9話 魔法との出会い
◇◇◇
「おはよ」
目が覚めると天戸がいた。もはやお馴染みだ。
「おはよ。いつも俺の方が起きるの遅いけど何で?」
「さぁ?意志が弱いからじゃない?」
何の考察も無し何故俺を無駄に貶めてくるのだ、こいつは。
「俺はいつもどうなってるの?寝てるの?現れるの?構築されるの?」
心底面倒くさそうに眉を寄せて俺から距離を取る。
「眠った状態で現れるの。いちいち細かいなぁ」
何故天戸はそんなに大雑把なのだろう?性格の違いなのか、性別の違いなのか。
視線を感じて起き上がると眩い灯りに照らされた王宮内だった。強面の兵士やおっさん達がずらりと並んで俺達を見ている。
豪華なシャンデリアや、壁に揺れる灯り、明らかに人の手では開かなそうな巨大な扉。おっ、これいい世界引いたんじゃないのか?
「私を喚んだのは誰?」
天戸は表情を変えずに機械的に言い放つが、最上段に鎮座する大男……恐らく王?は残念そうに溜め息を吐いたので、俺と天戸は少しかちんと来た。
「ふむ……、そなたらが異界の勇者か。俄には信じがたいな。騎士団長!」
「ハッ!」
騎士団長と呼ばれた鎧にマントの屈強な大男は一歩前に出る。
「勇者殿、疑うわけでは有りませんが実力の程……、見せていただきましょうか」
そう言いながら騎士団長は剣を抜いた。
「ことわーる」
俺の声に天戸を含むみんなが『えっ?』てなった。
「あれか?文化の違いか?何呼びつけといて試そうとしてんの?しらねーよ、天戸帰ろうぜ」
「えっ?あっ……でも」
「ほっとけよ、勝手に滅べ!」
俺の言葉に団長以下全員怒っているように見える。ゆっくりと団長が俺に近づいてくる。
「なる程、勇猛ではあるようだな……っ!」
刹那、神速の抜刀。だが、俺の目にはスローモーションに映った。
――あっ、違う。これ死んじゃうやつだ。コマ送りのように剣は真っ直ぐ横凪ぎに俺の目の高さを近付いてくる。見えるが当然身体は動くはず無い。そもそも本来見えるはず無い。
剣が近付きすぎて焦点がぼやけたその瞬間、ガキンと金属音を立ててマフラーパンチが剣を弾く。
時が動き出した俺の足はガクガクと文字通り音を立てて震えだした。ぷはーっと大きく息を吐き、天戸を一喝する。
「おっせぇよ!」
何っ!?と騎士団長が反応するが違うあんたじゃない。天戸は俺を見ずポケットに手を入れたまま悪態を吐く。
「感謝の言葉が先じゃないの?」
「あざっす!命拾いしました!」
素直に頭を下げると得意気に笑い頷く。
「素直でよろしい」
震える足をごまかしながら、両手を広げて王に大見得を切る。
「選べ、王よ!非礼を詫びて我らに頭を垂れるか、それとも悪の王に平伏し頭を垂れ滅びの道を歩むのか!」
よく考えたら敵が何だか分かんないからぼやっとした感じで言うと、王はぐぬっとした顔をした後で膝をつき頭を下げた。
「異界の勇者よ。仰るとおり、数々の非礼……お詫び申し上げる」
俺はにっこりと微笑む。
「賢明っすね。話聞かせてもらいましょうか」
『何であなたが偉そうなの?』ってぼそりと聞こえた。今言わなくてもいいだろ、脳筋。
◇◇◇
今回の脅威は地の底から甦りし冥王だそうだ。なぜ地の底で満足できなかったのか話を聞く機会があれば聞いてみたいところだ。
無礼のお詫びにと宝物庫から幾つか貰えることになり、使用人の女の子が案内してくれた。
「はーい♪では、ここが宝物庫ですっ。なーんでも好きなの持って行って下さいねっ」
妙に元気な若い女の子だ。何より……胸がでかい。
「えっと、何でもの中にあなたは含まれますか?」
俺がそういうとガバッと俺の腕に抱きついてきた。
「やだもー、勇者様ったら♪」
うおおお、胸!腕!ヤバい!
