38話 祭りの後
◇◇◇
王女を街の衛兵に引き渡し、一晩を街で過ごす。
翌朝、とんぼ返りをして爬王の城へ向かう。
城に入ると『爬王』の名の通り様々な爬虫類っぽい魔物達が俺達を襲うが、まぁいつも通り天戸無双で薙ぎ倒していく。
「トカゲとかヘビ苦手とかそう言うかわいげはないの?」
そう言うと天戸は襲い来る魔物を斬り伏せながら微笑んだ。
「どっちもわりと好きよ?かわいいじゃない」
あ、そうですか。
暫くして魔物の襲来が止むと目の前に一匹馬鹿でかいワニガメの魔物みたいなやつが現れる。
王を守る近衛兵みたいな感じだろう。
狂戦士天戸が瞬殺しようとするので待ったをかける。
「待った、封印試したい」
「遊びじゃないんだけど」
そう言って天戸は指を一本クルリと回すと封印術を作る。
「1分あげる」
「どうも、寛大っすね」
天戸に襲いかかったカメの鼻先にピッと指を差し出し、封印術をかける。僅か一分の封印術。
カメはピタッと動きを止める。
「あー、そうだよな。当てるのをどうするかだよな。うーん」
考えながら術を練る。解けたら同時に放ってみよう。
天戸がカウントを始める。
「解けるよ~。4、3、2、1、0」
カウントと同時に俺の封印術をカメに当てる。
カメは完全には静止せずゆっくりと動き、それを見て天戸は笑った。
「かわいい。行こう」
「おう」
俺達はカメを置いて扉の奥へ。
――実験はひとまず成功といえる。
天戸が使うような、対象を完全に静止させるような術でなく、内向きに作用する封印術、と言って伝わるだろうか?言葉を話せる相手でないと効果のほどは分かりづらいな。
「爬王にはどうする?」
「や、いいや」
そんなやりとりの後、やはりこの世界も容易に救われた。
勇者天戸が救った374個目の世界。
◇◇◇
『おはよ』
『おはよ』
いつもの生存確認。
『コピペすんな』
『してねーよ』
『あ、そ。ならいいよ』
お陰で寝坊する事は減ったので、それだけは感謝に値するな。
今日は天戸は朝飯をたかりに来なかったので、両親はすごく寂しそうにしていた。天戸が来なくても俺のおかずが少し少なくて朝から嫌な気持ちになった。
制服に着替えて家を出ようとしたところで母上が、『あんた日曜に学校行くの?』と訝し気な顔で声を掛けてくれたので助かった。祭りは土曜日、今日は日曜日だった。
今日も祭りはあるが、さすがに二日連続で行く理由もあるまい。
どうりで天戸が朝飯食いに来なかったわけだ、と1人で納得した。
制服を脱いで部屋に戻る。
さて、思いがけず休みになった。中々曜日の感覚が維持出来ないな、実際昨日の世界だって1泊してるから体感的に今日が月曜だったんだな。
ベッドに寝っ転がってスマホをいじって漫画を見る。俺クラスのマンガ読みは紙と電子の二刀流だ。どっちもどっちの良さがある。真っ暗な中で漫画が読めるのも電子書籍のメリットの一つに挙げられるだろう。
冷房の効いた部屋で、日曜の朝に漫画を読みながら寝っ転がる。……正に至福のひと時。
と、思うや否や淡島からメッセージが来る。
『ゆうべはおたのしみでしたね?』
少しイラっと来たのは何故だろう。
『お前絶対嘘だろ、昨日』
弟が熱を出したとか言って自分から誘った祭りをドタキャンした件だ。おかげで天戸と二人で行く羽目になった。結果まぁまぁ楽しかったが、それは結果論だ。
『あはは、まぁね~。でも伊織君が悪いんだよ、あの対応はうずめ可哀そうじゃん』
悪びれず認めやがった。そしてわけも無く俺が悪くなった。
『言ってる意味が分からないが、まぁまぁ楽しかったのは事実だな。それじゃ、俺ゆっくりしてるから』
『あ、暇?じゃあ三人で小学校行こうよ。卒業生としてさ』
誰も暇だなんて一言も言っていない。よってこれ以上の返信は行わない。
◇◇◇
暫くして、インターフォンが鳴る。
そして、母者の嬌声が聞こえる。
嫌な予感がする。
「伊織~!伊織~!」
母上様が大声を上げながら階段を上ってくる。
