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エンドレス・ニューゲーム~俺の幼馴染が『つよくてニューゲーム』を343回繰り返しているようだ~  作者: 竜山三郎丸


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76話 300年ずっと

◇◇◇


 異界の勇者像の広場で急に始まったお祭り。


 歌や踊りだけでなく、出店も出てきて本格的なお祭りになった。


 世界のどこかに訪れている世界の脅威は一旦さておいて。今日を乗り切らなければ明日は来ないしね、月並みな話だけど。


 絵描きのような人が酒を飲みながら俺達のスケッチを取る。像はもう300年経つ文化財だから、新たに絵画でも残すつもりらしい。


「イズーニャ様の恩人だ、バッチリ男前に残しますよ」


 そう絵描きは言ったが、ありのままの姿を残した方が良いんじゃないか?


「何か食べますか?」


 踊り疲れて息を切らせた334歳の少女が俺達の元に帰ってきた。


「どんな料理があるかわからないから、お勧めを」


 ニッコリと異界の食いしん坊は言った。


 牛串か何かを持たせた絵を後世に残したいものだ。


 イズーニャが声をかけるとその広場の全ての食べ物が天戸の前に集まった。


「お勧めなんて、街の食べ物全部に決まってるじゃないですか」


 イズーニャは笑う。


 豊かで、元気で、明るい良い街だと思う。



「天戸、ちょっとイズーニャと話がしたい」


 沢山の食べ物の中から牛串を取り、今まさに頬張るところだった天戸さんは怒るでもなく俺を見る。


「私に聞かれたくない話?」


 俺は首を横に振る。


「惜しい。聞かれたくない話じゃなくて、聞か『せ』たくない話」

 

 天戸はクスリと笑って食べ物を両手いっぱいに持つ。


「お城のてっぺんにいるわ。終わったら呼んで」


 そう言うと天戸はひらりとジャンプして、目の前から消えた。


 規格外の動きの天戸を口を開けて見送るイズーニャ。



「どうだ?『他の勇者と』比べて」



 イズーニャはバツが悪そうに笑う。


「えへへ、隠してた訳じゃないですよ?」


「別にいいよ、言う義務はない。何人目だ?俺達で」


 空を見ながら指折り数える。


「最初を除いて8回目ですね、多いですか?少ないですか?」


「わからん」


 平均すると40年に一度異界の勇者を喚んでいることになる。頻繁な部類に入ると思う。


 それだけ都合よく召喚者の素養を持った人物が生まれたと言うことか?まぁ、違うだろう。最適の人物が目の前にいる。


 どれだけ異界の勇者を召喚しても死なない少女が。


「そうか、もしかすると最初の時もイズーニャが喚んだのか?」


「かもしれませんね。と言うか、何で何も言ってないのに勝手に分かっちゃうんですか?」


『一応、一代一回って言う決まりにしたんです』と、申し訳無さそうにイズーニャは言う。


 そのうちの何回が軍事目的で喚ばれたのだろう。

 

 戦争なんてのは言うなれば国家存亡の脅威だ。


 そして、国としての独立を勝ち取ったと言うところなのだろう。


 と、考えて俺は首を傾げる。


 なぜ俺は天戸に聞かせたくなかったんだろう?


 少し考えて、子供にサンタがいないと気付かせたくないのと同じか、と自己解決した。


「天戸は喜んでたよ。自分が関わった世界が良い方向に向かって嬉しいってさ」


「えへへ、そうですか。私も嬉しいです」


 イズーニャは手を挙げて二人分の飲み物を貰ってくれる。


「お酒とどっちがいいです?」


 天戸はいない。ここは日本ではない。よって合法。


「……お酒」


 目の前の334歳の少女もお酒のグラスを受け取る。


「うちはお酒もおいしいですよ」


 オシャレな工芸グラスに注がれた琥珀色のドリンクを飲む。喉が焼けるように熱くなるが、悪くない。


「うまいね」


「でしょう?」


 チラッと城の上を見ると小さく天戸が見えるが、背中を向けている。こっちを見ないように、聞かないようにしてくれているのだろう。


 本題に入ろうと思う。


「明日にでも竜を倒しに行こうと思うけどさ、倒すと俺達すぐ元の世界に戻っちゃうんだ。具体的には126秒で」


 それを聞くとイズーニャの笑顔がほんの少し曇った様に見えた。


 俺は左手の人差し指を一本立てる。


「だから、その前に一つだけイズーニャの願いを何でも叶えたい」


 目を丸くして、驚いた顔で俺を見る。


「何でもですか?」


「何でも」


「一つですか?」

 

