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エンドレス・ニューゲーム~俺の幼馴染が『つよくてニューゲーム』を343回繰り返しているようだ~  作者: 竜山三郎丸


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83話 俺達の勝利条件

◇◇◇


「僕はジラーク・グランクラン。……僕も他の世界に喚ばれたことがあるんです!」


 無邪気な笑顔を俺達に向けた少年はジラークと名乗った。


 その名前は……ハルを殺した魔王の名だ。


 俺は天戸を抑えているが、天戸がその気になれば俺の身体はその瞬間爆散するだろう。 


 天戸は明確な殺意を抑えることもなく、飢えた獣のような眼でジラークを睨み付ける。  


 並の人間ならきっとこの殺気だけで嘔吐して意識を失えると思う。


「杜居君。大丈夫、落ち着いてるわ。離して。その人を殺すだけだから」


「えっ、何言ってるんですかこの人。どこかの世界でお会いしましたっけ?」


 この殺気を全身で受けながらニコニコしている時点で、彼が良くも悪くも間違いなく異常である事が分かる。


「杜居君。お願い、離して。……きっと私はこの為に今まで生きてきたのよ」


「下らない事言うんじゃねぇ!」


「だって!」


 ジラークは心配そうに天戸を見た後で、俺に声をかける。


「……何だかごめんなさい。一度外した方が……いいですよね?」


「あぁ、助かる。ちょっと混乱してるみたいだから」

 

 俺の言葉にジラークは優しそうに微笑んだ。


「分かります。僕もたまにありますよ」


 一同に合図をすると、ぞろぞろと退室する。


 最後尾のジラークは扉を閉める前に、思い出したように振り返った。


「お部屋も用意しておくから落ち着いたら声をかけて下さい。……僕も、お話聞きたいです」


 ニコリと微笑んで重い木の扉が閉まる。


 シンと静まり返る石畳で窓のない部屋。



「……いつまで掴んでるつもり?」


 ジラークが目の前からいなくなって、天戸は少し落ち着いたようで、両手を押さえる俺を白い目で見る。


「ん?あぁ。取りあえず会話ができるようになるまでとは思った」


「……じゃあもう平気。離して」


 俺が手を離すと、逆に天戸は俺の手を握り俯く。


「あなたはどうすればいいと思うの?……殺さなきゃ。殺さないんだったらどうすればいいの!?」


「……まだわからない。少しだけ考えてからでいいか?……猛獣抑えつけるのに精一杯だったからさ」


 天戸は俯いたまま何も言い返さなかった。


 それがむしろ逆に俺を奮い立たせる。



 もしかしたらあのタイミングで殺すのが唯一の最適解の可能性もある。


「確認な?天戸の反応を見るに、あれが……ハルを殺したジラークって奴で間違いないんだな?」


「私達の遭遇した8回目の世界よりだいぶ若いけど。あの時は……二十歳位に見えたわ」


「さっきのは俺達と同じか少し下か……。15か16位だよな。5年前位」


 まず選択肢は二つ。①ここは8回目の世界の5年位前の世界。②ここがジラークの生まれた世界だが、8回目の世界はこことは別の世界。……答えは外に出るか若しくは聞けば分かるだろう。


 ツァルトラド歴205年、天戸とハルの3回目の世界。


「毎度の如く全部仮定と推測と憶測だぞ?」


 天戸は俯いたまま頷く。


「それでもいい。……私にはそれもできないもの」


「まず、想像して欲しいんだけど。例えば、次の世界で三ヶ月前の俺と遭遇して殺したとして、その瞬間俺は消えると思う?」


 天戸は困った顔を上げる。


「……わからないわ」


「多分だけど、消えない。俺が消える位じゃ俺に関わった全てへの因果関係が回収できない。……俺が思うに、無数にあるシャボン玉みたいなイメージなのかなって」


 三ヶ月前の俺を殺しても、今の俺の世界へは何ら干渉は無く、俺が死んだ世界が、新しくできるのではないか?


 仮定①この世界が8回目の世界と同じだとすると、ジラークを殺せば『これから8回目の世界に赴く』天戸達は存在しなくなる?


 8回目の脅威がジラークなら。


 仮定②8回目の世界のジラークはこの世界から転移した。このケースだと、ジラークを殺すメリットは自己満足以外に無いのか?


 ……いや、自己満足で構わない。ここで殺すべきだろうか?


 恐らくほぼ全力で放った天戸の戦乙女の襟巻き(ヴァルキリーマフラー)を防いだ相手を?


 俺は大きく息を吸い込んで、大きく吐いた。


「天戸。多分俺達じゃ、まだ勝てない」


 俺の手を握った手に力を入れて、天戸は泣きそうな顔で俺を見る。


「……わかってる。あの日から何十回も何百回も、何年間も世界を救い続けてもまだまだ敵わない。まだ少年のあいつにさえ……」

  

 俺も予想外だった。


 まさか、天戸でも勝てないかも知れない相手がいるなんて。


「じゃあ後は……、私の命以外何を懸ければいいのよ」


 全ての自信と希望を砕かれた天戸は、両手で俺の右手を掴み、震えて泣いた。


 慰めることも、抱き寄せることも出来ない。



 俺達は恋人でも、友達でもない。



 ――幼馴染で、戦友だ。 



「俺に賭けろ」


 俺の右手を両手で掴む天戸の手に、左手を重ねる。


 正直右手は天戸の力で骨がベキベキに折れているが、今はそんな事を言っている場合ではない。


「……杜居君に?」


 涙に濡れた眼で、きょとんとした顔で、俺を見る天戸に俺は力強く頷く。


「悔しいのも、憎いのも……お前ほどじゃないかも知れないけど俺も分かる。向いてる方向は同じはずだろ。俺達の勝利条件は何だ?復讐か?」


 天戸は答えを伺う生徒の様に、少し上目遣いで俺に答える。


「……ハルの生きている世界を作る」


 俺は大きく頷き、天戸を……自分を勇気づけるようにニカッと笑う。

 

「そうだ。そのためには今の悔しさも、憎しみも俺は飲み込む。……具体的には、あいつに弟子入りをしようと思う」


「……えっ?」


 気の抜けた天戸の返事が石で出来た部屋にこだました――。



 



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