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安価で俺は変わろうと思う  作者: aaa168(スリーエー)
控えめのピースサイン
135/166

童話


朝、違う香り。

変わらないのは日射しと、5を指す腕時計だけだ。


こんな状況で、俺の体内時計は案外優秀らしい。

しかしながら、俺の耳はどこかイカれてしまったらしい。



《――「おはよ、はじめにー……」――》



こんなことはありえない。

過去、幼い彼女の声が聞こえてくる。

小学生に満たない、俺達の記憶。


夢? いや、違う。

この温もりは現実だ。

でもありえない、なんで?


……よく考えろ。

彼女はアメリカにいる。

そして、今この部屋は――



「俺、如月さんの家で一夜を……(激遅)」



呟いて気付く。この異常事態に。

で、それを踏まえて。



いちにー(・・・・)……」



横のこの温もりは、果たして現実なのだろうか(懲役)。


……いつの間に? 

朝5時だぞ?

え、俺マジで捕まらない?

今までは昼寝とかで言い訳できたけど、今もう一夜越えて朝だぞ。

太陽さん、一線超えてますよ(言ってる場合じゃない)――



――ピコン!



「!?!?!?」



け、警察か――なんて思ってマジで焦った。

そんなわけないんだけど。

警察とLIME交換してたら色々おかしい。常習犯かよって(笑)。


……。


目元にやると、その宛先には見知った名前。

警察よりも怖いお方かもしれない。




リオ☆『とーまち、今なにしてんのー?』




「っ――!」



このタイミング。

この状況で、このメッセージ。


朝5時だぞ?

彼女は俺の全てを掌握しょうあくしていた……?


いや、落ち着け。

そんなわけないんだ。

いくら魔王だとしても――!



東町一『おはようございます。俺はさっき起きた所です。柊さんは如何いかがお過ごしでしょうか』

リオ☆『おーやっぱりおきてた☆ おはよ、リオはおしごと前の待機なう!』


リオ☆『で』

リオ☆『とーまち、今如月さんの家?』



「ッ……!?」



なんでだ? なんでバレた? 

