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エンドレス・ニューゲーム~俺の幼馴染が『つよくてニューゲーム』を343回繰り返しているようだ~  作者: 竜山三郎丸


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64話 ハルみたいに

◇◇◇


 コンビニで飲み物とお菓子を買い、ハルの眠る墓地へと向かう。


 天戸はレモンティー、俺はメロンソーダ、ハルは身体にピースな某乳酸飲料が好きだった。


「優等生ぶってるくせに随分あっさりサボリますなぁ、天戸さん」



 天戸はコンビニ袋をぶらぶらと振りながら歩いている。


 通学路から一本入った裏道を通り墓地に向かっているので、学校と逆方向だけどすれ違う人はいない。


 時折犬の散歩をする奥様や、ジョギングをするおじいさんがいるくらいだ。



 空は白い雲の塊が浮かぶ以外は青空が広がり、セミの必死な求婚が夏の空に響いている。



「別に優等生ぶってるつもりはないの。ハルを……」


 ――恐らく、『ハルを殺した』と言いそうになったのを止めたのだろう。


「ハルの代わりに生きていても恥ずかしくないように振舞っているだけだもの」


「あ、そうっすか。で、サボリは許容されるんすか?」


「あなたに強要されたって言うわ」


「……何言ってんだよ、ノータイムでOKしたくせに」


「そうね」



 天戸は振り向いて少し笑った。


 全方位視界を持っているので、振り向かなくても全て見えている天戸が振り返る時は、大体何か意味がある時だ。


 だんだんわかって来た。もっとも、何の意味があるのかはわからないが。




◇◇◇



 墓地に着く。


 もう何年もずっと通っているので、お寺の人達もみんな顔見知りだ。


「こんにちは」


 天戸はニコリとほほ笑んで会釈をする。


「うっす」


 俺も丁重に挨拶をする。


「今日も暑いですね」


 お坊さんは徳の高そうな笑顔を俺達に向けて、『お飲み物、冷蔵庫入れておきましょうか?』と言ってくれたので好意に甘えることにした。


 俺達も木桶を借りて、ハルのお墓をきれいにする。


 月命日にはまだ少し日があるので、今日は花は持ってきていない。


 少し草むしりをして、墓石を磨く。


 高天原家之墓。


 横にはハルの名前が刻まれている。


 苔一つ残さぬように、汗も拭わず掃除をする。


 ハルはいつだって綺麗でないとだめだ。


 

 ――俺に全方位視界がもしあれば、この時も俺を見る天戸の視線に気が付いたのだろう。



 時計を見ていないから正確にはわからないけれど、たぶん一時間くらいは掃除をしただろうか。お坊さんがお盆に乗せて冷たいお茶と茶菓子を持ってきてくれた。


「少し休憩されたらどうですか?」


「ありがとうございます」


 ペコリと頭を下げる天戸。


 お茶は冷たく冷えた麦茶で、茶菓子は恐らく芋羊羹。


 洒落た小皿に分厚い羊羹が二切れ載っていて、つまようじではなく木製の小さいフォークのようなものが付いている。


 木陰に腰を掛けて麦茶を飲む。


 うまい。


 チラッと横を見ると天戸は手で口を隠しながら羊羹を一口で頬張っていた。


「ふふ、おいしいね」


 モグモグしながらも天戸は幸せそうに笑った。


 そんなにうまいのか。


 上品な俺は羊羹を二つに切って頬張る。


 うん、美味い。


 芋と羊羹の足し算では無く、掛け算。


 

 少しして天戸が口を開く。


「ねぇ。あの二人はどこから間違えたのかな?」


 あの二人とは、ジ・デスとアビの事だろう。


「……どこから、ねぇ。そもそも事情をあんまり知らんし」


 そう言って麦茶を飲む。



 アビが死ぬまではジ・デスは普通だったのか?


