『思い立ったが吉日』
人生とは、うまくいかないものだ。
だからこそ、じっくり進めていくものだ。
突拍子もなく、思い立った時にそのまま行動なんてやってはならない。
でも時には、それを分かっていてもやらなきゃいけない時がある。
きっと今がそういう時だ。
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100:名前:1
一応県内にシークレットブーツ専門店があった
今向かってます
101:名前:恋する名無しさん
おう
今服見てるけど、やっぱ実際に着てみないと分かんねー……
102:名前:恋する名無しさん
あったあったあった! これ大人っぽい香りの香水!
オラついてるやつ大体つけてそう(ド偏見)
↓↓↓
URL
103:名前:恋する名無しさん
ああコレならどこでも置いてそうだな 良いんじゃない?
ド〇キになら100%あるね(ドドド偏見)
104:名前:恋する名無しさん
うーん 人を怖がらせるのって難しいなぁ……
105:名前:1
着いた とりあえずシークレットブーツ買ってきます
106:名前:恋する名無しさん
いてら
107:名前:恋する名無しさん
うーんうーん マジで服どうしよう……
□
今、ようやく電車を降りたところ。
初めての場所。マップを開いてその場所へ。
「……遠い!」
シークレットブーツは、普通の靴屋さんでは売っていない。
普通なら通販で買うものらしく、ココから7駅行かないと無かった。
そこ以外じゃもう県外。むしろ運が良かった方。
「……はっ、はっ――」
既に時間は16時越え。
カラオケまでは少なくとも二時間掛かる。
……なんて、迷ってるなら足を動かせ!
「『Magic Shoes』。ここか」
辿り着いたは、こじんまりしたその靴屋。
きっと合ってる。合ってるはずだ。
「すいません――身長伸ばせる靴って、ここで売ってますか?」
「えっ」
思わず、近くに居た店員さんっぽい人に声を掛ける。
焦っているのは自分でも分かっているけれど、止められなかった。
「……す、すいませ――」
「――15センチまで行けますよ。貴方も夢の180台……試着しますか?」
「えっ」
どうやら合っていたらしい。
なんかこの店員さんの雰囲気、どこぞの美容師さんに似てるぞ!
☆
「ご購入ありがとうございます、このまま履いていかれるんですか?」
「あ、はい」
「承知しました、元のお靴はこの袋にお入れください」
時間に追われている感が伝わったのか、店員さんはせかせかと動いてくれた。
お客さんが俺だけってのもあっただろうけど。
「大丈夫ですか? 最初は慣れるまで大変なので、これぐらいが限界ですねぇ」
「……は、はい。なんとか」
「じゃ、お気を付けて!」
「ありがとうございました……っとと――」
久しぶりに靴を買ったが、まさかこんな形になるとは思わなかった。
靴本体で8㎝、中敷きで4㎝。
驚異の12㎝アップ。
「――す、凄……」
店から出た瞬間――世界が変わっていた。
ほとんどの通行人よりも、背が高い。
当然か。
今の俺は、身長180越えなんだから。
「行こう」
鞄の中に元の靴を入れて、進むべき道を確認。
余韻に浸っている場合じゃない。
次は服――
「――痛っ!」
と思って、踏み出したらこけた。
うん。まずは歩くことに慣れよう。
例のOGに対面した時――シークレットブーツだとバレないぐらいには慣れておかないと。
……バレたら地獄!
□
東町一『……もう帰った?』
□
とりあえず、そのLIMEだけ入れて。
俺は――何度も転がりそうになりながら、駅に向かっていった。
☆
「……嘘だろ、おい……」
そして。
駅前、改札機――案内表示。
□
車両トラブルにより運転見合わせを行っております――
運転再開は17:00頃を予定しております――
振替輸送は――
□
「……流石に、それは無いだろ――」
項垂れる。
現在時刻は16時半。30分の遅延……そして、当然だが再開直後は混む。
もっと遅れることになるだろう――到着は19時を超える。
まだ、服もアクセサリーも揃えていないのに。
「――っ」
どうする? 振替で別の路線で行くか?
でもここからじゃ大分遠い。
いっそのことココ当たりで服を買うか?
……ああ、くそ。
「走るか」
こんなとこで、立ち止まっていても駄目だ。
このまま待っていても時間が過ぎるだけ。
なら走って、振替輸送に対応した電車に乗るしかない。
携帯、マップを開く――ここからなら、大体30分ぐらい歩けば着くらしい。
多分走れば10分。
周囲を見ても、タクシーなんて居なかった。
「……」
行くしかない。
駅前、端によってシークレットブーツを脱ぎ――普通の靴に履き替える。
目線なんて気にしていられない。
☆
「はぁっ、はぁっ……」
マップアプリ、道程を確認しながら走る。
走って10分といっても、それは全く迷わなかった時の場合だ。
こんな時に限ってGPSは狂って、気付いた時には真逆の道を行っていたり。
何とか軌道を修正できたと思ったら――もう40分なんて簡単に過ぎていた。
このままだと、振替輸送の駅に着くのは17時過ぎ。もっと遅いかもしれない。
「……くそっ、何なんだよ――」
嘆きながら走る。
上手くいかない事ばっかりだ。
……もしかしたら、このまま中途半端なまま。
あれだけの啖呵を切って、彼女を助けられないまま。
今日が、何事もなく終わってしまうかもしれない。
「――っ」
裏路地を抜けて、また大通りを通って――過る最悪を振りほどきながら走っていく。
立ち止まって、マップを眺めて。
ようやく半分を超えたところ。
「急がないと――っ!!」
出来る限り近道で。
焦りで。時間に追われて。
また狭い路地に入って――いつしか、足元の注意が疎かになっていた。
「ぐっ――!!」
それは、盛大に。
ほんの小さな段差で――みっともなく転ぶ。
……ああ、もう。
本当に、うまくいかない事だらけ。
「痛った……!」
人生とは、うまくいかないものだ。
だからこそ、じっくり進めていくものだ。
突拍子もなく、思い立った時にそのまま行動なんてやってはならない。
でも時には、それを分かっていてもやらなきゃいけない時がある。
今が、きっとそういう時だと思っていた。
「くそ……ああ、もう――っ!」
けれど。
汚れた俺のズボン。
血が滲んで痛い。それだけじゃなく、今になって疲れすら出てきた。
呪いのように、うまく行かない未来が頭に過る。
振り返ってももう遅い。
後悔しても戻れない。
「……」
でも、だからこそ。
ココで――終わるわけにはいかないんだ。
「待ってろよ……クソOG共――」
ゆっくりと立ち上がる。
むしろ、心は逆に燃え上がっている。
いくら時間が掛かろうとも、俺は必ず辿り着く。
「――ん? この香り……」
そんな時。
俺の横に小さな店があった。
『立花古着屋店』――服が並ぶその場所。
立ち止まった理由は、何かを思い出す香水の匂いがあったから。
ふわり、と。
これは。
あの時の――
「――えッ!?」
その声。
驚いた表情と、口調で分かる。
店の中。現れる彼女。
その、出てきた人物は――
「え。『思い立ったが吉日』さん……ッスよね?」
趣味、グラウマガの。
合コンで出会った彼女だった。




