表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
安価で俺は変わろうと思う  作者: aaa168(スリーエー)
一人っきりのダンスフロア
120/166

柊莉緒は知っている。


柊莉緒は知っている。

二年の中では、もはや彼を知らない者はほとんど居ない。

虹色の髪に、学年一の美女と対等に話す。

バスケ部のエースとも、沈黙の生徒会図書委員と仲良さげなのも。


学年一位の成績に、流れる怪しげな“噂”。

また如何せん学校の態度が“良すぎる”せいで、踏み込むに踏み込めない。


問題行動はゼロ。むしろ模範的生徒だ。

なのに虹色。

生徒会風紀委員を悩ませて、職員室では彼に関わる意見の対立がよく起こっている。


題材は『髪色』。『授業態度』。『不審な行動』。『成績』。『異様な交友関係』。

『怪しげな私生活』。


数え出したらキリがない。

話題に尽きない男。



(それで、今のダンスも追加だ)



今この体育館は、異様な雰囲気に包まれていた。



《――♪――》



流れる音楽と踊る彼。


それ以外のものが存在しないと思えるほど、皆が固唾かたずを飲んで目の前のショーを眺めている。



(苺なんて、泣いちゃってるし……)



男泣きならぬ女泣き——壇上を見上げたまま、声を出さず涙を流す夢咲を見て柊は笑った。

自分の渡した曲をここまで愛してくれて、完璧に踊られたらこんなにもなるのだろうか、と。

柊ですらあまり見たことのなかった、彼女の表情だった。



《♪——》



楽しそうに、今を噛み締める様に彼は踊る。

そして初めて、彼は大きな音を立て——地面を蹴った。



“黙って全員俺を見ろ”——そんな意思を感じる、彼のイメージとは真逆のオーラが。



「!!」



溢れて、瞬間。

ピタッと——逆さまになった彼がポーズを決めてその場で止まった。



(す、すご……)



柊ですら、鳥肌が立った。



《――――》



その静寂に、タイミング。

完璧な静止。

時間が止まったようにすら錯覚したのだ。



「はっ、はっ……――」



壇上。

音楽は止んで、彼の吐息だけが生徒達に聞こえる場内。


こんなにも遠いのに。

すぐそこに居るかの様に響く事が――ココがどれ程に静かなのだと分かる。



「……」「……」「……」



先生すら、声を上げる事が出来ていない。

どれほど練習したのか分からない。

彼の才能か、彼の努力か。その両方か。



「……いっ、以上です……」



静まり返ったステージで、彼は過呼吸を抑えながら壇上を降りようとする。


思わず立ち上がっている女子生徒の存在に、彼は全く気付いていない。


横で号泣する夢咲にも。

静寂が解かれようとする、この雰囲気にも。

まるで世界が変わるような――



——「す、すげー!!」「ヤバイって」「どうなってんだよ今の!」――



そして今。



「えっ」



湧き上がるこの会場に、彼はただただ驚いていた。



(見事にひっくり返ったなぁ……)



彼を巡っての“対立”。

敵は居るが、味方が居てこそのそれだ。


彼の友達はもちろん。

全ての男子が彼の事を嫌っている訳ではない。

図書室で必死に勉強する彼を、そこにいる生徒は知っていた。その努力でつかんだ一位だと。


根も葉もない噂に——疑問視する生徒達は少なからず居たのだ。

初音以外のバスケ部メンバーにも。生徒会の中にも。

今騒ぎたい生徒がほとんどではあるが。

きっと、もう“敵”でないのは確か。



(リオ、何もしなくて良かったじゃん!)



広まった怪しい噂。

クラブ通いの女遊び常習犯。

根も葉もない噂を、おもしろ半分で信じていた生徒達を。


この場の生徒達を——“ひっくり返す”には十分過ぎるモノだった。



(本当に、面白い)



柊莉緒は知っている。

彼を取り巻く環境を。


……しかしながら。



(この後とーまちに何て話しかけよう……って、あれ?)



湧き上がる観客の中。

珍しくも彼女は、悩んでいた。


その違和感に遅れて気付く。

会話に迷った事など、ほとんどないというのに。



(……リオ、なんか変だ)



柊莉緒は知りえない。

彼女の中――変わる彼への感情を。



そしてまた、一の今の状態を。



「とーまち……?」



その歓声が、彼にとって予想外過ぎた事。

静止技の集中から、息すら忘れていた事。

これまでの噂による心労と睡眠不足。

今日に関しては朝3時から一睡もせず、布団の中で悩み続けていた事も。



……この6月中旬の体育館内、上がり続けた温度の事も。




「——とーまち!!」




よって、それら全ての要素が合わさって。

たった今——壇上で彼が倒れることは、彼女ですら予想外だったのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
元のスペックがクソ高いのよねいっち。そのスペックすら潰す人見知りデバフを解除しようと足掻くのがかっけえ
安価で決めたとはいえ、全ての趣味を素人目に見てもしっかりできてるってレベルに仕上げてる男だ。 得意って言ってたダンスはそらもうダンス部顔負けレベルで極めてるだろうよ。 頑張ったないっち。
はたして誰が最初に駆け寄るか…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