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エンドレス・ニューゲーム~俺の幼馴染が『つよくてニューゲーム』を343回繰り返しているようだ~  作者: 竜山三郎丸


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49話 杜居伊織と3人の同行者

◇◇◇


 使用人に案内されて応接間に赴く。


 扉の十数メートル手前に兵士が一人立っていて、そこから先は俺たちしか入れないようにしてくれているようだ。使用人は会釈をして案内を終え、俺は扉に向かう。


 年季の入った古木で出来た扉は重厚な雰囲気とは逆に軽く開いた。


「おー、伊織くん。遅い遅い」


 立ち上がり手を振ったのは貴族の着るような服を纏った青年――、魔物区のアグリだ。全裸のインパクトが強かったので一瞬誰かわからなかった。


「あっ、じゃあお茶くみ私やりますね。人払いしてるし」 


「ほら、突っ立って無いで座れよ。始めようぜ」


 ほかの二人も思い思いに口を開く。ギルより年上の男性と、同じ年くらいの女性。俺は扉を閉めて席に着く。


 椅子は予め四脚しかなかったので、必然的に俺の座る席は決まっていた。


「お茶入れるまでもう少し待ってよ、もう。大事な話なんだから急かさなくてもいいでしょうが」


 急かした大男は大きくため息を吐いて次の提案をする。どうやらせっかちな気性らしい。


「そんじゃ今のうちに自己紹介でもしとこうぜ。俺はジャムス・トラウ。ギルティのやつとは同郷だ。歳はあいつより4つくらい上だったかな?魔法は使えないが、単純な戦闘には自信あるぜ」


 やや白に近いような銀髪で大柄な、いかにも戦士然とした男性だ。――恐らくは短気。


「じゃあ次俺します。杜居伊織、15歳っす。白き闇を倒すように、って教会から召喚されたっぽいっす。転移回数は30数回くらいっすね。魔法は少しと封印術を少々って感じっす。勇者は俺じゃなくって天戸ってやつで、そいつは370回ちょい周回してます」


「370?!」


 ジャムスを含めて皆の声が被る。


 まぁ、そうだろう。


 取り合えずのマウント取りは成功と言える。俺はニッコリと笑って紹介の終わりを告げる。


「次俺かぁ。俺はさっき会ったから少し省くけど、名前はアグリ。歳は26だっけ。魔物の言葉が話せる……って言うか、魔物以外の言語もわかるよ。会話は声帯で出せる声なら何語でもいける。元々の世界でも外国語を学ぶの好きだったけど、なんか宝珠?みたいなので更に強化されたみたいなんだよね、あはは」


 ――で、元の世界に婚約者がいる。


「最後は私ね。ノーマ・ヨーグ、歳は……ギルとアグリの間位ね。いくつか世界を回ってみてもやっぱり女性が声高に歳を言うような世界ってあまりないよね。……やっぱり女性の価値は若さって思ってる馬鹿な男性が多いせいなのかなぁ。あっ、ごめんね」


 あんまり気にした事無かったけど、そう言うものなのか?かといって今後も確認しようとは思わないが。


 自己紹介は終わり、全員にお茶は行き渡る。


 ジャムスは真顔で俺にお茶を勧める。


「まぁ、飲んでくれ。特製の毒入りだ」


 そして、俺も真顔で勧めを受ける。


「あ、どうも。いただきます」


 ゴクゴクとお茶を飲む。丁度喉も渇いていたのでおいしい。毒が入っていたとしても構わない……と言うか、むしろ入っていてくれたら気が楽だなと思う。


 だが、当然ノーマの淹れたお茶にそんなものは入っておらず、味のわからない俺でもおいしいと思えた。


「……まず、意思確認させて欲しいんすけど……元の世界に帰りたい人」


 俺が右手首を上げて挙手を促すと、……三人の手が挙がった。


「ははは、そうっすよねぇ」



 当然の反応だ。


 まず、第一の選択肢は消えた。『他の三人も残りたがっている』


「……次に聞かせて欲しいのは、ギルさんは……えーっとどう言えばいいんだろ。何かこう……この辺から開いて物をしまえる様な便利アイテムか術かわかんないけど、持ってないですかね」


 俺は適当に空間をチャックで開ける様な動きをジェスチャーするが、皆一様に首を傾げる。


「あー、言い方変えよう。こっちの世界の物を元の世界に持って帰ったりできます?」


「私の知る限りそれは無いと思うわ。毎回最初は金策にヒーヒーしてるもの」


 ……第二の選択肢も消えた。『ギルも異次元ポケットを持っていて、それにオーギュを入れて一緒に連れて行く』。一番理想的な選択肢だった。


 と言うか、この人らすごいな。アイテム持ち越し無しで、たった6回目の転移でここまでの事をしているのか。


 

 最も平和的で、誰も傷つかない選択肢の2つがもう潰えてしまった。



「……三人はギルさんとは付き合い長いんですか?」


「まぁね、私は子供の頃から近所だったし。ジャムスとアグリは同僚よね?」


「がはは、しがない憲兵だけどな」


 話を聞くと、異常に憔悴したギルに気付いたジャムスがギルを問い詰めて転移を知ったそうだ。そして、一緒に行く方法がある事を知り、ジャムスの強い要請で他に二人選ばせたところアグリとノーマが選ばれて、快諾した。


