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第136話「平安最高の式神使い」


「安倍晴明!?あの藤原道長が信頼したという式神使いか!」


「へぇ、なんだよ知ってるんじゃねえか、笛吹き野郎。こりゃ失礼したな。ほれ、素晴らしいって意味の拍手だ!」


パチパチパチ。リンゴをくわえたまま、晴明が軽快に手を叩く。しかし、男から見てもクレイラから見ても、それはただの挑発にしか見えなかった。


案の定、男の手に握られた笛が小刻みに震え、怒りが抑えきれない様子だ。


「なんだよ、平安一の陰陽師に拍手されてんだぞ。少しは喜べよ」


「貴様のような陰陽師がいるか!」


激昂した男が笛を吹くと、霊炎の中から無数の子供たちが現れ、晴明に向かって突進してきた。だが、晴明は気だるげに折り紙を取り出し、筆で素早く文字を書き込む。


すると、折り紙はたちまち晴明と瓜二つの姿に変貌。子供たちはそれを本物と誤認し、クレイラと同じようにその背中に飛びついていく。



「ほら、好きなだけハグしろよ、童子ども!いやぁ、こんなに喜んでハグされると、陰陽師冥利に尽きるな!ハハハ!ところで、コンコン、リンゴ食うか?」


晴明は空中から大きめのリンゴをひょいと掴み、口元に近づける。だが、キツネのコンコンは首を振って拒否。


残念そうな顔をした晴明は、コンコンの背に乗ると、クレイラに熟した桃を差し出した。



「よう、銀髪美人……ピチピチの桃だ。肌にいいぞ、食っとけ」


「……ありがとう」


「へ、美人には熟した果物が一番だな!よっこらしょ!」


コンコンが拒んだリンゴを再び手に取り、晴明が一口かじろうとした瞬間――

「くらえ!」


笛の音が三日月型の刃に変化し、晴明に向かって飛んできた。陰陽師は視線だけでそれを捉え、間一髪で身体を反らして回避。しかし、手に持っていたリンゴは真っ二つに。


「避けることしか能がないようだな。式神使いなんて、名ばかりか?」


晴明の手には、切り裂かれたリンゴの片割れ。見るなり彼はプルプルと震え、握り潰す。


「てめぇ、許さねえ!」


「何に対してだ?陰陽師を侮辱したことか?それとも式神をバカにしたことか?」


「うるせえ!リンゴを斬ったことだ、この変態野郎!」


「え!?陰陽師じゃなくて!?」


ふぁさり。晴明が男の背後に忍ばせていた折り紙が動き出し、瞬時に彼と位置を入れ替える。男の肩にそっと手を置き、怒気を孕んだ笑顔を見せつけた。


「な!?いつの間に背後を――」


「うるせえ!剥く前の腐ったメロンをその貧相な口に突っ込め!」


男が口を開いたのが運の尽き。晴明は腐りかけのメロンを、まるで全力投球のごとく男の口に叩き込んだ。腐臭と未熟な甘みが口内で広がり、男は悶絶。


「あがっ、ごほっ!」


顎が限界まで開き、笛を吹く余裕もない。クレイラは子供たちが解放されるかと思ったが、晴明の行動はさらに斜め上へ。


「がっ!」男の頭と顎を両手で挟み、晴明が叫ぶ。


「陰陽師式矯正!ふんぬっ!」


凄まじい力で顎を閉じさせると、腐ったメロンの中身が一気に潰れ、男の口内に悪臭と悪感が広がった。


「がぁぁぁぁ!」


「うるせえ!メロンに失礼だろ!」


藁草履の爪先で男の喉を蹴り上げ、晴明は痛そうに足を押さえてぴょんぴょん跳ねる。苛立ちを隠さず、ブドウを一房むしゃむしゃ食べ始めた。


その間に、喉を押さえて地べたを転がる男は、ついに笛を落としてしまう。

クレイラはその一瞬を突いて、素早く笛を回収する。


「ふぁのぉるぇ!」


「食ってから喋れ、行儀悪いな!」


晴明はクレイラに目配せし、箸で食べるジェスチャー。クレイラは促されるまま桃にかじりつく。芳醇な香りと濃厚な甘みが口いっぱいに広がり、今まで味わったことのない極上の桃だった。


