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安価で俺は変わろうと思う  作者: aaa168(スリーエー)
控えめのピースサイン
163/166

写真


19時45分。

曇った空からは、ほんの少しだけ光が漏れている程度。


いよいよだ。

足取りは軽く感じる。

なんというか、ここまでくるとね。



「ここも最後かな」



髪のケアが必要なくなれば、中学と一緒でお手軽セルフカット(ゴミ)で良いだろうか。

元々身の丈に合ってない感が強かったし。


懐かしいな。散髪屋さんとのコミュニケーションが苦手で、自分で切り始めたんだっけ。



「……」



慣れというのは恐ろしい。

あんな恐怖の対象だった美容院に、今では月一のペースで通っている。


そして――その店の扉を開けようとして固まっているんだけど。



「……行くか」



でも、ずっとそうはしていられない。

覚悟を決めてドアを開ける。


おしゃれなBGM。暖かいオレンジの光。



「あ。東町一様、お待ちしてましたよ」

「どうもどうも」



いつも通り。

いつも通りだ。



「今日は、“黒”に戻すということでうけたまわっております。よろしいでしょうか」

「はい」


「かしこまりました」



《――「東町様の髪染めは、我が生涯で最高傑作です!!!」――》



ちょっと引くぐらいの熱量で言う彼女の面影は、今は無かった。

気を使ってくれているのだろうか。

そんなに、今の自分は分かりやすいだろうか。



「髪のお手入れはしっかりしてるみたいですね。流石です」

「あー、ありがとうございます」

「注意点として、黒染めは次回以降のカラーが染まりにくくなります」

「そうなんですね」

「はい。なので一時的に染めたいというのであれば、ヘアマニキュアといった方法がおすすめです。色落ちしやすいので、次回以降の髪染めに影響しません。長期間黒が良いという場合はヘアカラーを用いります。この場合は、先程の通り……“影響”が出ることになります」



髪染めもたくさんの種類がある。

それも、この髪色にしてから知った事。



「じゃあ、ヘアカラーでお願いします。もう染める予定も無いですから」

「……かしこまりました」



ほんの少し間があったけれど、美容師さんは何でもないように対応してくれる。


助かる。

この美容師さんは、俺が話苦手ってのを知って基本は静かだし。

本当に良い人だ。


……でも。

黒にしたら、俺はこの店にはきっと来ないんだろうな。



「はい。あ……あの」

「どうしました?」

「あっ、いや何でもないです」



『今までありがとうございました』、なんて口にしようとして止める。


それはお会計の時で良い。一刻も早く、俺の髪色を戻してもらうべきだ。




「? それでは黒染めの準備をして――」



――プルルルル!



しかし。

こんな時に限って、店の電話が鳴ってしまった。



「申し訳ありません、ちょっと出てきて大丈夫でしょうか?」

「あー……どうぞ」



去っていく美容師さん。

手持ち無沙汰だ。


何してようか。



「……」



迷った結果、スマホを手に取る。

写真アプリを立ち上げる。


思い出は、ここにしっかり保存したんだ。


悔いはない。

そのために撮ったんだ。

視界、輝く写真の数々を眺める。



《――「こ、こうですか?」――》



撮り慣れていない二人だったせいだろう。

詩織さんと俺……両方、ぎこちない笑顔。



《――「ほら、かのん」――》

《――「ぴーす!」――》



意外というかなんというか、如月さんは取り慣れていた。

かのんちゃんも。なんなら如月さんより慣れてるよ。


整いすぎている二人の横に、どうして俺なんかが居れるのかが今でも不安になる写真。


だからこそ、大事にしたい。

もう、こんな事ないかもしれないから。



《――「とーまちは真ん中!」――》

《――「こうしたら小顔になるぜ」――》



それを言えば、こっちもそうだ。

柊さんと夢咲さんに挟まれる俺。

ピースした指を顔の下に添えたプリクラ。


スタイル、容姿も抜群。

そんな彼女達にサンドされる状況など、この先一生ないかもしれない。


だからこそ、ずっと大事にしよう。



《――「いっち!」――》



心残りがあるとしたら、初音さんとの写真がないことか。



「……」



画面をスワイプしながら、その思い出を蘇らせる。

そして、目の前の鏡を見た。



「本当に。何も変わってない」



髪だけ。

それだけ。顔のパーツが変わるわけもない。


彼女達の様に、整った外見になるわけではない。

大人になったわけでもない。


だからこそ……もういい。

元に戻るだけだ。

そう思っていたのに。




「……なんで」




どうして、鏡の自分は泣いているんだ?



何が悲しいんだよ。

元々いつか戻すはずだっただろ?



「なんのための写真だ……“決心”するために撮ったんだろ……!」



力ない声が口から出る。

ココまで来て、何を迷う?


それがあれば、それは思い出として残るから。

それがあれば、きっと――


そう思っていたのに逆効果だ。



「……ああ、くそ……なんでなんだよ!」



このまま、座っていれば全て終わる。

黒色に戻して、家族には元通り真面目になるっていえば。



《――「一兄」――》



過去の声。

妹とも、家族とも元通りになるはずなのに。




《――「は?」「えっウソでしょ? マジでとーまち?」――》


《――「『東町君って面白い人なのね』、だって」――》


《――『僕は綺麗だと思います』――》




それを、“今”で塗替えられる。

ぐちゃぐちゃだ。


写真なんて、撮らなきゃよかった――



「と……東町様、お待たせしました……」



気付けば、困惑した美容師さんが帰ってきている。


みっともない。

店の中で、子供みたいに泣いて。



「えー。あー……どうされます……?」



掛かる声。

美容師さんが、困っている。


言えよ俺。

『お願いします』って。

それだけ言えば、全部終わるだろ!



「……すい、ません」



なのに、なんで席から降りるんだよ。



「キャンセルということで?」

「……はい」



なんで、こんなことを言うんだ。



「承知しました。お代は結構ですので」

「……ごめんなさい」


「いえ。お気をつけてお帰り下さい」




俺は――!


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― 新着の感想 ―
なろうの小説よんで泣くとおもわなかった。
美容師の電話の相手は…?
家族とちゃんと話し合って欲しい……。
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