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エンドレス・ニューゲーム~俺の幼馴染が『つよくてニューゲーム』を343回繰り返しているようだ~  作者: 竜山三郎丸


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99話 夏と言えば

◇◇◇


 日が落ちる頃、大猿はキッキィ!と叫びをあげて森の奥へと消えて行くのがお決まりとなっていた。


 天戸とお猿のダンスは6日目を終えて、明日は千秋楽だ。


「お疲れさん」


 汗だくの天戸にタオルを渡す。


 いつもの制服姿だが、スカートの下にはジャージを履いている。


「ありがと。最終日には花束くらいはくれるの?」


 軽口を叩いてはいるが、肩で息をして汗びっしょりだ。天戸らしくないと言えばらしくない。真夏の直射日光下でも汗一つ垂らさない天戸が。


 だが、それもそのはず。猿とのダンスと称した修業は夜明けと共に始まるのだ。


 そして天戸は①自身の能力を最大限に押さえつけた状態で、②最大限の力を発揮したまま、③夜明けから日没まで大猿と本気の殴り合いをしている。


 さすがの天戸も汗位流すだろう。


 例えるなら風船が膨らまないように内側から引っ張りつつ、膨らまそうとする感じか?例えがヘタで申し訳ない。杜居流(もりいりゅう)神気道(しんきどう)時雨(しぐれ)』と名付けよう。うん、かっこいい。



「もしかしたら、ただ遊び相手が欲しかっただけなのかもね」



 汗を拭き、水を飲みながら天戸は寂しそうに言った。


 単純な天戸うずめ様は一週間でお猿に情が移ってしまった様子だ。



「……一応言わなくてもわかるかも知れないけど、あいつ街一つ二つ滅ぼしてるからな?」


 感傷的な気持ちを台無しにされた天戸さんは口を尖らせて文句を垂れる。


「わかってるわ。ほんの少し思っただけ」


「天戸、俺にも炭酸か何か無い?」


「無いわ」


 異次元ポケットを開けもしないで天戸は言う。


「いや、見ろよ」


「だから無いわ。私が入れてるんだからわかってるってば」


「俺も喉渇いたんすけど」


「あ、そう。残念だったね」


 話の通じなさにため息しか出ない。


 ふと白き闇の青年、アグリを思い出した。獣や魔物の言葉を操っていた。双方の話を聞いて平和的な解決、と言う意味では必須技能な気さえする。


 術か技能かわからないが、俺も習っておけばよかったな。……習うと言えばジラークに念話も習っていないよなぁ。その辺の戦闘技能以外なら役に立てそうだな、と今更思う。


「何ぼーっとしてるの?置いていくよ」


 魔法の絨毯……名前何つけたっけ?まぁいいか。天戸は魔法の絨毯を広げて既に乗っている。ジャージを履いているせいもあって、座り方はいつもより少しラフだ。


「はいはい、お待ちくださいね。お嬢さん」


 特に何の意味も含みも込めていなかったのだが、天戸は座り直すと俺を睨む。


「思ってもいないくせに。嫌味」


「何を言っているのかわからんが自戒するのはいい事だと思うぞ。猿との違いだな、ははは」


「うっさい」


 

