59話 まるで浦島太郎のような
◇◇◇
帽子を深く被ったウラーユは、俺達と共に町を歩き彼女の生家に向かう。
兵士が1人帯同して、俺達の最後尾を歩く。
ウラーユは10年振りに歩く町を物珍しそうにキョロキョロと見渡した。
「あんまり変わってないですね、……本当に10年も経ってるのかわからないくらい」
久しぶりの自力歩行なので、天戸の腕に掴まりながらゆっくりと一歩ずつ歩いている。
俺の右手はほぼ治って来たので、俺は二人の少し後ろを歩く。
ウラーユは子供の頃から身体が弱かったそうで、その影響かは知らないが天戸と比べるとわりと身長差がある。まぁ、天戸が標準より背が高いってのもあるけれど。
……でも、身長差はあるけれどどう考えても胸はウラーユの方が大きいので、身体が弱い云々は全く関係ないんじゃないかと思う。
「言いたい事があるならはっきり言ったら?」
俺を振り向きもせずに冷たい声で天戸さんは吐き捨てるように言った。
何のことかわからず隣でウラーユがビクッとする。
俺の視線を読みでもしたのだろう、全方位視界を侮っていた。
「……はは、何の事だよ。被害妄想も大概にしとけよ」
「んん?何に対しての被害妄想?私一言も言ってないんですけど」
しまった、墓穴を掘ってしまった。
だが、ウラーユがいるので平気だ。
「ウラーユが怖がってるからその辺で勘弁してもらっていいっすか、天戸さん」
天戸は口を尖らせて文句を言う。
「何よ、その言い方。悪いのはあなたでしょ」
そのやり取りを見てクスリとするウラーユ。
「ふふ、仲いいんですね」
その言葉で途端に沈黙する天戸。
「別に良くはねーぞ。特別悪くもないけど。昔からよく知ってるだけだ」
「ひどい言い草ね」
それを聞いてニコニコとほほ笑むウラーユ。
「幼馴染なんですね。……私も昔いましたよ、でもみんなもう大人になってるんだろうなぁ」
10年経っているのだ、16歳のウラーユの幼馴染は26歳になっている。結婚して、子供が生まれていてもおかしくはない。
自分に置き換えてみる。目が覚めて26歳のハルがどこかの誰かと結婚して子供が生まれている。
うーん、辛い。
泣きそうだ、想像だけで。
浦島太郎みたいなものか。
10年ってのが中途半端に辛いな、100年とかだったら逆に平気だと思う。
目が覚めてハルや天戸の孫が居たらなんだか楽しくなってしまうかもしれない。
「ねぇ、家族には何て言うの?」
天戸は俺を振り向いて言う。
「嘘ついてもしょうがない、正直に言うしかないだろ。『ウラーユです、生き返りました。ただいま』って」
俺の言葉を聞いてウラーユは不安そうな顔をして天戸の袖を掴む。
「……そんな簡単にいくわけないじゃないですか」
「んー、そう言うもんかねぇ。例えば、親の気持ちになってみてさ、10年前に死んだ子供が『生き返りました、ただいま』ってひょっこり来たらどう思う?」
「ん、うれしい」
ウラーユで無く天戸が答える。
これを嬉しいと思うか怖いと思うかは親との関係なのかもなとも思ったが、別に真実を告げるのが目的なのでは無く、ウラーユが前向きになる材料になればいいだけなのだからなんの問題も無い。
「俺も嬉しいと思うけど、ウラーユは?嬉しくないか?」
「……嬉しいけど」
「ほら、な?きっと同じだ」
ウラーユは少し照れ臭そうに、不安そうに少し笑った。
「そうかな……」
いいぞ、あと一押しだ。
そして、もう一点気になっていた事がある。
俺は振り向いて最後尾を歩く兵士に声を掛ける。
「ね、兵士さん歳いくつっすか?」
