62話 お前が悪いんだ
◇◇◇
「まろび出ろ」
死霊王ジ・デスは杜居伊織に向けて蘇生魔法を放つ。
正確には彼では無く、『彼が食べたであろう生き物達』に蘇生魔法を放ち、身体の内側から破裂させようとした。
その瞬間、蔓で押さえられた彼の身体から角の生えた巨大な牛のゾンビが現れた。
「ぐぁぉぁっっっ!!」
断末魔の叫びをあげてだらんと動かなくなる杜居。
彼の断末魔を聞いて二人は対照的な表情を見せる。
ジ・デスは勝ち誇ったように高笑いを浮かべて、天戸は今にも泣き出しそうな悲痛な声で彼の名前を叫んだ。
「イヤァァァァッ……杜居くん!杜居くんっ!」
天戸は千剣とマフラーを使い植物を薙ぎ払いながらジ・デスに近付こうとする。
「動くな。僕なら蘇らせられるよ」
ジ・デスの言葉に天戸はピタッと動きを止める。
ポロポロと大粒の涙をこぼしながら、すがるような瞳でジ・デスを見る。
「……どうすればいいの?」
ジ・デスの口角が邪悪に上がる。
「はは……ははは。あれぇ?蘇生は悪い事じゃなかったっけねぇ。勇者様?」
「……どうすればいいの!?」
会話が通じなければ嫌味の言い甲斐も無い。だが、ジ・デスは確かな勝利の感触を得て満足げに頷く。
「先ずはアビを解け。クソブタ売女め」
アビを拘束していた光の剣が消えると、彼女は自身の怪我も省みずジ・デスの元へとゆっくりと向かう。
「アビ、無理しなくていいよ。ゆっくり回復を待つといい」
「……ありがとう、ジデス。ごめんね、また負けちゃった」
「気にしな……」
「どうすればいいの!?」
二人の会話を天戸の涙声が遮る。
天戸は俯いて、大粒の涙をぽたぽたと零しながら、涙声でジ・デスに訴える。
「……何でもするから、生き返らせてくれたらすぐに帰るから。お願いです、杜居くんを生き返らせてください。お願いです」
「大事な子なの?」
つい今しがたまで殺し合いをしていたとは思えないような優しい表情でアビは言う。
「……はい。幼馴染なんです。私を助けてくれるって言ってくれたんです。だから助けて下さい。殺さないで下さい」
「へぇ、お前は僕達を殺そうとしたのに?」
「……ごめんなさい。でも、お願いします」
泣きながら頭を下げ続ける天戸。
「わかったよ。そんなに頼まれちゃあしょうがない」
天戸は顔を上げる。
「ほんとうですか?!」
「服を脱げ。全裸で床に頭を擦り付けて懇願するなら、こいつを蘇生させてあげるよ」
「ちょっと、ジデス……」
下種な要求をアビは咎めるが、ジ・デスは首を横に振る。
「ダメだね。こいつはアビに酷い事をしたんだ。そのくらいはしてもらわないとな」
その会話の途中で天戸は服を脱ぎ始める。
「ははは、そうだ。その調子だ。ほら、早く上を脱げよ。彼も喜んでるぞ」
「……いやー、俺貧乳お断りなもんで」
俺の声にハッとするアビとジ・デス。
「ジデス!」
アビが叫ぶ。
だが、もう遅い。
俺の右手には練りに練った封印術の球がある。
「杜居流封印術!九十九式っ!」
超圧縮した封印球を載せた掌は、死霊王ジ・デスの身体を強打する。
――勿論適当につけた術名だ。99個もバリエーションは無い。
まがりなりにも死と引き換えの強化薬を飲んだ俺の掌底撃ちは、ジ・デスを少し後方まで吹き飛ばす。
そして、部屋を覆っていた植物達は一斉に意思を持たぬただの植物になった。
掌が熱い。心臓の鼓動が高鳴る。
意識が高揚する。
――俺は死霊王ジ・デスの封印に成功したのだ!
アビはボロボロの身体で、足を引きずりながら短刀を構える。
「……よくも、ジデスを!」
「殺してねーよ、やめとけ。あんたも次はもう生き返れねーぞ」
その言葉にハッとするアビ。
天戸は半裸のまま俺を見てきょとんと立ち尽くしている。
「……杜居くん?」
「いいから服を着ろ。貧相なものをしまえ」
「どうして……。痛いっ!」
頭に強烈なチョップをお見舞いしてやる。どうもいまいち頭の回路の調子が悪いみたいだからな。叩けば直るだろ。
「敵の前でネタばらしは趣味じゃないんだけど、ヒントだけ。『財布』」
天戸は何度も頷くと、その場にへたり込んでポロポロと声を上げながら泣き出した。
「よかった……、よかった~。杜居くん~」
まだ調子が悪そうなのでもう一発頭を叩こうとしたらマフラーに防がれた。
程無くして俺達の身体を光の粒子が覆う。
蘇生術の封印で、世界を救う条件に当てはまったようだ。
残り時間は126秒。
「ジ・デス。自分でわかってると思うけど、お前はもう蘇生術を含む全ての魔法は使えない。俺が封印したからだ。当然、俺がこの世界を離れても封印は続く。一応千年くらい封印したつもりだよ」
「ふ……封印!?ふざけるな!そんな事あるはずは……」
すでに蘇生術を試みているだろうジ・デスは、そういいながらも事態を把握している。
「だからその女ももう死んだら生き返らない。ま、それが普通だけどな。外にはたくさんの憲兵がいるだろうから、うまく立ち回らないと二人とも死ぬ事になるよ。……でも、まぁお前が悪いんだ」
俺は時間の限り言葉を続ける。
「きっとこの世界では蘇生とは悪の象徴のようになるだろう。研究も使用もするだけで罪になるような。わかってるよ、蘇生術には罪はない。人を生き返らせたい気持ちはわかる。でも、お前が悪いんだ。蘇生術は悪くない。お前が悪いんだよ。お前が独りよがりな気持ちだけでアビを蘇らせて……たくさんの人を傷つけたから」
そこまで言って、自分の動機に違和感を感じる。あぁ、そうか。そんなの全部建前か。こいつは天戸を泣かせ――。
と、気が付くと今日は本棚が見えた。
首を動かすと天井が見える。
ピロンとスマホが鳴る。
『おはよ』
少し笑った。あの状況からいつも通りの生存確認。
『おっはよ~!!』
敢えて超ハイテンションで攻めてみる。何事も実験だ。
特に返信は無く、30分ほど経って家のインターフォンが鳴った。
外では早起きなセミが鳴いている。




