22話 生贄、はじめました
◇◇◇
海神様に捧げる生贄は16歳までの処女に限るそうだ。神様は処女厨多いよな。
木彫りのお面を被った天戸うずめさんは、何と生贄の少女の代わりに生贄になるそうだ。……と言うことは条件を満たしているというわけか。
俺の質問に天戸は口を尖らせて言った。お面を被っているから見えないが、多分そうだ。
「別に条件を満たしているかどうかなんてわからないじゃない。杜居くん、どうやって私が16歳だって証明するの?」
「あぁ、そうか。別に倒すだけだから非処女でもいいのか」
俺がそう言うと天戸のマフラーが拳のような形で俺のわき腹を殴打してきた。
「うっさい、どっちでもあなたに関係ないでしょ。セクハラよ」
生贄は日の出の少し前、干潮時にのみ現れる洞窟に捧げられるらしい。
天戸は顎に手を当てて考える。お面は顔の横にずらしている。
「うーん、杜居くん何か意見ある?」
お、珍しく脳筋プレイする前に俺に意見を求めてきた。
「まず、陸で致すつもりなのか、海中で致すつもりなのかだよな」
「何よ、致すって」
俺は生贄の少女を見る。
「あれ?伝わらない?」
少女は赤い顔をして、首を横に振る。天戸は首をかしげて少女に問う。
「え?わかるの?教えてくれる?」
生贄の少女は赤い顔で天戸に耳打ちをして、『致す』の意味を教えると今度は天戸の顔が赤くなり、俺を睨みつける。
「……隙あらば歪んだ情欲をぶつけてくるのね、あなたは」
「いやいや、違うだろ。作戦だろ?黙って聞いてくれる?」
天戸は納得できない様子だったが、マフラーを椅子にして腕組みをしてお面を被る。
「いいわ、続けて」
偉そうだな、こいつは。
「まず、海神様自身が来るのかどうか。それから、干潮時に来るのか満潮時に来るのかって事。あっ、もちろん言うまでも無い事だと思うけど、満潮とか干潮って卑猥な言葉じゃないからな?ニュースとかでもいうから」
「……そんなの知ってるわ」
嘘だ、知っていたとしても絶対に余計なツッコミを入れてきたはずだ。この生贄適応者は。
「干潮時に海神が来た場合。これは特に問題ないよな?」
天戸仮面はコクリと頷く。
「えぇ。2秒で魚のエサにしてあげられるわ」
何故わざわざ物騒な例えをする。生贄の子が怯えているぞ。
「で、それ以外のパターンが全部問題なんだけど。①満潮後に海神が来るパターン。②そもそも海神以外が来て、海の底まで連れて行くパターン。海中戦はどうなの?酸素無いと死ぬだろ、さすがに」
「ふふ、あなた少し私を甘く見てるみたいね。服も濡れないわ」
「表情見えないと不気味だからお面取れ」
渋々お面を取った天戸に質問を重ねる。
「服も濡れないって?酸素は流石にダメだろ?」
「あなた私に返り血が付いたの見た事あるの?」
あ、察した。
あのバリアみたいなやつか。障壁とかって言ってたな。あれをもっと範囲を狭めて衣類より下にすれば、怪しまれることもない。
「酸素は?」
「25分までなら」
はい、化け物。なるほどね、身体能力の強化ってそう言うところも強化される訳だ。とは言え25分までしか持たないし、運動下ではもっと短くなるだろう。
「それ以上の場合は?」
「頑張るわ」
俺は呆れて大きくため息を吐いた。何故そこで根性論が出てくるのだろうか?
「却下」
「あっ、あのっ!」
生贄少女が割って入る。さすがの脳筋振りが心配になったのだろうか?
「街の漁師が使っている草があるんです。一嚙み事するごとに息が出来るようになるって言う……」
おっ、いいね。謎植物。噛むと酸素が出るって感じか。
「よし、採用。いくらか貰える?」
「は……はいっ!もちろんです!」
少女は嬉しそうな顔をした。きっと提案が採用された事ではなく、自身が生贄にならずに済む可能性が見えたから。
天戸は生贄の護衛に声を掛ける。
「長を呼んで。異界の勇者として提案があるわ」
異界の勇者の御威光はどの世界でも有効だ。夜分にも関わらず護衛は急いで長を呼びに行った。
心配そうな顔できょろきょろとする生贄少女の頭をポンと叩いて安心させるように笑いかける。
「大丈夫だ。来年からはただの祭りになる、今年の分は来年楽しみな」
「……はい!」
キラキラした瞳で俺に返事をした少女を見て眉を寄せる天戸。
「大丈夫?あまりその人に近づかない方がいいわ」
「えぇっ!?」
◇◇◇
明け方近く、海岸沿いの断崖にある洞窟。干潮時のみ現れる洞窟だ。
この地域の民族衣装に身を包み、薄く化粧をした天戸は輿に乗り洞窟内に置かれる。
海神を倒すことを長は同意した。そもそも、あの少女は長の1人娘らしい。
一応のリスクとして失敗したら海神の逆鱗に触れる事も説明して、そちらも了承した。
「天戸、スマホ貸して」
手を差し出した俺に怪訝な顔をする天戸。薄化粧をして美人度の上がった顔で冷たく俺を見る。
「嫌よ」
「写真撮ってやろうと思ってさ。結構似合ってるぜ」
俺がそう言うと、マフラーで口元を隠すような動きをするが、マフラーが無い事に気が付くと顔をそむける。
「……ありがと」
空間収納から取り出したスマホを渡されたので写真を撮ってやる。
お澄まし顔をして、異民族の衣装に身を包む天戸生贄バージョン。
「オッケー。後で俺にも送ってね」
「……しょうがないわね」
天戸は照れながらも少し嬉しそうだった。女は本質的にはコスプレ好きだと言うのが俺の持論なのだが、それが証明された形となった。
少し潮位が下がり、間もなく干潮だ。
「杜居くん、そろそろ下がって」
そう言うと天戸は収納を開ける。
今回はずっと側にいられるわけではない。天戸に任せるしかない。少しだけ心配だ。
「頼むぞ。ヤバかったらすぐ開けろ」
そう言うと天戸はクスリと笑った。
「あなたが来るとどうなるの?」
俺は少し考えてしまった。
「……確かに。どうなるんだ?囮とかか?」
「ありがと」
俺は収納に入り、ジッパーが閉じる。
シンと静まり返る異空間倉庫。
外では天戸が海神を待つ――。