唐突に声を掛けられて一瞬戸惑う兵士さん。
「……26です」
「あ、そうっすか。26かぁ~」
この兵士の人、ウラーユの部屋の護衛もしてたよな。
せっかく水を向けたのに、天戸とウラーユは特に意に介する様子はない。
やれやれとはこの事だ……。
「なぁ、天戸。問題。16足す10は?」
「26よ。馬鹿にしてる?」
ウラーユは振り返ると、少しの間兵士をジッと見る。そして、ハッとした顔をする。
「……もしかして、ジータ?」
兵士は照れて顔をそむけて、ヒソヒソと俺に苦言を呈してくる。
「ちょ……勇者様。言わなきゃ気づかれなかったのに!何でわかったんですか!?」
「別に隠さなくてもいいじゃないっすか。知ってる人が居た方がウラーユも安心するでしょ」
ウラーユは自信無さげな顔ではにかむ。
「あ……ごめんなさい。人違い……でした?」
「……いや」
ジータと呼ばれた彼は照れながらウラーユを見る。
「人違いじゃない。お帰り、ウラーユ」
それを聞いてウラーユは満面の笑みを見せる。
「あはは、変なの。ただいま!大人になったねぇ、ジータ」
急に元気になり昔話に花を咲かせる二人。
二人を見てようやく納得した天戸さんは微笑ましく二人を見守る。
「さっき言ってた幼馴染って言うのが彼な訳ね?」
「そうみたいだな。はは、半分適当だったけど26歳ってこのくらいかなって」
天戸がすっと一歩下がると、ジータがウラーユを支える。
ウラーユは少し照れたようにジータに掴まる。
「ごっ……ごめんね!?まだあんまりちゃんと歩けなくって!」
「だっ……大丈夫だ!鍛えてるからな!」
俺と天戸は二人の後ろを歩き、ウラーユの家に向かう。
二人を見て、何だか少しうれしい。
知っている、幼馴染に有効期限なんか無いことを。
「ねぇ、杜居君。10年経っても私のことわかる自信有る?」
唐突に質問をしてくる天戸さん。
10年後、26歳の天戸か。
一瞬目線が下に行きそうだったので止めたが、気付かれなかっただろうか?
「まぁ普通に気付くだろ」
「ふふ、そう」
少しだけ機嫌良さそうに天戸は笑った。
◇◇◇
ウラーユの家に着く。
ジータから俺達を紹介してもらった後に、言葉を選びながらウラーユの事を伝える。
恐る恐る帽子を取るウラーユを見たその瞬間、両親は彼女の名前を呼びながら抱き付いた。
ウラーユは泣いて、両親も泣いて、何故か天戸も泣いていた。
意外とよく泣くよな、こいつ。
蘇生者は原則処分と言うことになっているが、異界の勇者の名に賭けてそれはさせない、と天戸は彼女の両親に強く言った。
「杜居君、一旦お城に戻ろ。死霊王を倒す代わりにそれだけは約束させないと」
「んー、あー……伝令とかで……よくね?」
歯切れの悪い返事には理由がある。
天戸を城に行かせたくない。
城にいたイケメンの使用人。その姉が天戸を召喚し……恐らく、命を落とした。
『異界の勇者を召喚すると命を落とす可能性がある』事を天戸に知られたくない。
「直接脅さなきゃ意味ないじゃない。それとも何かだめな理由でもあるの?」
はっきり『脅す』って言ったよ、この人。
「……あるよ。憶測だからいえねーけど」
少し目をそらしながらそう言う。
変に誤魔化すよりは追及されないと思った。
だが、天戸の反応は全く予想外だった。
「ありがと。でも、知ってる。ふふ、あなたたまに優しいよね」
何故だか少し嬉しそうに天戸はそう言って笑った。
「え、知ってるって……何を?」
「ふふ、憶測だから言えないわ」
「真似すんなよ、おい」
俺達は一旦城に戻ることにした。