いやバレたって何だ別にやましいことはしてない(必死)。



「いちにー……」

「……」



してるかも(自首)。




リオ☆『もしかしてマジで当たっちゃった?』

リオ☆『テスト後も集まってたし、ダンス発表会のあとも家で遊ぶのかなーって。で、そのまま?』


リオ☆『あっこれマジっぽいね! リオすごーい☆ 名探偵!』



俺ができるのは、既読を付けることのみ。

そして、丸裸にされるだけ。


「……り、リオすごーい(無礼)……」


もう隠すなんて無理である。



東町一『今日も良い天気だね』

リオ☆『今日のこと、また聞かせてね☆』

東町一『はい……』

リオ☆『別にやましいことは無いんでしょ?』



東町一『はい』

リオ☆『あるんだ☆』



「あ、あ……」


メッセージ上ですら全てを暴く彼女の目の前には、もう成すすべなし。


……いや、逆に考えよう。

そんな彼女に教えをえば良いのでは。


家族来日の為。

全てを知りえる(そんなことはない)彼女になら。



東町一『ところで、また相談のって欲しいんだけど月曜良いかな』

リオ☆『わお☆ 責任のとり方?』

東町一『違います』

リオ☆『はや!』

リオ☆『相談お待ちしてまーす☆ じゃあお仕事行ってくるね!』

東町一『行ってらっしゃいませ』



「……」


嵐のような五分間。

なんだかんだ、優しいよね柊さんは。


怖いけど。怖いけど(大事な事なので二回)。

あれだ。小説でバカ強い敵だけど味方になると頼もしいキャラ。


……さて。

将来への希望が少し見えたところで、現在の解決を図るとしよう。



「……」



もぞもぞ動く天使(5)は、俺の腕を掴んでいて。



「パパ……」

「パパじゃないよ(早口)」

「♪」

「パパじゃないよ(必死)」

「ぱ――」

「やめ――」

「ぱすた……」

「……」



こんなんもしかのんパパ(失礼)に見られたら殴られるだろうね。

つーか、出禁だ出禁。



「かのんさん(5)離れて……」

「やー、またパパいっちゃうもん……」

「え」



腕を掴んだまま、かのんちゃんは寝言でそう呟く。



《――「パパの部屋全然使ってないから」――》



思い出す、微かに聞こえた如月さんの声。

……もしかして出張とかであんまり家に居ないのだろうか。


なんとなく腑に落ちた。

小さな彼女が、どうしてここまで俺に懐いてくれたのか。


始まりはもちろん、この髪色だっただろうけどね。



「……」



気持ちは分かるんだ。

俺も、小さい頃は親が忙しかったから。

流石に母親は面倒見てくれたけど、父親はあまり家に居なかった。


……その姿が、遠い記憶と重なる。


二奈の小さい頃。

寂しがる彼女になら、俺はまだ“兄”で居られて――



「……んぅ……あ。いちにーだ……おはよ、いちにー」



もぞもぞ動いたと思ったら、寝ぼけまなこをこする彼女。

さっきの寝言があったせいか、いつもよりも小さく見える。


そりゃ……五歳の女の子だから当然なんだけどさ。



「ごめんね、起こしちゃったかな」

「んん……」


「もうちょっと、おやすみしてたら良いよ」

「……うー……」

「ねむれない?」



なんか寂しそうだ。

こういう時――大昔の俺は――



《――「はじめにー……」――》



重なった妹とかのんちゃんが、遠い底からそれを引き出す。



「……お」



俺が居る、彼女の父親の部屋。

ビジネス本や少し古い小説、資格勉強の本……いかにも大人な本棚の中に、違和感を放つそれがあった。


『うさぎとかめ』。

誰でも知ってる童話の絵本だ。



「それ、いちにーもよんでくれる?」

「えっ勝手にとって良いのかな――」

「――よんで!」

「ま、まあ良いか……じゃあおいで」

「ん!」



敷布団の上に座って、かのんちゃんは当然のように俺の胡坐(あぐら)の上に座った。

不思議と――この絵本が過去を思い出させてくれる。


幼少の記憶よりも、ずいぶん景色は高くなったもんだ。



「昔々、いじわるなうさぎさんが――」





「――そしてうさぎさんが見たのは、山のふもとで喜ぶかめさんの姿でした」

「……」


「おしまいおしまい……かのんちゃん?」



意外にも、かのんちゃんはずっと静かだった。

俺の前でじっと座って――



「うさぎさん!」

「えっ」

「ねなかったら、かってた!」

「そ、そうだね(困惑)」



びっくりした。

どうやら話に不満があったらしい。


いや、全くその通りだ。

何してんだよこの兎(童話にキレる男)。

マラソン中に寝るヤツが居るかよおい! 周囲の目とかあっただろ(マジレス)。



「かめさん可愛くないし」

「えぇ……」



こんなところでもルックスの差が。

まあでも、この勝利を確信した亀の顔はちょっとキモ……いややめておこう。


この童話が伝えたい事は単純明快。

油断大敵、それに尽きる。


だが、それを知る前に彼女の好みという問題が立ちはだかる(?)。



「かのん、可愛いうさぎさんがいい」

「!」


「って言ったら、パパこまっちゃった」

「はは……やっぱり二回目なんだこのお話」



《――「にな、うさぎさんのほうがいい」――》



駄々をこねるかのんちゃんの声が、遠い昔に重なる。

きっとあの時と同じように、俺は目の前の少女の頭を撫でながら口を開いた。



「かのんちゃんの言う通り、もしこのうさぎさんが途中寝ずにいたら……かめさんなんてぶっちぎって勝ってたよね」

「うん……でも。それじゃかめさんがかわいそう」



控えめな反応がまた懐かしい。

そうだ。これは童話の――物語の全否定だ。


そんな真面目な兎なら、悪戯に亀を否定して、足の遅さなんて馬鹿にする訳がない。そもそもかけっこなんて始まらない。

争いなんて、生まれるわけがないのだ。



「じゃあ、かのんちゃんは頑張るうさぎさんになると良いよ」

「……?」

「困る亀さんをおんぶしても走れるような。そんな兎さんにかのんちゃんはなって欲しいんだ」



我ながら、ずいぶんと綺麗事を並べたもんだ。だが大昔の俺も、同じようなことを言っていた気がする。



「――うん!」



その笑顔も、いつかの二奈に重なる。

また俺は、かのんちゃんの頭を撫でた。

気持ち良さそうな彼女に、また癒やされた。


今、アメリカは夜だろうか?

今、彼女はどんな風に過ごしているのだろうか。


……今じゃ俺を置いてけぼりな妹も、こんな時期があったんだよなと浸りながら。



「いちにー、うたうたお!」

「えっ」


「もしもしかめよー♪」

「も、しもしも(音痴)」



足をパタパタしながら歌う彼女。

はは、もうちょっと二奈は静かだったかな。

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