14話 合計七文字の生存確認
◇◇◇
「杜居くん!杜居くん……起きて!」
目を開けると天戸が制服で俺を抱き抱えて揺すっていた。
マフラーはしていないし、部屋は俺の部屋だ。異世界ではない。
「あれ?おはよう。どうかしたか?」
天戸はギュッと強く力を入れる。
「……よかったぁ」
よく見ると天戸の後ろで母が照れ臭そうな顔をしてニヤニヤしている。ちょっ……どう言うことだよ。
「えーっと、天戸さん……。親見てるんで止めて貰っていいですか」
「えっ!?あっ!ごめんなさい、おばさん!そう言うのじゃないんです!」
母はまんざらでもない様子で口元を隠してニヤニヤする。
「あらあら、いいのよ?まさかあんたがいつの間にかうずめちゃんとそんな仲にねぇ」
「ちちちが違うんですって!」
「あっ、ごめんね。お邪魔虫は退散退散♪」
そう言いながら母は足早に下の階へと階段を駆け下りた。ノリがキツい。
天戸は赤い顔でキッと俺を睨んだ。
「あなたも否定しなさいよ。あらぬ誤解を招いたでしょ」
「そうだな、悪かった。でも親に対して『俺巨乳派だから貧乳はちょっと』ってなかなか勇気ある発言だぞ」
「……私にそれを言うのも中々勇気ある発言だと思うけどね」
天戸は枕元に置いてある俺のスマホをチラッと見て眉を寄せた。
「死んだかと思った」
視線の先のスマホに気が付いてメッセージを見ると、10件位入っていた。
『おはよ』
『お き ろ』
『平気……?』
『おーい』
など。なるほど、心配してくれたんだな。
「はは、悪い。起きた後で魔法使ったらぶっ倒れた。こっちの世界ではあっちより――」
言い終わる前に枕が俺の顔にぶつかる。
「バカ!どれだけ心配したと思ってんの!?起きたらまず連絡くらいしなさいよ!バカ!バーカ!」
結構な剣幕で俺を責める。
「あ、寝起きにでかい声やめて。響くから」
「うるさい!早く着替えてよ、遅刻するでしょ」
なる程、時計を見ると割と良い時間だ。だがまだ遅刻と言うほどでは無い。
「シャワー浴びてくるわ。寝汗すげーから」
「……のんきね」
◇◇◇
シャワーから出ると天戸も朝飯を食べていた。
「……何で朝飯食べてんですかねぇ」
「だって、おばさんが食べて行けって」
「そうよ。育ち盛りなんだから朝抜いちゃダメよ」
俺の皿を見ると明らかにおかずが少ない。
「あれ?ママン俺の少なくない?」
「あんたはもう育たないからいいのよ。うずめちゃんおかわりは?」
天戸は恥ずかしそうに茶碗を出す。
「……いただきます」
「いただくなよ、俺の無くなるだろ」
「あ~いいわぁ。本当は女の子が欲しかったのよ~」
少ない朝食を終え、学校に向かう。
「……早く行けよ、ずらして出るんだよ」
「一緒に出ればいいじゃない」
アホなのか、こいつは。俺の家から2人で出るところなんて見られたらどんな噂を立てられるかわかんねーぞ。
眉をひそめる俺を見てプッと吹き出し口に手をやる天戸。
「あっ、もしかして気を使ってる?私とあなたが噂になるって。あはは、ないない」
むぐぉぉ、朝からイラつくやつだ。人がせっかく気を使ってやったのに。
「いいから行こ、遅刻するよ」
「……はいはい」
玄関を出てキョロキョロと周囲を見渡し、天戸にゴーサインを出す。俺の迫真のハンドサインを白い目で見る天戸。
「だから気にしすぎだっての。本当自意識過剰ね」
「黙れ、俺の三歩後ろを歩け」
「何その昭和感。うざ」
しばらく歩くとピロンとメッセージが鳴る。
『庇ってくれてありがと』
『何の事やら』
『弱いくせに』
もう返信してやらない。歩きスマホダメ絶対。俺はソッとヘッドホンを付ける。歩きヘッドホンも同じか。
◇◇◇
何事もなく学校を終え、適当にゲームをしていると天戸からのメッセージ。
『おやすみ』
お決まりのやり取り。眠る前の『おやすみ』と、起きた後の『おはよ』。計7文字の生存確認、これだけは欠かさずに返さないとな。
ベッドに寝転がり目を閉じる。
視界の隅に見える自分の下半身。赤く飛び散る何らかの臓腑。あの時は痛くなかったような気がしたが、思い出すだけで身が竦む。――怖い。
暫くしても寝付けず、冷蔵庫を開けて麦茶を飲む。冷たくてうまい。早く眠らなきゃ……、天戸一人で行くことになる。冥王相手に苦戦する天戸が思い出される。早く……。
気が付くと、眠れないまま朝になっていた。今日が日曜で良かった。だが、目を閉じてもまだ眠れない。参った。
朝になったとは言っても日が昇っただけなので、まだ誰も起きていない。……しょうがない、マンガでも読むか。
本棚に行き、どれを読もうかと考えてハルと昔から読んでいたファンタジーものを手に取る。久し振りに一巻から読み返すか。時間はいっぱいあるしな。
読み返すと、別の意味で眠れなくなった。時を経ても変わらぬ面白さ。天国のハルにもまた読ませてやりたい。思えばハルとは趣味が合ったな。マンガ、ゲーム、小説。俺が勧めたやつは大体面白いって言ってた。
12巻まで読み進めたところでスマホが鳴る。天戸だ。また冥王との戦いがフラッシュバックして、後ろめたさを感じながらメッセージを見る。
『おはよ』
良かった。俺がいても何も変わらないがそう思った。間が空くと怪しまれるので『おはよう』とだけ返す。だが、間を置かず返信が来る。
『何かあった?』
ドキリとした。何なんだ、こいつ。勘良すぎだろ。これが300回以上世界を救った勇者の洞察力か。
『いや、何も。深読みキモイです』
『今から行くね』
何かを送ろうとしたが止めた。俺は呆れて溜め息を吐いた。いや、……多分安堵の息って言うんだろうな。取りあえず、部屋を片付けよう。




