43話 白き闇と金色の鬼
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白き闇の居城ガルガンド城から数キロ離れた平野にテーブルセットを出してお茶会と洒落こむ異界の超音波兵器天戸うずめさんと、白き闇こと元異界の勇者ギルティさんと、異界のお茶汲みこと俺・杜居伊織くん。
お茶と言ってもすぐ出せそうだったのが缶のストレートティだけだったので、ビジュアル的に何とも味気ない事になっている。白き闇ことギルティさんは缶ジュースを知らないようで、訝し気に眺めている。
毒が入っていない事を示す為にも俺と天戸が先に缶に口を付ける。
「さ、話し合いを始めましょうか。議題は?」
天戸はいきなり俺に話を振ってくる。
「えーっと、ギルティさん。俺達は地球って惑星の日本ってとこから転移してきてるんだけど、缶ジュースを見た反応を見るに、ギルティさんは俺達と同じ所から来たわけじゃなさそうだね」
ギルティは缶ジュースに口を付けると眉を寄せる。苦かったようだ。
「服装を見るに別だとは感じるな」
天戸も俺も制服姿だ。
だが、眠る時は当然制服で眠っているわけではないので、どういう理由で制服になっているのだろう?ハルはパジャマで出てきたと天戸が言っていたような気がする。原理が謎だ。
ギルティは金髪碧眼で無精ひげの大柄な男だ。魔法と言うよりも剣がよく似合う。
「まぁ、お互いの世界の文明の擦り合わせは置いといて、情報交換を行う前にお互いの立ち位置をはっきりさせときましょうか?俺達は金色の鬼を従えた白き闇を倒すようにって教会に呼ばれたんすけど」
敢えてそこで言葉を止めてギルティさんの出方を伺おうと思ったら、天戸が口を挟んできた。
「ちょっと、言葉が足りないわ。倒しに来たわけじゃないでしょ」
「あーあー、余計な口出ししてくれちゃって」
俺の白い目を見てムッとする天戸うずめさん。
「何よ、その言い草は」
俺達のやり取りを見て少し笑うギルティさん。
「はは、あの声だけで実力差はわかるさ。戦うつもりなら既に殲滅されているだろ。僕一人で来た事で信じてもらいたいんだけど、僕たちも戦闘の意思はない。情報でも宝物でも、出来る限りの事はする。どうか見逃して欲しいのだけれど、どうだろう」
天戸は腕を組んでジッと白き闇を見据える。
「それはあなたたちのやっている事次第よ」
白き闇ことギルティさんは、天戸の圧に引きつった笑みを浮かべる。
「……どうだろう?もし君たちが良ければ、城壁の中を案内したいのだが」
天戸は俺をチラッと見たので、俺はコクリと頷く。
「お願いしするわ」
天戸の返事にギルティはプハーっと大きく息を吐く。
「はは、安心したよ。正直、本当に話し合いに応じてくれるのかは半信半疑だったんだ」
「へぇ、もし俺達が城を襲うつもりだったらどうしたんすか?」
俺の問いにギルティはニッコリと笑う。
「それは秘密に決まってるだろ?」
「はは、まぁそすね。それじゃお言葉に甘えてお城探検させてもらいますけど、俺からは一つだけ。……俺達370回以上世界を救ってますんで、そのつもりで」
「370……?!」
ギルティの顔が引きつるが、すかさず天戸が口を挟む。
「あなたは30回ちょっとでしょ、盛らないでよ杜居くん」
――盛らないでよ、杜居くん。何かのタイトルみたいな響きだな。どうでもいいが。
「……いや、30回でも十分すぎるが」
まじか、いつの間にか俺も一端の周回者って訳か。ただの寄生プレイな気もするが。
「因みにギルティさんは何回なんすか」
「……この流れで僕に聞くかな」
ギルティさんは6回だと言った。
謙遜しているが、天戸はとても感心していた。逆に言うと今までに5回しかクリアしていないのに、転移先で国を造るような事をしているのだから。
城壁迄の数キロを歩きがてらいくつか情報交換をした。
白き闇はギルティを入れて4人で転移をしていて、3回目から仲間を連れてきたそうだ。合計の転移期間は10年ほどらしい。年齢は32歳。
天戸はポケットに手を入れて俺の三歩くらい後ろを付いて歩くので、会話は俺がメインで行う。
全方位を警戒してくれているのがわかるので、とても心強い。
「教会の人からどう聞いているかわからないが、ガルガンドでは魔物と人間の両方が暮らしているんだ」
「らしいっすね。言葉とか大丈夫なんすか?」
ギルティは少し申し訳なさそうな顔で説明をつづけた。
「そうだね。本来は共生と言う形にできればいいんだけれど、全く生活体系の違う者同士だからね。分生……って言えばいいのか、結局別々に暮らしてるだけだよ。それが彼らにとっていいのかどうかはわからない」
要するに、人間区と魔物区と別れている感じなのだろう。
一応最悪のイメージはしておかないと出足が遅れるからな。城の中では魔物が惨殺されていて人間の愉楽の慰み者になっているくらいのイメージは持っておかなきゃならないよな。
別にもし仮にそうだからと言ってそれをどうこうしようとは思わないけど。
世界を救うって難しいよな、と今更ながらに思う。
城壁に近づくと、急に日が陰る。――いや、空は雲一つない晴天だ。
嫌な予感がして、恐る恐る顔を上げると城壁の向こうから角の生えた巨大な亜人の女が顔を覗かせている。
「ギルティ!無事!?」
天戸程ではないが、大きな声に耳を塞ぐ。……まさか、この巨大な女が……?
ギルティは急にデレデレした顔になって手を振る。
「ははは、平気だよオーギュ。二人とも話の分かるいい人だ」
俺と天戸はきょとんとした顔で顔を見合わせる。
「え、どういうこと事?」
「え、そういうこと事?」
天戸がマフラーでギルティの服を掴んで答えを催促すると、ギルティは照れ臭そうに頭を掻いて笑った。
「一目ぼれなんだよ、僕の」
俺と天戸の驚いた声が城壁に反射して、平野に響き渡った――。