天戸ほどではないが、俺だって異世界を30回くらい行き来いている周回者だ。足音が1人分でないことはわかる。
そして、平穏な日曜日が終わりを告げたこともわかる。
俺と部屋の扉が開くと、淡島が元気に挨拶をする。
「おっはよ~、伊織君。昨日はごめんね。小学校行こうよ」
その後ろで天戸が俺の母親と話をしている。
「うずめちゃんもうご飯食べたの?」
「あっ、はい。今日はすぐ出かけますから」
お前は飯のことばかりだな。
「何で君たちは人の話聞かないの?それとも聞いても分からないの?」
「それじゃうずめちゃん、そのバカの今月のお小遣い預けるから好きに使って」
「はぁ!?何でそうなるんだよ!たまには1人で閉じこもらせろよ」
天戸は五千円を片手ににっこりと淡島に笑いかける。
「瑞奈、杜居君ひきこもりたいみたいだからカラオケでも行こうか?コレで」
「ふざけんな、お前金持ちだろ!?それは俺の金だぞ!」
「だっておばさんも好きに使えって言ってくれたもん。別に強制はしないけど」
後ろで母親が『どっち?』と2人を交互に指さしていて辛い。
◇◇◇
卒業以来久し振りに来た小学校は、まるでガリバーにでもなった気分だった。
校庭開放とかそんなアレで、校庭では子供達が遊んでいる。俺達は先生の許可を得て校舎を歩く。
「懐かしいね~」
「そうだね。ふふ、机こんなに小さかったんだ」
一年の教室。俺達は一組で、淡島は二組だったらしい。
クラス替えは毎年あって、二年と四年の時はハルとは別のクラスだったな。
俺は天戸とずっと同じクラスだったが、教師間のドラフト会議で何らかのやり取りがあったのだろうか。
二人は楽しそうに色々な物を見てはしゃいでいる。
俺は全く楽しくない。
この空間の全てがハルを思い出すから。
そう思うと、俺はいつからハルが好きだったんだろう?
ロッカーの場所も、机の場所も全部覚えている。……はは、一年の時にはもう好きだったのかよ、マセガキが。
天戸の机はうろ覚えだな。淡島に至っては存在を覚えていなかった。
辛い。
この所希望が……、目標があって少し楽しかった。その分余計に辛い。
六年のクラスまで見る。
このクラスにはハルは存在しない。
「伊織君、六年の時は私も同じクラスだったんだよ、前言ったよね?」
「……みたいだな」
あー、ダメだな。俺は天戸みたいに仮面を被るのは無理だ。
明らかにつまらなそうにしている俺に気を使ってか天戸が声をかけてくる。
「大丈夫……?」
――なわけねーだろ。
「わりぃ、ここにいると辛いから帰るわ」
できるだけ笑顔で言おうとしたが、俺はどんな顔をしていたのだろう?
天戸が心配そうな顔をして俺を見て、淡島は立ち去ろうとする俺の手をガシッと掴む。
「うずめはここにいて!伊織君こっち!」
「……何なんだよ」
「いいから!」
すごい剣幕で廊下を出て階下まで連れられると、唐突に壁ドンを食らった。
「自分だけ辛いと思ってるでしょ?やめなよ、格好悪いよ」
柄にも無く少しむっとしてしまった。
「うるせぇな、関係ないだろ。お前はお前で勝手に悲しんでろよ」
「関係ないって、私も友達だったんですけど、ハルちゃんの。うずめだって、伊織君だって」
「分かったよ。友達ごっこに巻き込むのは止めてくれ」
淡島は左手を高くあげる。
「叩いて良い?」
涙目で俺を睨む淡島を睨み返す。
「いいわけねーだろ。俺は男女平等だから漏れなくやり返すからな」
俺の忠告も虚しく淡島の左手は俺の頬に平手打ちをしたので、宣言通り俺もやり返す。
「……いったぁ」
淡島は涙目で俺を睨み続ける。……何なんだよ。
「気が済んだか?ノスタルジーは2人で浸ってろ」
「……浸ってるのは伊織君でしょ?もうハルはいないんだよ!?」
「そんな事はもうとっくに知ってるんだよ!」
思いの外大きい声を出してしまう。
「……うずめが可哀想だよ」
うつむいて、小さな声で淡島はそう言った。
俺の声を聞いて天戸が駆け下りてくる。
「どうしたの!?」
「……何でもねぇよ。帰る」
外では子供達の元気な声が聞こえていた。




