58話 蘇生術の可能性
◇◇◇
2時間程経って、少女は目を覚ました。
俺を見て少し警戒したが、天戸を見ると表情は和らいだ。天戸はニコリと優しく笑いかける。
「おはよ、大丈夫よ。この人も一応敵じゃないわ」
「一応って何だよ、完全に敵じゃねぇよ」
ウラーユはきょとんとした顔で俺達のやり取りを見ている。その顔は大分幼いように感じたが、享年16歳と言う事は俺達と同じくらいの歳だ。
「俺は杜居伊織、こいつは天戸うずめ。ここは……」
そう言えば街の名前知らねぇな、と思うと天戸が言葉を繋いだ。
「ブルリオ。ブルリオの街の兵舎よ。あなたはウラーユさんね?」
ウラーユは布団をギュッと握りながら天戸をジッと見て頷く。
「はい。ウラーユ・ラトゥールです。……あなた達は?私は何でここにいるんですか?それに昨日の夜は……」
「えぇ、あなたは死んで蘇生されたの。今はアルマリ暦231年よ」
ニコリと優しげな微笑みを浮かべながらもオブラートに包まない言葉を投げつける天戸うずめさんに鳥肌が立った。
「包めよ!何かにさぁ!」
俺の大声がさも迷惑と言わんばかりの顔をして眉を寄せる天戸。
「大きな声出さないでよ。ウラーユさんがびっくりするでしょ」
「ビックリするとしたらお前の発言にだよ!」
「だから大きな声出さないでってば」
ぽかんとした顔で俺たちのやりとりを眺めるウラーユ。
「あぁー、ごめん。本当はもっと順序良く伝えたかったんだけど、気が利かないやつがちょっと……。はは、俄には信じがたいよな、急にそんな風に言われても」
俺の言葉に首を横に振ると、服の胸のあたりをぎゅっと掴む。
「いえ、信じます。だって……、胸が苦しくないんです」
確か死因は心臓病と言っていたか。
「もう少し落ち着いてからでいいからさ、これからの話をしたいんだ。俺達が最大限協力するから、……難しいかもだけど安心してくれ」
ウラーユはコクリと頷いた。
◇◇◇
ウラーユを一旦預けて兵舎を出る。
右手の機能はまだ回復しておらずかなり不便だ。
「どこ行くの?」
「いや、飯。腹減らね?」
天戸は少し微笑んで頷いた。
市街へとぶらぶら歩きながら蘇生術について考察する。
例えば、ウラーユの心臓病は治癒魔法では治せなかったのだろう。
俺程度の腕前ならともかく、町の有力者の娘ならもっといい術士を呼べるはずだ。でも、治らない。
で、蘇生術なら治った。
生前の状態のまま復元するというなら病の状態のまま復元されると思うのだが、そうではないようだ。
ウイルスや菌が関与しているのであれば、それが死ねば通常に戻るが、機能異常はどうだろう?先天的なものは蘇生でも治らないのか?
まぁ、俺が考えていてもしょうがないな。
ん?ウイルスや菌にも蘇生術って使えるんじゃないのか?
実際に俺は虫を蘇らせたし、もっと小さいものもできるなら……。
それにあの範囲蘇生術。
あの範囲の虫を蘇生されたら厄介すぎないか?
そもそもなんでジ・デスは生きてるんだ?
色々考えていたら市街に着いていた。
目が合ってようやく天戸は口を開いた。
「随分長い考え事ね。何か食べたいものある?」
「んー、血出し過ぎたから肉かな。天戸は?」
「お肉賛成」
満面の笑みを見せる天戸さん。
天戸の嗅覚を頼りにいい匂いのしているお店をチョイスする。
いい肉を切って、焼くという単純な工程のステーキの旨さはどの世界も共通だ。
しばらくして、テーブルに料理が運ばれてきた。
そして、迂闊にもおれはその瞬間になって気がついた。右手がまだ使えない事に。
服は汚れないだろうに天戸はエプロンをつけて、両手を合わせて『いただきます』と言うと、ナイフとフォークを使って肉を小さく切って頬張った。
何口か食べてから漸く俺をチラッと見る。
「食べないの?冷めるよ」
え、見てわかりませんかね?俺から言わなきゃ駄目な感じなの?『右手使えないから小さく切ってくれませんかね?』って。
「あー、食べたいのはやまやまなんですがね。左手しか使えないんで……」
そこまで言ってやっと天戸さんは気が付いて下さったようだ。
「あ、ごめん。じゃあ切って食べさせてあげるよ」
え、切ってくれれば十分なんだけど……。
◇◇◇
「おい、ペース早ぇよ。見えてんだろ、もう少しゆっくりだよ」
「はいはい、わかったってば」
天戸はマフラーにフォークとナイフを持たせて、器用に肉を切り分けて俺の口に運ぶ。
俺の左手はコップを持つ為の装置となり、水を飲むタイミングを掴みたいがタイミングが無い。
「おい、水」
「水は自分で飲みなよ」
そう言いながらマフラーは俺の口に肉を運ぶ。
「そのつもりだよ。水を飲むタイミングが無いんだよ」
「もう、注文が多いわね」
ちょうど肉を切り分け終えてナイフのマフラーさんが空いたので、俺からコップを奪い取る。
「おい、伝わってねぇ。水は俺が……ガボッ」
不意に水を流し込まれて逆流する。
遊びじゃないんだよ。
というか、切ってくれたのなら後は一人で食べることが可能じゃないか。
「スープは?」
「……今日はいい。飲んで良いぞ」
左手でフォークを持ち、マフラーさんが切ってくれたステーキを刺す。
ステーキの焼き加減はレアで、刺すと肉汁と血が滴る。
そこで改めて肉は生き物だったことを思い出してゾクリとした。
墓場での範囲蘇生術。
人々の暮らしに溢れかえる様々な『死体』
あぁ、確かに禁止するべき術だな。
そんな事を考えながらもステーキは美味しいと感じた。
そう言えば天戸はいつも『いただきます』を言ってて偉いな。ハルも確か言っていた様に思う。
俺は……、あまり言ってないな。
うん、言った方がいいな。命を『いただきます』、か。
◇◇◇
兵舎に戻り、ウラーユの部屋へ。
「具合はどう?」
天戸の問いに微笑むウラーユ。
「良いと思います。苦しくもないですし、まだ起きあがると疲れちゃうけど……」
天戸が椅子を用意してくれたので腰掛ける。
「話、いいか?もしかしたら辛い思いさせるかもだけど」
ウラーユは頷いた。
十年前に心臓病で死んだこと、死霊王の蘇生術により蘇らされたこと、国は蘇生を認めておらず本来は処分の対象であること、ウラーユは俺達が守る事を伝えて、彼女の意向を聞く。
「そんなの決まってるじゃないですか。……生きたいし、家族に会いたいです」
泣き出しそうな顔で、ウラーユは言った。