「美味しすぎる!」


その瞬間、クレイラにまとわりついていた悪感がすべて消え去った。まるで浄化されたかのようだ。


「よ、美味さが分かるか!丹精込めて熟成させた甲斐があった!美人が食う果物ほど美しいものはない!咀嚼音、顎の動き、鼻の動き、全部素敵だ!」


いつの間にか、晴明はクレイラの前にヤンキー座りで微笑んでいる。どうやら果物はすべて彼の手作りらしい。


「おかわりいる?」


「リンゴもらってもいい?」


「おう、食え食え!食って悪い気を払っちまえ!」


男の手ほどのリンゴをクレイラに投げ渡し、晴明は受け取った桃の種を見て驚嘆する。


「ウソだろおい……綺麗な食べ方だ!俺の時代にこんな丁寧に食べてくれる女はいなかった。感動したぜ!」


種には果肉が一切残っておらず、皮も丁寧に剥がされていた。敬意と感謝が込められた食べ方に、晴明は心を震わせる。


「晴明さん、桃ごちそうさま。ありがとう」


「その笑顔も最高だ!やる気が出てきたぜ、銀髪美人!」


晴明は大地に降り立ち、果汁で濡れた口元を拭うと、烏帽子を整え、両手を合わせる。


「俺は今、現世に感謝してる。こんな素晴らしい食べ方をする人間に初めて出会えた。道長様以来の感動だ!」


一方、ようやく立ち上がった笛吹き男の周りには、吐き出されたメロンの残骸が散らばっている。それを見た晴明は再び激昂。


「てめぇ、なんだその態度は!?丹精込めて作った(腐らせた)メロンを吐き出しやがって!美味いって飲み込むのが筋だろ!許せねえ!究極の一撃をくらわせてやる!」


晴明は突進し、右手を後ろに構え、二体の式神とともに笛吹き男の前に立つ。


「何をする気だ!?」


「くらえ!我が必殺の――」


ばっ!水戸黄門の紋所のように、晴明が見せつけたのは美しいレモン。


「は?レモンなんぞ――」


「噴射!」


レモンを握り潰し、果汁が円を描いて飛び散る。それは男の両目に直撃。

「あぁぁぁ!」


「ぬぉぁ!俺も目が!」


晴明にも飛び火し、二人で地面をのたうち回る。10分後――


「くそ、前方だけに噴射する練習しとくべきだった。てめぇ、許さねえ!」


「ぐぁ!僕が悪いんじゃない!」


「うるせえ!俺は陰陽師だ!てめぇを封印する!そのままのたうち回ってろ!いや、待て!式神たち、こいつの目をこじ開けろ!」


式神たちが男を羽交い締めし、晴明は近づいて目を確認。


「まだ回復してねえな。よし、レモン果汁追い噴射!」


左腕で目を守りながら、晴明は再び果汁を浴びせる。男は絶叫し、クレイラは思う。(陰陽師って、こんな感じだっけ?)


「さて、陰陽師の本懐を見せてやる!」


晴明は座禅を組み、両手を擦り合わせ、式神が星形の紋章を空中に描く。それが男の額に張り付く。


「ジャジメントタァイム!」


「な、え?」


「俺式裁判の開始だ。貴様の罪を洗いざらいにして、有罪か無罪か決める。有罪なら赤、無罪なら青だ。貴様は笛で童子の魂を縛り、数が減れば大人を子供に変えて130人を維持する。悪事を繰り返し、子供たちに酷いことをさせてるな」


梨や蜜柑を食べながら、晴明はくるくる動き回る。


「俺的には封印刑が妥当だ。式神たち、どう思う?」


式神たちが赤く明滅。晴明は札を掲げ、赤い結果を見せつける。


「はい、有罪決定。封印術の準備だ」


「ふざけるな!笛さえあれば!」


晴明は星形の呪術印を描き、白紫色に光らせ、両腕に吸収する。


「コォォ……」


「おい、その構えはなんだ!?平安の陰陽師ってそんな感じなのか!?」


(うん、私もそう思った)


神経を研ぎ澄ませた安倍晴明の両腕が、ゆっくりと十字に交差される。

肘から手先にかけてほとばしる白紫の光は、雷鳴のような唸りを孕み、空気すら震わせていた。


「これが……俺の! ――陰陽師・封印術式……」


低く唸るような声が空気を裂いた。式神たちが空中を巡り、印を刻み、空間そのものがざわめき始める。大地は小刻みに震動し、周囲の草木がざわついた。


そして晴明は、天地を貫くように叫ぶ。


「陰陽師光線――!!!!」


その瞬間――交差された両腕の隙間から、黒紫色の超高密度の霊力ビームが放たれた。


光線は雷鳴を伴いながら一直線に走り、まるでこの世の理を塗り替えるような咆哮を上げて爆ぜる。

圧倒的な魔力の奔流が、周囲の空気を灼き、地を削り、空を焦がす。


笛吹き男が目を見開き、言葉にもならない絶叫を上げる――その姿が、光の奔流に呑まれた。


「ぐわあああああああああああああああああ!!!!!」


封印紋が術式の中央に浮かび上がり、完全なる拘束と封印を告げるように、虚空に轟いた。


「ケッ、果物を吐き捨てた罰だ。封印に充分な理由だぜ。あばよ、クソ笛野郎」


エネルギーを放出し、晴明は背を向けて親指を立て、クレイラに笑顔で手を振った。


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