月曜15時、タイムリープ。
☆
☆
「桃先輩が……」
「だ、大丈夫なんでしょうか」
「……後で連絡してみる。桃だから大丈夫だと思うけど――」
ハンバーガーショップ。
彼女が居なくなったその場所。
初音さんのチームメイトが、焦った様子で話し合っている。
「っていうか、あの人は?」
「誰なんでしょうか」
「……もしかして、桃の……」
そんな声。
逃げるように机のゴミを捨て――店内から飛び出す。
「…………」
項垂れる。
ハンバーガーショップ。
14時、何も出来なかった。
無力感が俺を襲う。
彼女の声が降りかかる。
《――「ち、違います!」――》
あの言葉の意味は、嫌でも分かるよ。
巻き込みたくないんだ。俺の事を。
そして――その目から、どうにかするという熱意を感じた。
……だから。
信じても、良いんじゃないんだろうか。
弱気な自分がそう叫ぶ。
「……」
ま、それでも。
尾行するぐらいは許されるだろう。
趣味は隠密だ、遠く向こうに目をやって。
歩く三人の行方を追いながら辿り着く。
『カラオケ』だった。
「……入ったか」
入口。
彼女達が入っていったそこで、俺はまた立ち尽くす。
……何も出来やしない。
これ以上追えば、流石にバレる。
尾行したところでどうしようもない。
「待とう……」
分かっている。
無駄に今、初音さんに接触したら被害を受けるのは彼女だ。
分かっている――分かっているけれど。
☆
14:58、14:59。
手元の携帯を覗いて、やがてそれは訪れる。
――15:00。
「……居ないよな」
駅、周囲を見渡す。
言っちゃあれだが、俺が初音さんを見逃すわけはない――
――プルルルル!
「!?」
思わず手に取る。
その着信。
「……もしもし」
「あ。いっち?」
「どうも、東町ですけど」
「あの……本当にごめんね。ちょっとOGの人達と遊ぶことになっちゃって」
「うん」
「今日は、ごめん。いつ終わるか分からなくて……だからその、来週。来週遊びに行こう?」
「初音さんが、それで良いのなら」
「わたしは良いよ。来週も休みがあるんだし……また話そう、ね」
「分かった」
「じゃ、ごめんね! せっかく誘ってくれたのに」
「良いよ」
――プツン、と。
そのスマホには、通話終了のメッセージ。
《――「初音さんが、それでいいのなら」――》
そんな言葉。
どこまでも弱気な自分の声。
「はは、雨まで……帰るか」
そして頬に水滴が当たる。
上を向けば曇天。そこからポツポツと降ってきていた。
……ああ。
約束相手からも、そう言われた訳だし。
その泣きそうな震えた声も。
通話口。彼女がきっと曇った表情をしていたとしても。
……だとしても。
今日は――これで終わり。そうだろ?
「…………」
雨が降る中、折り畳み傘を指して歩く。
《――「染めた髪は普通の髪よりも大切に扱ってくださいね!」――》
金曜日。
そう美容師さんから言われたから、いつ外出中に降っても良い様にソレは持っていた。
周りがアタフタする中、俺だけ余裕でその雨風に向かっていく。
しかしながら、頭の中はぐるぐると彼女の声が反響している。
「初音さんは、傘持ってるのかな」
「……まあ、通り雨か」
「きっと夜になるだろうし――」
雨中、誰にも聞こえない小さい声で呟く。
気付けば駅前で立ち止まっていた。
俺は何をやっているんだろう。
そのまま、電車に乗って家に帰るだけなのに。
「……」
過ぎ去っていく時間を駅前の時計が教えてくれる。
現実は、愚かなものだ。
何もしなければ何も起こらない。
都合良く、誰かが手を指し伸ばしてくれる事なんてない。
俺が帰れば、きっとそのまま世界は進む。
何も変わらない。
火曜がやって来て、水木金土日……。
繰り返し。
繰り返し。
繰り返し。
今までずっとそうだった。
そして。
《――「もうちょっと頑張ってればよかったな」――》
非情にも時間は戻らない。
この三連休を、やり直そうったって戻らない。
当然のこと。
……その後悔を。
……この心残りを。
俺はきっと、ずっと覚えている事だろう。
――『記憶は無いが、今貴方は人生をやり直す為に未来からやってきた。さあどうする?』――
「――っ、くそっ……」
ああ、分かってるよそんなの。
この思いをずっと引き摺っていくのなら。
高校二年。五月下旬の月曜日、駅前15時。
その時を、永遠と悔いに残すなら。
もし、そんな“今”をやり直す為に自分が戻って来たならば。
そんなの――
「決まってるだろ……!」
脳裏に浮かぶその問いに、俺はきっちり答えを出す。
たった一日の休日でも。
俺が、初めて友達を誘ったこの日を。
その後悔で――染めたくはない。
強く思って。
もう一度、ポケットから携帯を手に取った。
「俺が、彼女を奪い返す」




