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エンドレス・ニューゲーム~俺の幼馴染が『つよくてニューゲーム』を343回繰り返しているようだ~  作者: 竜山三郎丸


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93話 例えば今頃、こうやって海に

◇◇◇


 一定のリズムで聞こえる波の音。


 辺りには誰も居らず、ただ波の音だけが聞こえる。



 誰もいるはずがない。


 

 海を直下に見下ろす断崖の窪みに俺と天戸は座っている。


 岩でなく、ソファーに。


 陽が当たらず、風が強いのでなかなかに快適ではあるが常軌を逸しているというほか無い。


 そして地味に怖い。


 高いし、風が強い。


 天戸うずめさんはソファーでくつろぎ、目を閉じて満足げに波の音に耳を傾けている。


「気持ちいいね」


「……そうっすね」


 苦笑いの愛想笑いが天戸さんの折角のいい気持ちを害されたようで、薄目を開けて俺を見る。


「……楽しくない?」


「や、俺って普通だなって」


「変なの」


 そう言うとまた天戸は目を閉じた。


 どうやってこんな所に来たかと言うと、俺はただ異次元ポケットに入れられたまま天戸に連れて来られただけだ。


 ソファーも当然天戸の私物だ。


 さらには冷たい飲み物もある。


 異次元ポケットを開けるまでは時間の経過が無いことを利用して、冷えた飲み物をそのまま入れているらしい。


「私は迷ってばっかりだわ」


 これまた自前のクッションを抱いて、ソファーの(へり)に寄りかかり弱音を吐く。


 俺にはクッションは無い。


「それを言うなら俺なんて妄想垂れ流してるだけだぞ」


「私を治してくれたじゃない」


 ボロボロに怪我をした天戸を思い出すと、少し胸がもやっとする。


「あれ見たら俺じゃなくても治すわ。ボロ雑巾だよ、あれ」


 天戸はこっちを向いて何故か嬉しそうに笑う。


「でも治してくれたのはあなたよ?」


 少しだけ、照れくさい。


「……もう怪我するなよ。ボロ雑巾縫う趣味は無いんでな」


「ん、気を付けるわ」


 そう言ってマフラーでスマホを持つと、パシャリと自撮りする。


 波が岩にぶつかり、音と飛沫を立てる。


 砂浜の喧噪が嘘みたいな心地よさ。


 波の音、風の音、たまに鳥の声。


「ねぇ、ところで私海で自殺しそうに見えるの?」


 なぜ急に話を蒸し返すのか。完全に終わった話だろう、それは。


「……いや、そういう訳じゃなくてさ。はは、胸に手を当てて考えて見ろよ?海と言えば水着だろ?」


「胸に手を……」


 言葉通り自身の胸に手を当てると、少し前の笑顔が嘘みたいに冷たい目で俺を見る天戸うずめ。


「いやっ、違う。ただの慣用句じゃないか、わかるだろ?当てんなよ、実際さぁ!国語5だろ!?」


 慌てて弁解をする俺を見ると、満足したように、『冗談よ』と笑った。


 分かりづらいんだよ、お前の冗談は。



「ねぇ、お昼寝していい?」



 全く前後の脈絡無く、唐突に何故そんな事を言いだすんだこいつは。


 俺は崖を指差して首を傾げる。


「ここで?死ぬの?」


「私寝相いいもん」


「いや、俺寝相悪いんだけど」


 しゅるっとマフラーを伸ばしてバリケードを作って下さる。


「これでいいでしょ?アラームかけとくね」


「まじかよ、流石の睡眠王でも眠れねぇよ」


 天戸はクッションを抱いて目を閉じた。


「あ、そう。なら久し振りに一人旅ね。お休み」


 イヤなことを言う奴だな、ほんと……。



◇◇◇


 二分もしないうちに波の音に寝息が混じる。


 爆速の睡眠王の異名は伊達ではなく、杜居くんは眠りに落ちた。


 私はそのまま彼が起きるまで、飽きもせず、彼の眠る姿をただ見ていた。


 何時間も、何時間も。


 時折戦乙女の襟巻き(ヴァルキリーマフラー)で頬をつついてみるが、起きる気配はない。


 いつか終わる、終わらないで欲しい時間。



 杜居くんはハルが好きだ。



 子供の頃から、私が仲良くなる前から恐らくずっと。


 こう言うと彼は怒るだろうけど、私は彼からハルを奪ってしまったのだ。


 本当なら、私はどこかの世界で一人死んでいて、杜居くんはハルとこの世界で一緒にいたはずなのだ。



 例えば、今頃こうやって二人で海に――。



 そう想像するだけで、胸の奥が苦しくなる。


 ゴロリと彼が寝返りを打つ。


 こんな狭いところで?と、思わずクスリとする。


 今度はマフラーで無く、手で彼の頭に触れてみる。


 

 もし、万が一。


 ハルのいる世界に行くことが出来たなら、決めていることがある。


 杜居くんは言ったよね?私が死んだら自分も帰れないって。


 ――あぁ、ダメだ。


 想像するだけで涙が出てきた。


 ハルはきっと、帰れない杜居くんだけを放っておかないよね?



 異世界で私が死んだら……、あなたとハルはその世界で一緒にいられるはずだよね?



 最初から知ってたよ。


 私たちの間に、ハルがいるんじゃない。


 あなたとハルの側に、私がいただけなんだ。


 だからその時がきたら。


 そんな勇気が私にあるのかは分からないけど、私頑張るよ。



 泣き声が出ないようにクッションに顔を(うず)める。


 改めて考えを整理すると、途端に一人きりになってしまったような気がした。


 今までは平気だったのに、贅沢になっちゃったなぁ。

 

 すると、杜居君の手が伸びてきてコツンと私に当たる。


 手を握る事なんて出来ないから、そっと手の甲を触れさせる。


 触れた場所が少し温かい。


 それだけで、頑張れそうな気になってきた。


 

 それにしてもこの人よく眠るなぁ。


 沈みかけの太陽と、うっすら現れた月と、波の音。


 こんなに眠ったら夜眠れないんじゃないのかな?


 もしかしたら今夜は本当に一人旅かもね。


「……寂しいなぁ」


 思わず声に出てしまったが、流石の睡眠王は目覚めない。


目が覚めるまで、このままずっと眺めていよう。



◇◇◇


「おはよ」


 目が覚めると目の前に月明かりにのみ照らされた断崖絶壁が飛び込んできたので思わず声が出た。


「うおっ」


 そう言えばこんなところに居たな、と思ったが確か昼頃から眠っていたはず。


 それがもう普通に暗い。


「……何時?」


 天戸はスマホを眺めながら答える。


「ん、7時よ」


「あー、随分寝たな」


「ふふ、ね」

 

 幸い転移は起こらなかったようで、少しほっとした。


 高さは慣れると別になんて事はない。


 潮風と、月明かりと波の音が心地よい。


「夜の海もいいな」


「来て良かった?」


「まぁな。お金も浮いたし」


「……おばさんに収支報告しておくわ」


「あっ。帰りの電車賃出しますよ、天戸さん」


「あ、そう。ありがと」


 子供料金の切符を渡してやろう、そう決めて俺達は夜の海を後にした。


 

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