「あー、良かったわね勇者様。それじゃお一人で冥王退治頑張って下さいねぇ」
冷たく他人行儀に天戸は言ったが、使用人は俺の腕に胸を押し付けたまま声を上げる。
「えーっ!一人で勝てちゃうんですかぁ?さすが勇者様ぁ!」
初めて体験する巨乳の魔力に抗えない。だが、これ以上調子に乗りすぎるのはまずい予感がしたので、唇を強く噛み意志を強く持ち、意図的に解かなかった誤解を解く。
「いやー、はは。勇者はね、俺じゃなくてそっちなんだよ」
「えっ?」
「そっちの女が勇者なんよ」
チッと言う舌打ちと共に少女は俺から離れていき、プッと言う笑い声が天戸の方から聞こえた。
「もぉー、勇者様ぁ!騙すなんてずるいですよぉ!いつイヤらしいことされるかと怖かったんですからぁ」
「大丈夫。彼にそんな度胸はないから」
「やかましい!」
天戸は腕に抱き付く少女をそのままに、表情を変えずに宝物の説明を求める。やっぱりこれも仮面なんだなと思った。
学校でのみんなに優しいニコニコした天戸も仮面。異世界での無表情で機械的な天戸も仮面。かといって、俺に見せている顔が素顔かと言うほど単純な訳でもないだろうな。そこまで思い上がるつもりもない。
「杜居君、どう言うのが欲しいの?」
説明を聞くことを放棄して天戸は俺に話を振ってきた。
「あぁ、魔法関係のもの。出来れば俺でもそのまま使えるような道具系。それから万病薬とか薬の類。あと魔導書とかそういうの。んで、勿論換金性の高いもの」
「うっわぁ、強欲ですね~」
使用人はニコニコしながらも辛らつな言葉を投げ掛けてくる。天戸からのフォローは当然無い。
「世界を救うんだ、このくらいの前払いは寧ろ当然だろ。滅ぼされたら全部無くなるんだからさ。全部貰ったって罰は当たらないと思うけど」
女使用人は腕を組み、うんうんと納得した様子だった。
「なるほどぉ、それは一理ありますね~。魔導書はありますよ?何系がいいんです?」
おっ、来た。遂に魔法だ。
「初級から達人級まで一通り欲しい」
「アバウト!じゃあこれですね、『魔導大全』全二十一巻」
一冊一冊が百科事典のような厚さだ。それが21冊。
「これ全部究めるとどのくらいすごいの?」
「ん~またまたアバウトな質問ですねぇ。歴史上に100人いないくらいにはすごいですよ」
「はは、そりゃすごい。取りあえず貰う。あとは?お勧めは?」
「取りあえずで宝物持って行かないで下さいよぉ。これどうです?千切り包丁」
「却下、武力は間に合ってる」
「えー?すごいんですよ?一切りするだけで千の欠片に切り刻む呪いの包丁です。お料理にどうぞ」
「へぇ、うっかり指切ったらどうなるんだよ。自分で使ってよ」
天戸はもう宝物庫を見るのに飽きたのかいつも通りマフラーに座って欠伸をしている。
「封印系のは無い?例えば冥王の力を封印する首飾りとか」
「うーん、ありません!そんな都合のいいもの。自分で作って下さいっ」
「だよなぁ」
結局あんまり良い道具はなかったから、包丁も一応貰ってきた。殺すしかできないけど、殺すには使えそうだから。厳重にケースに入れて、これは俺自身が持つ。
宝物庫の中には衣類もたくさんあった。お姫様が着るようなドレスとか。
「天戸はああ言うの着ないの?」
「私お姫様じゃないし」
あ、そうですか。会話を膨らませる気がないんだな、このコミュ障が。
お決まりの地図と歴史書も貰う。冥王の居城は中央大陸から南の海上からせり上がった島らしい。
「だいぶ距離があるけど絨毯で行けるわ」
そうか、飛行アイテム持ってると移動制限ねーんだな。ロープレだったら、船の次だもんな。取りあえず、行ける。
「この世界はちょっといさせてくれよ。せっかく魔法が有るんだからせめて少し使えるようになりたい」
天戸は腕を組んでため息をつく。
「じゃあ一週間。テスト勉強の期間って思うことにするわ」
お心の広い脳筋様によって、一週間の猶予を貰った。さて、どこまで使えるようになるだろうか。




