った————」


切っ先を掌で防ぐ第三の男が現れた。白い軽装を見に纏い、トパーズブルーの青い眼は、海のように美しかった。


「お前がイングラムか、強い人を見つけてここの人達を次々と倒してるっていう新入生は」


「……アンタは?」


男は口角を上げて微笑んだ。


「俺はレオン。ルークたちの先輩だ。」


「レオンくんは魔帝都で最強って言われてるんだ。大人含め全員でかかっても傷一つつけられなかったって聞いてるよ」


「全く、情けない話だ」


ふぅ、とため息をつくアデルバートと

腕を組みながらすごいよねぇ、と呟くルーク。


「レオン……?確か入帝前に聞いたことがあるな。ここの教師たちに反発して嫌味嫌われている奴だと……」


「反発、ね……俺もふたりもあいつらのことは信用しちゃいない。俺たちは手駒じゃない。ただの給料泥棒といっても過言じゃないからな」


はっはっは!とレオンは豪快に笑う。

少し煩わしく感じていたイングラムに

もうひとりの人間が声を掛けてきた。


「やあ、イングラム入帝式以来かな?久しぶりだねぇ」


「……先生」


とても裕福でぷくりと太ったきらびやかな衣装を着た先生と呼ばれた人物は、レオンに恨みでもあるかのように睨みつけた。

そして、レオンはそれを鼻で笑い、怒りを誘う。そして思惑通り、教師は怒号を上げた。


「レオン!貴様いい加減にしろ!なんだその態度は!この魔帝都では上下関係と従うことが絶対だ!4年も言っているのに

なぜわからん!」


「てめぇらの言葉なんてわかりたくもねえな。身に覚えのない冤罪をふっかけて俺を追い詰めたやつなんてな」


イングラムはその言葉を聞いて眉を潜め

表情は驚愕に染まった。


「イングラム、この馬鹿男の言うことなど

聞く必要はない。この男はこうやって我々に反抗しているんだ!……そうだ」


先生は怒りを孕み声を上げてそう言った。

しかし、すぐ冷静さを取り戻し不敵で不気味な笑みを浮かべたまるで勝ち目があるみたいに


「レオン、こうしよう。貴様はイングラムと対決する。そちらが勝てば、これまでのお前への疑いは晴らそう。だが、イングラムが勝てば我々に服従し絶対に逆らわないことを約束しろ!」


「あんたらも約束は果たしてもらうぞ?

もし約束を破るような行為をしたら

その時は————」


レオンの目が怒りに染まる。

そして


「貴様らを地の果てまで追いかけ回して

自らの行いを後悔させてやる!」


「ぬっ————」


今までの反抗心を遥かに上回る殺意と恨みが篭っている一言に、思わずたじろぎ、そして、イングラムの後ろへと隠れるように

後退した。


「ぐぬぬ……このクソ生徒めぇ!イングラム!君には彼を倒した暁には相当な待遇を約束する!」


汚いツバを吐き散らして、イングラムに身体を向けなからデタラメな約束を取り付ける。


「————興味ありませんね。俺はレオンと戦い、そして勝つ。それだけです」


優遇などいらない。この男がこの場所ぇ一番強いと言うのなら、その者と戦えるだけで満足だった。


「ふんっ!まあいい!精々首を洗って待っていろ!」


頭に蒸気が昇ってるみたいに教員はスタコラと足早に去っていった。レオンと同じ場所にいたくなかったのだろう。


「ったく、あのデブ野郎……絶対何かしでかすに決まってるぜ」


「そうだね、警戒しておくに越したことはない。」


「よぉし、作戦会議がてら飯行くかぁ!」


レオンは両サイドにいた二人の後輩の肩を覆うように両腕を回して笑った。

そして彼は


「イングラムくん、君もどうだい?

ここの食堂の餃子は旨いぜ?」


親指で食堂への道筋を指差すがイングラムの表情は変わらない。


「……なぜこれから戦う人と食事をしなきゃいけないんですか、お断りします」


そう言ってイングラムは3人から背を向けて歩き始めた。


「ふん、まあお前がそういうなら無理には誘えねえ。おいレオン、今日はお前の奢りだったか?それじゃあホワイトキャビアをいただこうかな」


ホワイトキャビアとは、シロチョウザメから採れる純白の卵である。栄養価は非常に高く、1月は便秘にならないとか


「えー、じゃあ俺はドードーの蒸し焼きがいいなぁ!」


ドードーの蒸し焼きとは、絶滅したドードーを復活、養殖させている個体を蒸し焼きにする物だ。コラーゲンが豊富、かつ低脂肪高タンパクなので人気が高い。値段も高いが


「お前ら高いの選んでんじゃねえか!

俺の懐の心配もしろよな!」


ホワイトキャビアは1万路金

ドードーの蒸し焼きは8000路金である。


「……ん?ドードー?」


「そ、ドードー。ここは色んな飯が食えるとこで有名なんだ。飯と調理人だけはいいんだよ……」


「……ふむ、気になりますね。ドードーの蒸し焼き……まあ、今日はくらいはご一緒してもいいです」


イングラムはそう言うと、そそくさとルークの隣に立って同じ速度で歩き始めた。


「そうか?じゃあお前の分も奢ろう。来たばかりだし、案内がてらUMAや絶滅危惧種の話でもしようか」


「誰が聞いて得するんだよそれ」


「俺は興味ないなぁー」


「俺、興味あります……」


レオンの目がイングラムのその一言でキラリと光った。


「お、ホントか?よかったー、動物語れる人いなかったから退屈だったんだ!」


「まるで日頃から俺たちといることが退屈だと言ってるみてえじゃねえか、ええ?」


「アデル、ステイ、ステイ!」


攻撃しかけたアデルバートを背後から羽交い締めして止めるルーク。その光景に思わずイングラムはクスッと笑った。


(ずいぶんおかしな連中だな……)


「はっはっは!さあ、行こうぜ!」


レオンはそう言って、イングラムの

肩を引き寄せた。





「とまあ、出逢いはこんな感じでしたね」


「活気に溢れた方だったのですね。その頃からもうおふたりと知り合いだったとは」


「はい、俺よりも2年長い付き合いをしていたそうです。初めは衝突ばかりしていたようですがね……」


「そうやって絆を深めていかれたのでしょう。とても、素敵なことだと思います。

私ももう少し、早く出逢いたかった————」


空を仰ぎ、両手を小さく握りしめて

星を見る。そう呟く彼女の吐息は、真っ白だった。


「セリアさん?」


「……さあ、もうすぐで医療施設です。

そこにリルル様とドラゴン様が居ますので

ご案内しますよ」


そう言われて、イングラムはセリアの案内されるがまま、施設に移動した。





リルルたちは治療を終えたらしい。

医師が、部屋では騒がないように、と釘を刺して案内され、そこに置いてあった椅子へ座る。


「あの、イングラム様。

もしよろしければ、話の続きを聞かせていただけると嬉しいのですが……」


と、セリアは言った。彼女は幼い子供のように目を光らせている。


「なら、リルルたちが起きるまでお話ししましょう。あの激闘を……」


イングラムは息を整えて、若き日の激闘を語り始めた……

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