34話 100年後の君へ③
◇◇◇
期日一杯まで封印術の特訓をする。
強い魔力を込めた魔導障壁を何層にも何層にも織り成した球を術式の基礎とするようだ。
日中は滝つぼで特訓を行い、暗くなると街に戻る。滝つぼは魔力が集まりやすいので修行や修業に使われやすいと巫女は言っていた。
何日も何日も街と滝の往復をするが、天戸も不安な顔一つせずに付き合ってくれた。
『考えるな、感じろ』派の天戸の指導は最初こそわかりづらかったが、元々努力型の人間なので、徐々に指導のコツをつかんできてくれた。
「ん、そう。その調子。別に球じゃなくても好きな形でいいよ。三角形でも17角形でも何でも」
「……せっかく球でうまくいってるのに余計な事言うな」
ようやく15層の球が作れるようになり、巫女さんはパチパチと拍手をしてくれた。
「すごいですね~。いい感じです!さすが勇者様」
「そういうけどさ、これでどのくらい封印できるんだよ」
巫女はニコニコしながら指を三つ立てる。
「三日はいけるんじゃないですか?」
……三日かよ。
でも、逆に考えると今の俺程度で滅竜とやらを三日封印できるのかよ。そう考えると、中々俺も捨てたもんじゃないな。
俺が両手で制御しているバスケットボールくらいの大きさの球で三日間封印が出来ると言う。俺は横で同じ事をしている天戸をチラッと見る。
「……お前それ何層なんだよ」
パチンコ玉くらいの大きさの封印球を手の平に乗せた天戸は得意げな笑みを浮かべて俺を見る。
「53万よ」
余りの桁違いさに感情の発露が抑えられず大きな声を出してしまう。
「絶対だな!?数えろよ、お前!そんなわけねぇだろ、嘘つくんじゃねぇ」
「嘘じゃないわ」
こいつを問い詰めても壊れたラジカセのように『嘘じゃないわ』を繰り返すに違いない。
「巫女さん、あいつのあのチンケな球は何時間くらい封印できるんすかね」
俺は巫女さんを見て公平なジャッジを求めたが、巫女さんは引きつった笑みを浮かべていた。
「えぇーっと、……9000年くらいじゃないですかねぇ」
「……マジ……っすか」
「コツがあるのよ」
「まじか!教えてくれ!いや、教えて下さい、天戸様!」
天戸はポケットに両手を入れたまま俺の顔を覗き込んで微笑む。
「嘘つき呼ばわりされた謝罪が欲しいわね」
「……ごめんなさい」
◇◇◇
「そもそも重ねるのが間違いないなのよ」
正座をして天戸先生のチンケ球講座を受ける俺は口を尖らせて反論する。
「だって巫女さんが重ねろって言ったじゃん。俺は悪くねぇ」
「あれぇ?私のせいですか?勇者様」
「原因を自分に求めない人間は成長しないわよ」
二人から冷たい目で罵られる。自分に求めすぎても辛いと思うから何事も案配なのだろうな。
そういう意味では俺と天戸を足して2で割るとでちょうどいいだろう。
「先生、じゃあ重ねないならどうすればいいんでしょうか?」
天戸は腕を組んでコクリと頷く。
「折ればいいの。折り紙とかパイ生地のイメージね。ミルフィーユとか、千層以上あるけれど一層ずつ重ねてはいないでしょ?」
あぁー……、なるほど?
「折ったら球になんねーじゃん」
「ずっと折っていれば勝手にくっつくわ。文句はやってみてからにして」
改めて計算してみる。
2の19乗が524288だった。
確かに大体53万だ。
すげぇな、19回折るとそんなになるのか……。
つまらんギャグと思って申し訳ない。
「もう暗いから明日にしませーん?」
◇◇◇
巫女さんの泣きが入り今日も終わり。
街を歩いているといろいろな人達に声をかけられる。
『おうっ、勇者様!頼んだぜ、これもっていきな!』
『今日もお疲れ様です、勇者様!』
『勇者様、いい子揃ってますよ~。お安くするんで是非うちで英気を養って下さいよ』
通りを歩くだけで色々貰ってしまう。そして何故かみんな俺を勇者様と勘違いしている。
「どういう気持ち?」
薄笑みを浮かべて天戸が俺に問うが、表情からはいまいち質問の意図が読み取れないな。まぁ、深く考えてもしょうがない。思ったまま言うか。
「そうね、悪くない。お安くってどのくらいなのかなーって」
天戸はプイッとそっぽを向く。
「相変わらず最低ね。お金はあるんだからいかがわしいお店でもどこでも行けばいいじゃない」
「えっ?いいの?」
天戸はわざとらしく大きく肩を落としてため息を吐く。
「あなたには懺悔が必要ね」
そう言いながら教会へと進むので、俺も追って歩く。天戸は歩くのが早い。背が高いし、せっかちだからだろうか。俺はあまり早くは無いので、いつも登校時俺の後ろを歩くのはストレスになったりしないのか?とかそんな事を思った。
ギィっと重く低い音を立てて教会の扉を開く。
天戸は俺の服の裾を軽くつまんでいる。
教会内にはやはり特別に変わった事は無く、祈りを捧げる人々や、俺達のようにただいるだけの人もいる。
壁には恐らく魔法で灯っている明かりがゆらゆらと灯り、ステンドグラスは夜空を透かしている。ゆらめく灯りに照らされた偶像の顔の陰影は、同じようにゆらゆらと動くので、時折生きているかのように錯覚する。
天戸は俺の手を取ると、指でなぞり何かを書くと、得意げに俺を見る。
「わかる?」
「くすぐってぇよ」
「わからないなら素直にそう言いなさいよ」
何がしたいのか全く意図がわからないが、しょうがないので乗ってやるか。
「は・ら・ぺ・こ・よ。合ってる?」
天戸は少し笑うが不正解だったらしい。
「お腹は空いてるけど、そんな事は書いてないわ」
「あ、そう。ならわからん。降参」
しばらくするとパイプオルガンが鳴り、聖歌みたいなものが奏でられる。
俺は神も仏も特に信仰はないが、この雰囲気はまぁ悪くない。