◇◇◇


 絨毯で2時間、馬車だと何日かかるかと言う距離。日が暮れると、街に帰る。転移した街とは違う森に現状一番近い街。


「ただいま」


 城壁に付いた物見台の更に上空からヒラリと天戸が舞い降りる。


 六日連続の光景なので、見張りの衛兵も特段驚かず敬礼をする。


「ハッ!勇者様、お疲れ様です」


 マフラーに連れられて俺も降り立つ。


「今日も異状なしっす。一週間様子見たんで明日やっちゃいますね」


 俺の報告に物見の青年は一瞬明るい顔を見せる。


「……本当ですか!タルゴラ村の仇……お願いします」


「任せて」


 無表情ながらもわずかに口元に笑みを浮かべてそう言う天戸は、俺でさえ頼もしく見えた。


 天戸は物見台からヒラリと飛び降りて、俺はハシゴを使って降りる。


「あなたも飛び降りたらいいじゃない。平気よ、このくらいの高さ」


「あのな、俺は人なの」


 せっかちな異界の勇者、天戸うずめさんはハシゴの下で腕を組みながら俺を待つ。


「私も人よ」


「へぇ」


 俺の相槌がお気に召さなかった様子で少しムッとする。


「へぇって何よ」


「それより飯何食おうか」


「誤魔化さないで。今日はお肉の番よ」


「あー、肉いいね。肉はどの世界でも外れは無い」


 俺の相槌がお気に召した様子で、天戸さんは得意げに一度頷く。


「ふふ、最終日は冒険しないで確実性を取るべきよね」


「そーな」


 見事に誤魔化せた。


 飯にしよう。



◇◇◇


「人間って勝手よね」


 恐らくこの街で一番高そうな料理店の個室で、ステーキを切り分けながら天戸は呟いた。


「まぁ勝手だろ。つーか、猿も犬も雉も勝手だろ」


 天戸はクスリと笑った。


「何で桃太郎?」


 特に意味は無いが。


「くだらないセンチメンタルだろうが一応聞いてやるよ。何で?」


 最終日だから出来るだけしこり無くこの世界を離れたい。


「人を喰らう生き物とは仲良く出来ないんでしょ?……私達は豚も牛も食べるのに」


 何かと思ったら頭のいい小学生みたいな事を言い出した。


 高級なお店なので、他の客に声が聞こえる様な感じではないが、食事中にする話ではないよなぁ。



「んー、勝手って言うかそういうもんって言うか。じゃあさ、お前は俺が人食ってても仲良く出来る?」


 天戸は少し考えた後で無言で首を横に振る。


「だろ?理由は?」


「……わからないわ」


 そんな話をしながらもお肉は口へと運ばれていく。


「何となく嫌、でいいんじゃね?って思うけどね。理屈で線を引くと、その線のギリギリの所でおかしくなるだろ。どこまでが人か、とかもっとエグい線引きもあるけど食事中だから止めておく」


「私は豚も牛も好きよ」


「どっちの意味でもな。かわいいし、うまい」


 天戸は少し申し訳なさそうに笑う。


「ふふ、そうね」


「あ、一応忠告しとくけどさ。この手の話は食事中にしない方がいいぞ」


「ん、わかった」


 意外と素直に頷いてくれた。


「もうすぐ夏休み終わっちまうなぁ……」


 残り少なくなったステーキの欠片を見て不意にそう思った。


「花火をして、お祭りに行って、海に行ったわ」


「あと虫捕りな」


 そう思うとなんだか色々あった夏だ。



 去年の夏は何をしていたのだろう?と、ふと思うが、全く思い出せない。



 きっと、何かゲームをしたり、漫画を読んだり、ゲーセンに行ったりしていたんだと思う。全く記憶は無い。


 勿論その前も、その前も。


 俺の夏の記憶はやはり小学五年の夏で止まっていた。


 天戸はどうだったのだろうか?


 聞いたら答えてくれるだろう。


 でも、聞かない。


 楽しい事なんてきっと無かった事はわかる。


 そして、きっと今楽しい事もわかる。


 なら、それでいいじゃないか。


「そう言えば」


 食事を終えて天戸は呟く。


「こないだ海に行った駅に水族館があったわ」


 こういうのを言葉のキャッチボールが出来ない人って言うんだな、うん。


「うん、あったな」


 しばしの沈黙が流れる。


「な……夏と言えば水族館ね」


「まぁ、そうだな。でも結構高いんだよな~、2000円位するだろ?交通費と飯食ったら一月の小遣い無くなっちまうよな、はは」


「ふーん、じゃあさ。もし、無料券があったら?」


「いや、あっても一人じゃ行かねーよ。どうせカップルばっかだろ」


 天戸はなんだか少しイライラしているように見える。



 ――あ、わかった。



 今の俺の言葉が答えだ。


『天戸は水族館に行きたいが、周りがカップルばかりだから行き辛い』んだ。


 しょうがない、ここは俺が空気を読んでやるとするか。


「よし、じゃあお猿倒して戻ったら夏の終わりに水族館にでも行こうぜ」


 天戸はグラスを口に付けたまま目を丸くする。


「本当?」


「あぁ、そんじゃ杜居流神気道の修業の打ち上げって事で」


 やはり俺の想像通りだったようで、天戸は急に上機嫌にほほ笑む。


「約束よ?」


「おう」



◇◇◇


 ――最終日。


「あなたに言葉がわかるかわからないけれど、今日私はあなたを殺すわ。人を襲い、街を襲ったのなら人に殺される十分な理由になるの」


 天戸が殺気を込めて睨むと、言葉は通じなくとも邪猿には伝わったようで初日を超える明確な敵意と殺意が向けられる。

 

 そして、今までと違い戦乙女の襟巻き(ヴァルキリーマフラー)の一凪ぎで猿の首を落とす。


「ありがとう。ごめんね。……さよなら」


 少し悲しそうにそう呟く天戸を帰還の光が包む。


「お疲れ」


「ありがと。約束、守ってね。先生」


「先生はやめろ」


「ふふ、あなた好きそうだけど、そういうの」


「どういうのだよ」



 ――そして、目が覚める。

 




 

 

 


 

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