「何で他に二人選ばせたんですか?」


「がはは、俺とギルだけじゃ突っ込んですぐ死ぬだろ」


「……婚約者がいるって知ってるのによく誘うよねぇ」 


「すぐ突っ込むのはあなただけでしょう?」


 

 ゴン、と大きな音に三人は俺を見る。


 音は俺が額を机に打ち付けた音だ。


 俺は机に土下座をするように頭を下げる。


「……現状貴方方だけが戻る方法を俺は知りません。ギルも含めてみんな残るか、オーギュを置いてみんなで帰るかの二択っす」


 机に額を押し付けたまま話しているので、他の三人の顔は見えない。声もしないので、そのまま話を続ける。


「……本当に情けなくて勝手な話なんすけど、どうか三人とも残って貰えないでしょうか?!」



 本当に、情けない。



 結局、何の作戦も浮かばない。


 

 あるいは、俺達も何十年も一緒にいれば他の異界の勇者も交えて何らかの糸口が産まれるかもしれない。


 だが、俺達は帰る。


 でも、三人には帰るなと言う。


 何て身勝手で一人よがりなお願いだろうと思う。



 沈黙が怖い。


 俺は情けなくも懇願の言葉を続ける。



「金とか財宝とか、その手のものはいっぱいあります。いくらでもあげます。これからも他の勇者が来るかもしれないし、最悪死んでしまうと戻れないっす。……でもお願いします!」


 俺は何を言っているのだろう?


 天戸を連れてこなくて良かったと心から思う。


 論理も作戦も何も無い、タダの子供の駄々じゃないか。



「俺、来月に結婚式を控えてるんだよね。それなのに何十年もここにいろって?」


 この声はアグリだ。


 もっともな意見だと思う。俺だったら絶対嫌だ、最悪戻れずに死ぬかも知れないのに他者の恋路なんて知るかよと思う。


「すいません……、でもお願いします!」


 バカかよ、俺。


「金は貰うとして、余りにも割りに合わんなぁ。そうだ、お前さんにも死んでもらうのはどうだ?」


「それはできません!……ただ、死なない程度に手足をもぐ程度なら何とか!」


 身勝手な事を言うな、本当。


 だが、条件が出てきたって言うのはいい傾向だ。


「君にメリットは?伊織くん」


 この声はノーマだ。尋問する、と言った様子の声ではない。


「……あいつが、『素敵な話ね』って言ったんすよ。ギルとオージュの事。ほぼ一人で343回も世界を救い続けて、機械的に黙々と敵を殺し続けてきた、あいつが。『素敵な話ね』って」


「……それで、私達に残って欲しいって?」


 顔が見えないので、どういう意図の質問なのかはわからない。


「そうです!お願いします!」


 少しの沈黙。


「つまり、お前さんはその子が好きってわけだな?」


 好き?お前さんは俺で、その子は天戸?


「違います!俺巨乳派なので!」


「好きじゃない子の為にここまで頭を下げて、腕をもがれても平気ってことかい?」


「……平気ではないっすけど、そうです!」


「それは納得できんなぁ。お前さんがその子を好きだからって理由なら俺達も納得しやすいのだがな」


 

 ――あと一歩だ!


 俺が天戸を好きと言えば……。


「……自分語りいいっすか?」


「どうぞ?」


 頭を机に付けながら自分語りをした。


 二人の幼馴染がいて、その一人が今一緒に来ている天戸うずめ、もう一人は高天原ハル。ハルは天戸の助けに応えて5年前……8回目の転移で死んでしまった。


 俺はずっとハルの事が好きだった。昔も、今も。


 天戸それからもずっと世界を救い続けてきた。


 そして、345回目の世界から俺は一緒に来た。344回の世界を救って、ただ一度救えなかった世界があった。


 天戸と世界を救い続けて約30回、俺達はハルが生きている世界を作る事を目標にした。

 

 それが実現可能かどうかはまだわからないが。


「……と言うわけで、天戸はただの幼馴染で俺が好きなのはハルです」


 俺の言葉の後に沈黙が続く。


「わかった、俺達3人は残ろう」


「本当ですか!」


「約束どおり腕貰うぜ?顔を上げずに腕を伸ばせ」


「はいっ!」


 これから腕を失うと言うのに、何故だか少し嬉しい。あほみたいだが、そう思った。


 腕を押さえられて腕まくりをされる。



 次の瞬間、パシッと言う音と共に腕に激痛が走る。


 ――超痛い。


 でも、ただ痛いだけ。注射を受ける子供の様に恐る恐る片目を開けて右手を見ると、指二本分赤くなっている。あれ?


「次私ね」


 のんきな声の後で、今度はパチンと軽い痛み。


 ――しっぺだ。


「アグリもやっとけよ。婚約者にあえない分も入れとけ」


「ははは、もちろん。せーのっ」


 パシッと三発目のしっぺが鳴り響く。



「パーティの準備をしてある。お前も着替えたらお姫様と一緒に来い、いいな?」


「あざっす!」




 ――後で聞いた所によると、三人は最初から残るつもりだったらしい。


 ただ、ギルから頼むのも、三人から言い出すのも言いづらい話だったのは事実だった為、いい口実になったようだ。



『ガキのくせに何でも背負おうとするな』


 部屋を出るときに頭をワサワサされながら言われた言葉が妙に心に残った。

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