 普通と言うと語弊があるが、『人の命を重く考えていた』のだろうか?


 多分、蘇生術の悪いところってそこなんだと思う。


 死んでも生き返らせる事ができるから、死に対する重みが減る。


 すると、当然相対的に生の重みも減る。


 月並みな話だけど、いつか終わりがあるから命を、毎日を大切にするのだろう。


「大きな声じゃ言えないけど、……無事に逃げてくれたらいいな、って思ったの」


 麦茶の入った透明で分厚い少し背の低いグラスを両手で持ち、天戸は言った。



 ジ・デスは一般人程度の身体能力で、魔法などは全て封じられているし、アビは満身創痍だ。難しいだろうと思う。どれだけの人を殺し、生き返らせたのかはわからないけれど、人の命はきっと足し算引き算じゃないんだろう。


 でも、実は俺もあの二人には生きていて欲しい。


「……大きな声じゃ言えねーけど、実は俺も」


「ふふ、そう。変なの」


 そして、少し前の天戸の言葉が妙に気になった。――あの二人『は』、どこから間違えたのかな?


 なんて深読みしすぎか?


「アビが死んで、ウラーユが死んで、ハルが死んで。……アビを蘇らせて、ウラーユが蘇って、ハルは眠る、か」


 天戸は無言で麦茶を一口飲んだ。


「あなたの気持ち、ほんの少しだけ知れた気がしたわ。……私は蘇生術なんて使えないけど、あなたやジ・デスは使えるんだもの。誰だって一番大切な人が死んで……目の前に方法があったら」


 と、天戸はそこで言葉を止めた。


「何でも無いわ」


 そう言ってまた天戸は芋羊羹を食べた。


 さすがに名残惜しいのか、今度は半分に切って。


「ねぇ」


 スッと立ち上がり、木陰で裏っ返しになっているセミをそっと手に乗せて持って戻る天戸。


「死んでる?」


「死んでるな。因みに裏返しで死ぬのは背中側に重心があるからだ」


 俺の豆知識を無視して、天戸はとんでもない事を言い出した。


「そう言えば、実際に見た事なかったわ。……蘇生してみて」


「人はダメで蝉はいいのかよ?」


 天戸はふざけているわけでも、嫌味を言っているわけでもない。ましてや、知的好奇心を満たすと言う風でも無い。


「……だめ?」


 俺は軽くため息を吐き、手を差し出す。


 天戸は両手でそっと蝉を俺の手のひらに乗せる。


 蘇生術を使うのは久しぶりだ。


 目を閉じて両手に意識を集中する。


「『蘇生(リヴァース)』」


 数秒後に掌の中でジジッと音がする。


 体の力をごそっと持っていかれるような感覚。


 掌を開けると、蝉は元気よく鳴き声を上げて飛び去った。


 天戸を見ると、頬に涙が伝っていた。


「目。蝉の小便かかってんぞ」


 俺は自分の目を指差して天戸に教えてやる。


「ちっ……違うわ。涙……も違う!」


 そう言って天戸は目をタオルで拭いた。


 天戸が何を見たくて、何が知りたかったのかはわからない。


 知りたかったことが知れたのかも今はわからない。


「……しょうがねぇな。羊羹一つやるよ」


 俺の小皿に一つ残る芋羊羹を天戸に差し出す。


「ありがと……」



 羊羹も麦茶も無くなった所で、もう一仕事掃除しましょうかね。


 立ち上がり背伸びをすると、天戸が服の裾を引く。


「……私、ハルみたいに……ハルの代わりになれるように、ずっと頑張ってるの」


 振り返ると、天戸は下を向いている。


「知ってるよ。来るときも言ってたよな?別に無理して真似しなくてもいいだろ」



 天戸は下を向いたまま大きく息を吸い込むと、『ば~~か』と息を吐きだしながら長く言った。




 樹に留まって鳴いているのは、さっき蘇った蝉だろうか?


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