89話 冒険者風男と受付嬢風女
◇◇◇
「ほら、このマントなんかゲームっぽくていいんじゃない?」
「うるせぇな。……ん?ちょっと格好いいな、それ」
「ふふ、でしょう。好きだと思った」
えーっと、俺杜居伊織君はなぜか今天戸うずめ閣下の着せ替え人形となっております。
謎の素材で出来た冒険者風マント。首の辺りには謎の宝玉が付いていて、何らか謎の加護が有りそうだ。
「おいおい、いいじゃねぇかよ。楽しくなって来ちゃったぞ。後はあれだな、ブーツとか小物まで揃えたいところだな」
「買う?」
「買う」
即断即決。
店を出てマントをバサッとやってみる。
うへぇ、俺超格好良い。
三回ほどバサッとやってみて天戸の視線が気になった。
「……何だよ」
「気に入った?」
「おう。むしろなんで今までやらなかったのかと後悔した」
あまりの俺の食いつきにクスクスと笑う天戸さん。
「武器は?身の丈ほどの大きな剣とか」
俺はパチンとならない指を鳴らして天戸を指差す。
「それだよ、足りないピースは」
天戸さんの笑顔に少し影が差す。
「ん、少しうざいわね」
ぶらぶらと探すと武具店はすぐに見つかった。
「この店で一番大きい剣下さい」
天戸の要望を冷やかしと思った店主は鼻で笑う。
「お嬢ちゃん……どこで聞いたか知らないがうちの『大根斬り』は誰彼構わず売れるような代物じゃあ無いんでね。怪我しないうちに帰りな」
天戸はチラッと俺を見る。
「ですって、杜居くん。残念だったわね」
うおい、何故そこで諦める。
俺は役立たずを押しのけて前に出ると、カウンターに腕を突く。
「オヤジ……、どうやらお前さんの目は節穴の様だな」
「ほう?」
――何だかそれっぽいやりとりの後で、剣を売ってくれた。どうやら本当に節穴だったらしい。大根斬りなんて名前も格好悪いから俺がつけよう。
んで、買ったはいいが……重い。重すぎる。
「……あっ、天戸!だめ!これ!下ろして!」
背中にカチッとホルダーをセットされたが、重すぎて歩けない。情けない声が出てしまうが、天戸さんは俺の懇願を無視してスマホを向けている。
「ふふ、もう少しがんばろ」
「バカだな、お前は!折れるんだよ、もう!腰骨が折れるって言ってるの!」
「平気よ、あなた治癒得意でしょ?」
そんなやりとりの間にも俺の腰は限界を迎えそうだ。
「アホすぎる!頼むよ、うずめ様!」
「しょうがないなぁ」
そう言ってスマホからピロンと音がする。……動画を撮っていた……だと?
天戸のマフラーはヒョイと大剣を外す。
俺の背中に背負ったものが軽くなる。
「ぶはー……。助かったぜ。人生とは、重き荷を背負いて長き道を行くが如しだな」
意味不明だが、そう思った。
「家康?」
「いや、なんかのマンガ」
「あ、そう。徳川家康よ」
いまいち会話が噛み合わない。
「いや、違うと思う。そのマンガじゃない」
天戸も同じ事を思っているようで、少しイライラしているのが見て分かる。全く、気の短いやつだ。
「だから誰もマンガだなんて言ってないでしょ?徳川家康の遺訓よ、それ」
「あ、そう」
はい、その話終わり。
◇◇◇
取りあえず大剣はしまっておいて貰う。
「せっかく買ったのに」
天戸が不満げな顔をするが、背骨には換えられない。
「お前も何か買ったら?いつも制服じゃん」
そう言えば、今更ながら転移時の服が毎回制服な事が気になった。
「なぁ、こっちで起きたとき既に服着てるよな?どんなルールなんだろうか」
正に『今更?』と言う顔で天戸は俺を見る。
「恐らく一番意識下に残っている服じゃないの?ハルは三回ともパジャマだったわ」
「写真は当然あるんだろうな?」
「答える必要は無いわ。で、あなたそんなに制服好きだっけ?それとも他に服を持っていないの?」
「無駄にディスって来るなよな。んー、確かに制服が楽だけど……部屋着の方が楽だよな」
少し考えて思い至る。
初めて中学の制服を着たときに思ったことを。
「あー、たぶん分かった」
「どんな下らない理由?」
「……中学に入る時、制服を着て、初めて鏡を見たとき思ったんだよ。……ハルに見せたかったな、って。はは、だから制服なのかも」
天戸は俯き黙っている。
「なんかコメントしろよ」
「……ごめん」
「はぁ?何謝りだよ」
「全然下らなくない」
あぁ、余りにさらっとした蔑みだったから特に気に留めなかったな。
ただ、素直に謝られるとどうにもやりづらい。
「絶対、見せようね」
「そのつもりだよ。だからお前も写真見せてくれよ、ハルの」
急にぷいっとそっぽを向く天戸さん。
「却下。私の服も選んでくれるんでしょ?行こ」
「選ぶとは言ってないような気がする」
「細かいなぁ」
◇◇◇
女の買い物は長いと言うが、天戸は比較的早いと思う。
元々短気でせっかちなのもあるだろうが、気に入るとすぐ購入となる。
金があって、収納スペースがほぼ無限だからだろうか?
結局天戸は俺の三回目の『いいんじゃね?』の後で黒っぽいロングスカートの、あまり露出のない服を買った。
ギルドの受付にいそうな雰囲気を感じる。
正直悪くない。
着替えた天戸は少し恥ずかしそうに現れる。
「……文句が有るなら早めに言ってよね」
「いや、いいぞ。似合ってる」
「……本当に?」
「あぁ、写真撮ってやるよ」
天戸は異次元ポケットからスマホを取り出す。
「ん、私が撮る。折角だからあなたも一緒に映ったらいいわ」
毎度思うが意外とコスプレ好きだよな、こいつ。
「オッケー。あ、いいこと思いついた。俺この『ユグドラシル』を構えて写真撮りたい」
クスリと笑い、戦乙女の襟巻きで剣を抜き、支えてくれる。
「子供ね」
「男はいつだって少年なんだよ」
「あ、そう」
そう言いながらも剣の角度を微調整してくださる天戸さん。
「撮るわよ」
何の愛想も無く、パシャパシャと何度かシャッターを切る。
撮り終わると、大剣をしまいスマホを眺めて写真チェックをする。
心なしか口元が少し弛んでいるような気がする。
「何ニヤついてんの?」
途端に無表情になり俺を睨む。
「ニヤついてなんかないわ」
「どっちでも良いけどさ。お前、その服着て戦う気?一発ボロ布になるだろ」
もうじきジラークとの戦闘訓練が待っている。
昨日の今日で無傷で終えられるはずがない。
「……着替えるわ」
異次元ポケットに入っていった天戸の後ろ姿は、少し寂しそうだった。