「一つ」


 イズーニャは言い辛そうに少しもじもじしながら、チラッと俺を見る。


「……気分を害されませんか?」


「ん、別に?」


「今の王は、私の弟から数えて14代目なんですよ」


 グラスを両手で持ち、少し俯きながらイズーニャはゆっくりと思い出すように口を開いた。


「……300年ちょっとの間に、たくさんの人が産まれて、死んでいきました。お父さん、お母さん、弟、その子供。えへへ、私薄情でよね。少しずつ忘れていっちゃうんです。お父さんて、どんな声だったっけ?って」


「普通だよ。300年なんて時間、俺には想像もできない」


 たかだか15年程度しか生きていない俺がそんな事を言った所で何の説得力も無いよな、と思うがイズーニャは俺の相槌を聞いて満足げに頷いた。


「やっぱり優しい方です。えっと……」


 あ、俺はそう言えば名乗っていないか。


伊織(いおり)杜居伊織(もりいいおり)だ。異界の従者とでも呼んでくれ」

 

 イズーニャはグラスから右手を離して口に手をやる。


「何ですか、その異名!……伊織さん。願い事は、一つだけですか?」


「俺は神じゃないからな。でも一つは叶えてやれる」


 イズーニャは口をむっと一文字に閉じて考える。


 考えるというか、決断しようとしているのだろう。


 何分考えただろうか。


 祭りの喧噪の中でイズーニャは顔を上げて俺を見上げた。


「伊織さん。……私の命を救って、不老不死にしてくれた事は本当に感謝しています。でも、そろそろ……」


 イズーニャは俺の服をつまみ、泣きそうな顔で言う。


「歳をとって死にたいです……」


 俺はイズーニャの頭をポンと叩く。


 334歳の人生の大先輩の頭を叩き、気を抜くと俺も泣いてしまいそうだったから目に力を入れる。


「……悪かったな」


「あれ?謝らないんですよね?」


「うるせぇな」


「えへへ、ごめんなさい。……無理なお願い……ですよね?」


 俺は右手を軽くグーパーした後で封印術の圧縮球を作り出す。


「出来るから聞いたんだよ」


 イズーニャは元々大きい瞳を丸くする。


「え……?」


「杜居流封印術九十九式。エリクシルの効果を封印する」


 イズーニャの瞳が潤み、涙が浮かび、溢れ出す。


「……そんな事が出来るんですか?」


 俺は頷く。


「ただ、可能性は大きく二つだ。一つは、エリクシルの効果が封じられて『きちんと歳をとり死ねるからだになる』」


「……もう一つは?」


「エリクシルの効果が封じられた瞬間……『身体が朽ちて死ぬ』」


 それを聞くとイズーニャはニッコリと満面の笑みを浮かべて、グラスを置いた。


「お願いします」


 そして、そういった後で俺の表情を窺いながら言葉を続ける。


「……すっ、少しだけ怖いから……くっついてもいいですか?」


 そりゃ怖いだろ。今死ぬか、寿命で死ねるか。大きな違いだ。


「そんなもんで紛れるなら」


「えへへ、それじゃ。失礼して……」


 イズーニャは俺にぎゅっと抱きついてくる。


「そんじゃ、行くぞ」


「……伊織さん。私ずっと、300年間、私を助けてくれた人はどんな人だろうって考えていたんですよ。どんな素敵な……王子様より素敵な人が助けてくれたんだろうって」


 俺は苦笑いをする。


「はは、残念。従者でした。悪いね、夢壊して」


 イズーニャは俺にくっつけた顔を横に振る。


「ううん。……想像よりずっと素敵でした。伊織さん、300年間ずっと好きでした。……お願いします!」


 僅かに動揺したが、出来る限りの平常心で俺はイズーニャに封印を施した――。



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